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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第4章 神聖エルガラン王国の影

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15話 アリエラとルビアス

 自身の口から飛び出した言葉に、アリエッタは耳を疑った。そしてその言葉を発したのはアリエッタの意思からではない。しかし、アリエッタ自身、自分の声で語った者の正体はよくわかっていた。


「…アリィ……私は一日としてキミの事を忘れたことはなかった」


「ルビィ…ごめんね、あたしがヘマしたせいで…」


「いや、キミを責めるなんて絶対にない。むしろ私はあの時他の方法を取れなかった自分自身が許せない」


 アリエラは哀しそうな顔でルチア…ルビアスを見やるが、どう声をかけていいのかわからないのか、お互いが無言のまま時間が経過していく。アリエッタにはアリエラの記憶はないが、その感情だけは共有しているのか、哀しいような、申し訳ないような複雑な感情が流れ込んできた。

 しばらくした後、その均衡を破ったのはアリエラだった。何かを思い出したのか弾かれたように顔を上げると慌てた様子で喋り始めた。


「ルビィ、ごめん!もっと話していたいけど、あたしには時間がないの!今は何も言わずにあたしと本気で手合わせして!お願い!!」


「…わかった。キミがそう望むなら」


 ルビアスはそれだけ言うと、アリエッタとの対戦も含めたそれまでの試合では一度も見せなかった構えを取る。浅く膝を折り、右手を前に体を少しひねって後ろでに左手で杖を持つ魔術師としては独特の体勢だ。


「色々とごめんね。それから、ありがとう」


 アリエラもルビアスに倣うように、氷刀を一旦水に還すと今度は刃渡りが二メートルに届こうかという巨大な氷剣を生成すると、腰を落として右手に持ったその氷剣をやや下向きに構えた。

 先に動いたのはアリエラだ。アリエッタのそれとは比べ物にならない精度で練られた魔力は、同じ魔力量であるにもかかわらずアリエッタではどう足掻いても出せない瞬発力を発揮させた。一瞬でルビアスの目の前まで移動すると、小手調べかのように上段から氷剣を振り下ろした。ルビアスもその攻撃をいとも簡単に右手に握った杖で受ける。一度も防御に杖を使わせなかったアリエッタとは随分な違いだ。


「ふふ、一度死してもその剣筋は鈍らない、いやそれ以上か?」


「どうやらこの子、元のあたしより魔力量多いみたい」


 アリエラもルビアスも喋りながらも戦いの手は休めない。先ほどのアリエッタとの戦いであれば観客も辛うじて残像を追えたが、この二人の戦いでは目で追うのすら難しくなっていた。影らしきものがぼんやりと動いているような気がする、そんなレベルで何が起こっているかすら理解できていないだろう。もはやそれは人間業ではなく、それまで歓声一色だった場内に響く声は徐々にどよめきの割合を増していった。


「天才と呼ばれたキミの剣技に無尽蔵の魔力か…末恐ろしい、な!」


 そんな場内の様子にはお構いなしにアリエラとルビアスは全力を持ってぶつかり合う。アリエラ渾身の切り上げをルビアスは紙一重でバックステップでかわすと、今度は逆に握った杖から蒼に近い炎をアリエラに投げつける。アリエラも息をするように左腕の障壁を強化して防御すると、最初は抵抗するかのように燻ぶっていた炎がやがて消える。


「あなたこそ、腕を上げたんじゃないの?」


 アリエラが再び上段から斬り下ろすと見せかけてわざと外し、胴の辺りを通過する時に高速で斬り返して横薙ぎに氷剣を振るう。アリエラのフェイントを読んでいたのか咄嗟に反応したのか、ルビアスも杖でその攻撃を防いだ。


「キミより三十年も長く生きてきたんだ、少しくらい熟練もするさ」


 アリエラとルビアスが壮絶な撃ち合いを続けている中、アリエラと感覚だけを共有しているアリエッタはアリエラのスキルに驚きを隠せなかった。本来、勘やコツといったものは自身で体験して失敗して修正してを繰り返して身に付いていくものだ。しかし、アリエラと感覚だけでなく意識も同調していたアリエッタには、アリエラが行動をする度にその情報が流れ込んできて自分のものにできてしまっていた。

 激しい攻防が十分ほど続いた頃になるとアリエッタは息苦しさを覚えた。実際に息切れしているわけでもなく呼吸が苦しいわけではないのだが、どこか苦しさを感じたのだ。


(はぁ、はぁ、はぁ…)


 頭の中にアリエラの荒い息遣いが響いてきてはじめて、アリエッタはその息苦しさをアリエラから共有されたものだと理解した。


「ルビィ、久しぶりにあなたと手合わせできて楽しかったわ。でも、もう時間がないみたい」


「…え?」


「次の一手が最後。いくわよ!」


 驚き戸惑うルビアス様子などお構いなく、アリエラは次の一手を繰り出すべく今までにないほど魔力を繊細に練りこんでいく。


(今から見せること、よく覚えておきなさい)


 アリエラは一方的にアリエッタに語りかけると、次の瞬間にはルビアスに最後の一撃を加えるべく、動き始めた。極限まで効率化された魔力はアリエッタの体を最大限強化し、そのスピードは常人には消えたと思わせるほどに至り、右手にみぎる氷剣を振り下ろせば、いくら魔力の高い者でも防ぐことは難しいだろう。そんなアリエラの最大の攻撃は防御するルビアスの杖をいとも簡単に切り裂き、その刃がルビアスを切り裂くかという、肩にかかる寸前で止まった。ルビアスの右手から放たれた青白い炎がカウンターでアリエラの腹部に命中していたからだ。ルビアスの魔法を受けたアリエラはその場に崩れ落ちると、手にした氷剣は水に還り地面を僅かに濡らした。


「はぁ、やっぱり…勝てなかったかぁ…最後くらい…勝たせてくれても…よかったのに」


「…またキミは私を一人にするのか!?」


 満身創痍といった様子のアリエラをルビアスが上半身だけ抱き上げると強い言葉でアリエラに詰め寄った。


「ごめんね。これも…この子が…いてくれたから…できた事。もう一度…あなた、とこうして…触れあえて…嬉しかった」


「やっとこうして再会できたんだ!もっと私のそばにいてくれ!!」


「わがまま…言わないの。あたしは…もう死んじゃってる…から、こうしてるだけ…でも…奇跡なんだ…から」


「嫌だ!!もう一人は嫌なんだ!!」


「ホント…ごめん…ね。でも…また…すぐ…逢える…わ。ルビィ…愛してる…」


 アリエラがそこまで言うと、徐々にアリエラの気配が薄れていき、少しづつだがアリエッタに体を動かす感覚が戻ってくる。それと同時に強烈な眠気が襲ってくる。アリエラがアリエッタの体の魔力を使い過ぎたのが原因だろう。その睡魔に抗うのは難しく、徐々に意識が薄れていき、やがて勝敗が決したアナウンスとルビアスの慟哭をどこか遠くに聞きながら、アリエッタの意識は闇に飲み込まれていった。

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