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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ
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5話 異世界の街ネマイラ

 食後は消化器に血液が回る影響で眠くなる。それはこちらの世界でも共通なんだな。エメラが昼食の後片付けをしているのを待ちながら、礼はそう思いながらうつらうつらしていた。


「お昼寝してていいのよ」


 エメラにはそう声をかけられるが、さすがに後片付けを一人でさせておいて一人だけ昼寝などもっての外だと礼は思い、必死に睡魔に抗い続ける。


「朝の話の続き…をするのは無理そうね」


 礼の眠そうな顔を見て、エメラは真面目な話はできそうにないと判断する。


「いえ…大丈夫れす」


「無理しないでお昼寝すればいいのに。添い寝してあげよっか?」


 礼はエメラのその言葉を聞いて逆にシャキッとする。エメラのように綺麗な女性に添い寝などされた日には興奮して逆に目が冴えてしまう自信が礼にはあった。

 そんな様子の礼にエメラの目つきが少し険しくなる。


「あたしの添い寝が嫌だってこと?」


 不機嫌そうに言うエメラの様子に礼は慌てて言い訳をする。


「エメラさんみたいな綺麗な人に添い寝なんてされたら逆に寝れません!」


「何よそれ」


 エメラは目の前の誰よりも可愛らしい容姿の礼に逆にそんな事を言われた事に奇妙な違和感を感じつつも、男の子みたいな事を言うのね、と慌てている礼の様子に微笑ましくも同時に可笑しくなる。


「それじゃ、朝の続きの話をしよっか」


 眠気の飛んだ礼の様子に、朝の話をしてもよさそうだと判断したエメラはそう切り出した。話が脱線しすぎて、実はほとんど話が進んでいないのだ。


(名前は特に訂正しなくてもいいかな)


 礼は不思議とそう思った。なぜそんな呼び名になったか礼は知らないが"アリエッタ"という名前がどこか懐かしく感じ、そしてしっくり来る。だから、あえて訂正する気になれなかった。

 少し考えてから、そう結論付けた礼は、流れの通りの話をする。


「はい。とりあえず気付いたことですけど、もしからしたら僕はこの世界の住人ではないかもしれません」


 午前中に色んなものに触れて礼が出した結論を正直に話す。実際には「かも」という疑問ではなく、礼の中ではほぼ間違いないと断定しているが、最初から断定で話すのは少し気が引けた。


「現実離れしているけど、あなたの今までの言動を見てると嘘とも言い切れないのよね」


 自分が魔族でありながら魔族を知らない、果ては魔力の存在すら知らないという礼は異常な存在であることはエメラも感じていた。しかしそれが異世界からの来訪者と取ると途端に現実感がなくなる。エメラにとっても世界間の移動というのはそれくらいあり得ないことだった。まだ、見たこともないような生命体が目の前に現れれば信じられたかもしれないが、異世界から来たと語るのは自分と同じ魔族の少女だ。エメラが信じられない理由もそこにあった。


「僕もよくわかりません」


 ある意味一番訳がわからない思いをしているのは礼かもしれなかった。自分の常識ではあり得ない出来事が起こって、確実に死んだと思ったら生きていて、しかも魔族とか呼ばれるよくわからない種族の女になっている。極めつけは魔法の存在に知らない世界だ。正気を保っているのが奇跡だと言ってもいいくらいだった。

 そんな複雑な感情を宿した憂いの表情を見せる礼が適当な嘘をついてるとは、エメラはどうしても思えなかった。それと同時にどこかでそんな表情をした友人を見たことがあるような、そんな不思議な錯覚を覚えた。しかし、そんな事はあり得ないと、考えていた事を強引に頭の隅に追いやる。


「わかった。あなたの事、信じる」


 それは礼への同情もあったかもしれない。しかしそれだけではなく、ハッキリとはしないが何か信じてもいいような、そんな不思議な思いをエメラが抱いた事も大きかった。


「ありがとうございます。信じてくれる人が一人でもいてくれて気持ちが軽くなりました」


 社交辞令ではない偽らざる礼の本音だった。友人、知人が誰もいない中、信じられないような礼の話を信じてくれた事は、礼の心を随分と明るいものにしたのだ。

 しかし、問題はそこだけではない。


「それと、一人くらい余裕だからウチにいるのは全然いいけど、これからどうするかは徐々に考えたほうがいいわ」


 このままこの世界で生きていくのであれば、生きていくための家はもちろんの事、糧を得る手段も確保しなければならない。過保護な現代日本であっても十八歳ともなると法律上は成人とは見なされないとはいえ、徐々に本人の意識も周囲の目も大人としての思考や行動といったものを求められるようになってくる。当然のように礼もエメラが指摘してきた事について気付いていないわけではない。しかし、この世界の情勢や習慣等わからない事だらけという事もあるが、それ以上に自分の変化の激しさについていけず、考える余裕もなければ、考えたくもないと思っている部分も多分にあった。


「はい、そうですね…」


「あなたが良ければずっといてもいいからね」


 礼は、どうしてここまでしてくれるのだろうと思ったところで、ふと気になった事を聞いてみた。


「ところで、エメラさんは何をしている人なんですか?」


 やはり、食べていくうえで職業事情というのは知っておくべきだ。その取っ掛かりで一番身近な人に聞いてみたのだ。


「あたしはこの街の護衛みたいなものかな」


「一人でですか?」


「まさか。数百人で持ち回りよ」


 礼はここに来てからエメラの働いている姿を見ていない。という事は毎日働かなくても十分に生活できるほどの対価をもらえているか、礼がいる事によって迷惑をかけてしまっているかだ。


「もしかして、僕がいる事で仕事に影響出てたりしませんか…?」


「あぁ、そこは大丈夫。基本的には何もなければこの街に滞在する事が仕事だから」


 礼はその言葉だけでは意味がわからなかったが、続く言葉で納得すると同時に驚いた。


「要は、何かしら街に害をなすもの、例えばモンスターとか人間族の襲撃があった時に街を守るのが主な仕事って事」


 礼の常識と照らし合わせれば、言わば職業軍人だ。世界の常識が違うとはいえ、こんな若くて可憐な女性が軍人と聞かされれば礼としては驚かずにはいられなかった。


「護衛の仕事って、この世界では一般的なんですか?」


「ん~、それなりに魔力が高くないとできないから人は選ぶけど、わりとなりたい人は多いかな」


 少なくとも礼の世界では軍人になりたがる人は少なかった。そういった面でも世界の常識が違う事を痛感する礼だった。


「とりあえずは、何もわからないしこれからの事も何も考えてない、って事でいいのね?」


「はい、そうなりますね」


「仕方ない事なんだから、そんな思いつめた顔しないの」


 礼はエメラに対して申し訳なさでいっぱいだった。エメラの収入がどの程度の水準かわからないが、少なくとも程度の差こそあれ穀潰しであることには変わりない、そう思ってしまうからだ。


「でも、僕がいると食費もかかるし、エメラさんの負担にもなるだろうし…」


「そんなの気にしなくていいのに。実はあなたのこと丸っきり赤の他人には見えないの。だから放っておけないというか、とにかくあたしのやりたいようにやってるだけだから気にしないで」


 エメラの言葉がどこまで本音かは礼にはわからないが、少なくともすべてを真に受けるほど神経が太くはなかった。戸惑った表情を浮かべる礼に再びエメラが声をかける。


「はぁ…そこまで気にするなら、こうしよう。しばらくはあたしの仕事手伝ってくれればいいわ」


 手伝うといっても街が平和であれば何もすることがない。


「何もないときは一緒にのんびりしましょ、アリエッタ」


 つまりはそういう事なのだ。実際エメラ自身、仕事といってもほぼする事がない。極稀に街に迷い込んだモンスターを駆除する程度なのだ。

 しかし、この時の約束が少し先になって二人の運命を変える事になるとは当人達も予想だにしていなかった。

食後眠くなるのは血糖値が上がるせいらしいです。

血の巡りのところも実際にはあるような話も聞きますが実際どうなんでしょう。

その辺のリアリティーは無視なので調べてなかったり…。

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