13話 黒装束の者たち
PVアップを狙って投稿時間を変えたんですが、あまり効果がなかった、というよりむしろマイナスだったので戻しました…。
アリエッタは宿の部屋の中でぐったりしていた。全力にはまだ遠いが、それでもここまで魔力を消費して戦闘したのはガリオルと戦って以来の事だけに疲労感もそれなりに強い。それでも翌日に準決勝もう一試合が開催されると、一日休養日を挟んでさらにその翌日が決勝だ。つまりアリエッタにとって中二日の休みがある事になる。
「アリィ、お疲れ様」
「うん、ホントに疲れたぁ…」
アリエッタはそう言うと、綺麗にベッドメイクされたシーツの上へ腹這いにダイブする。
「あう~」
何故かリフィミィもアリエッタにならってアリエッタの背中にダイブした。四歳程度の子どもにダイブされたところで痛くはないのだが、それなりの圧迫感は感じる。
「リフィ…重いよ…」
「むふぅ~」
アリエッタの言葉は事実であったが本気でもない。リフィミィもそれを知ってか知らずか特に気にした様子は見せず、嬉しそうにアリエッタの背中に抱きついていた。
「ねぇ、エメラ」
「ん?」
「今日の相手さ…ネマイラ襲撃してきた集団と同じ格好だったよね?」
初めてアグールの話をガリオルから聞いたときにアリエッタの中でずっと引っ掛かっていた、思い出せそうで思い出せない事。それをアグールを相手にした事ではっきりと思い出した。
ネマイラ襲撃の一団とアグールの黒装束、そして魔族の障壁すら打ち破ってくる武器。あの時、仲間の一人を失った場面は今でも鮮明に覚えている。あの時、油断していて急場凌ぎだったはいえ、確かに仲間の一部は障壁を破られていたのをはっきりと思い出せる。その情報からただちにアグールをネマイラ襲撃の一団の関係者と見るには早計だが、一切無関係だともアリエッタには思えなかった。
「…そうね。格好だけじゃなくて障壁抜いてくる武器もね。アリィの障壁を人間が抜いてくるなんてハッキリ言って異常だから」
攻撃を受ける場所を特定してその部分の障壁を意図的に厚くするといった瞬時のコントロールまでは今のアリエッタはでは不可能だ。それでも魔族屈指の魔力を持つアリエッタの障壁を人間族が抜いてくるなど、そうそう有り得る事ではない。使われていた武器には使用者の魔力を超高圧縮させる仕掛けが施されていると考えたほうがよさそうだ。そうなると、そこまで高性能な武器をそれぞれ別の場所で作っていると考える事もできないことはないが可能性は低く、出所が同じと考えても不自然にならない。
「イルダイン公国…」
「うん、多分…」
その名前は三十年前にネマイラを襲った国の名前であり、確証はないがアリエッタがアリスフィアに来てから受けた襲撃を主導したと疑っている国でもあった。
「はぁ…帝国はいい国だったけど、人間族の国もそれぞれだねぇ」
同じ民族とは言っても、元が同じ人間族と魔族で相当な隔たりがあるのだ。今でも同じ人間族の中でもわりと他民族に対して融和的なサーフィト帝国、干渉もしないが入りも厳しいエルガラン王国、侵略という極端に接触方法を取ってきたイルダイン公国と様々で統一性がないのは当然のことかもしれない。
「同じ思想の元で動けてる魔族や竜人族の方が異常なのかもしれないわね」
アリエッタが地球にいた頃も同じ人類で絶えずいがみ合っているのを、規模の大小はあっても散々見てきた。そういった争いのない魔族や竜人族はそういった思想の持ち方を見ても優秀な民族なのかもしれなかった。
「…参った。降参だ」
アリエッタが準決勝を辛くも勝ち上がった翌日、もう片方の準決勝がルチアとガリオルの対戦で行われていた。
涼しい表情のルチアが、小さくともその輝きは大きいナイフを玉のような汗を顔に浮かべるガリオルの喉元に押し当てていた。
開始わずか一分での出来事だった。
「さすがは竜人族だね。人間族なんかでは相手にならないのも頷けるよ」
ルチアはまったく温かみのない笑顔を見せると、ガリオルにしか聞こえないような声で呟く様に囁いた。




