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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第4章 神聖エルガラン王国の影
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6話 闘技会の誘い

「ナニコレ?」


 アリエッタはガリオルの意図をほぼ理解しつつも、一応聞いてみる。


「闘技会の開催案内じゃねーか。腕が鳴るぜぇ!!」


 その言葉でアリエッタもエメラもすべてを察した。いや薄々察してはいたが、あえて聞いてみて予想通りだったというべきか。

 ガリオルは闘技会に出る気なのだ。参加者が一般公募の闘技会であれば、戦闘狂であるガリオルが出ないという選択肢など取る筈がない。ある意味で予想通りといえるガリオルの行動にアリエッタとエメラは二人揃って溜息をつく。


「人間族同士だったらたいして興味無かったんだがよ、前回優勝者がとんでもない強さだったらしくてな。魔術師みたいなんだが、人間離れした魔力の持ち主だったんだとよ」


 ガリオルのとある言葉にアリエッタとエメラが反応した。


「人間族離れした魔力の魔術師って…!」


「うん!可能性はあるわ!」


 いつもはろくでもない情報ばかりを持ってくるガリオルだが、今回ばかりはなかなか有力な情報を持ってきたといえる。アリエッタにとって暗闇の中に小さな光が灯ったような気持ちだった。


「ガリオル、その話もっと詳しく!」


「お?おぅ…」


 ここまで勢いよく食いついてくるとは思っていなかったのか、ガリオルは少し引き気味になりながらも淡々と仕入れてきた情報を話し始めた。


 王国内で開催される闘技会は王国広しと言えどもここオーヴィレンと王都ガラングライトの二箇所だけだ。開催は交互に行われ、前回大会が王都で昨年行われたたため、今年はオーヴィレン開催の年なのだとか。例年参加希望者は二百人前後で、予選として十四にグループ分けされた中から代表が選出され、シードされた前回大会優勝者と準優勝者を加えた十六人でトーナメント方式によって争われるらしい。真剣、実弾なんでもありの実戦形式で毎年三割から四割はそのまま死亡するという、見方によっては野蛮で苛烈な催しのようだ。

 しかし、前回優勝の魔術師は誰一人として殺すことなく、余裕の優勝だったそうだ。実力が拮抗すればするほど相手の生死になど気にしていられなくなるが、逆に実力差が大きければ生かすも殺すも如何様にもできるということの裏返しだ。恐らく、それくらい実力差があっての優勝だったのだろう。


「んで、前回王都大会優勝の魔術師と準優勝の騎士団長は出てくるみたいだな。って言うより前回のファイナリストは出場義務があるらしいぞ」


 ガリオルはそこまで話したところで話を締めくくる。


「なるほどね。なんとか前回優勝者と接触できないかなぁ…」


「簡単な方法があるじゃねーか」


 ガリオルはそう返すとニヤリと口を歪める。


「簡単?どうするの?」


「お前も闘技会に出ればいい。んでソイツと当たるまで勝ち進めりゃぁいいだけだ。簡単だろ?」


 簡単と言われてしまえば簡単だ。アリエッタの実力はネマイラでも折り紙付きであり、一対一であれば人間族相手に遅れを取る事は考えづらかった。それでも平和ボケした日本で生まれ育ったアリエッタにとって、人に対してその力を振るう事に対しては小さくない抵抗感があった。そして場合によっては相手を殺してしまう可能性も考えれば、その思いは尚更だった。


「…できれば僕は出たくない」


「ヤレヤレだぜ、こいつは。それなら別の方法考えんだな」


 煮え切らないアリエッタの態度に、ガリオルは突き放すように言った。ガリオルにお願いすればいいとアリエッタは軽く考えていた節もあったが、ガリオルの態度からあっさりと否定されたようなものだ。ガリオルはアリエッタとエメラにとって同行者ではあるものの協力者ではない。ガリオルからしてもそこまでしてやる義理はない。アリエッタはそれがわかっているからそれ以上は追求しない。


「あなたが接触計ってくれてもいいんじゃない?」


「ダメなんだよ」


「なんでよ!」


「大の男嫌いなんだと。オレじゃぁ、話すら聞いてくれねー可能性が高いんだよ」


 結局やらないのではなく、できないというのがガリオルの結論だ。何もめんどくさがって拒否していたわけではなく、当初は協力するつもりだったのかもしれない。


「あ…ごめんなさい…」


 珍しくムキになっていたエメラも、ガリオルの言葉を聞くと一方的な事を言っていたことに気付いて謝罪した。


「まぁ、アリエッタが出ねぇってんならやるだけやってみるけどよ、期待はすんなよ」


 ガリオルの言う事が事実で、前回大会優勝者の魔術師に確実に接触したいと考えれば、ガリオル頼みにするには不確定要素が大き過ぎる。闘技会に出場すればかなりの確率でその魔術師に接触をする事ができるだろうが、こちらも確実ではない上に怪我や死というリスクが付き纏う。怪我はともかくアリエッタ自身が死んでしまえば蘇生できる者がいないため、可能性の高低は抜きにすれば死は最上級のリスクとなる。


「それならあたしが出る」


 渋々といった様子でエメラが名乗りを上げた。確かに最悪死んでしまってもアリエッタが残っていれば蘇生させる事は可能だ。本当に最悪の場合を想定るするのであれば、消去法でエメラが出場するのが最良だと言える。

 しかし、だからと言ってアリエッタがそれで納得するかといえば、答えはノーだ。


「えぇ!?エメラが出るくらいなら僕が出るよ!?」


 アリエッタ個人の希望で旅に出たのに、エメラには付いてきてくれた。それだけでもアリエッタが引け目を感じるのに十分な要素であるにもかかわらず、さらに身の危険を冒してまで闘技会に出させるなどできようはずもない。


「アリィが出るよりあたしが出たほうが、万が一の時安心だからいいの」


「ダメダメ!それだけは絶対ダメ!エメラを出させるくらいなら別の方法考える!」


 結局、お互いが同じような事を考えていたのだろう。心配だから相手を闘技会には出したくない、傷付くところを見たくない、そして万が一があってはならない、そんなお互いの想いが透けて見えた。


「取り込み中のところわりーんだがよ、前回準優勝の騎士団長ですら多分おまえらの相手にはなんねーぜ」


「つまりは僕たちが出ても大怪我したり死んじゃったりってリスクは限りなく低いってこと?」


「まぁ、所詮は魔力量の低い人間族の運動会だって事だ」


 人間族を小馬鹿にしたようなガリオルの物言いだが、人間族の個人としての戦闘力は魔族や竜人族に大きく劣るのは動かしようのない客観的な事実だ。


「やっぱり僕が出るよ」


 少し考える素振りを見せた後、アリエッタははっきりとそう口にした。

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