9話 帝都フィルブト
最東端の街フレブルを出て約1ヶ月が経過する頃、帝国の首都フィルブトが見据えられる場所まで到達した。
経由した街や町は十を越え、フレブルから請け始めたモンスター討伐も経由した街の数を軽く越える。しかし最初に請けたレオートの討伐以来Aランクの依頼はない。元々人間族のテリトリーには強力なモンスターが出現すること自体が稀だ。特にレオートクラスになると災害レベルとなり、大々的に討伐隊が組まれることも珍しくない。実際レオートはSランク相当だった事もあって参考外ではあるが、Aランクでもかなり大騒ぎになるレベルで、実際にそんなレベルの討伐依頼が頻繁にあるわけもない。Cランクがほとんどで、いいところたまにBランクという程度だ。
そんな中でも、実際に戦ってみるとAランクに近いだろうと思われるモンスターも数匹含まれていた。その全てではないが、頻繁に魔族を目撃したという情報を得ていた。逆に魔族を見たという情報のあった町ではかなりの確率でAランクに近い強さのモンスターの討伐を行っていた。いよいよアリエッタの立てた仮説の信憑性が高まってきた。
「結局フィルブトまで来たけど、今のところ新しい情報はないわね」
「うん…。でも帝国一番の都市だし、フィルブトに期待はしてるよ」
魔族を見たという情報だけはポツリポツリと入っていたが、依然としてどういった容姿なのか、男性なのか女性なのか、年齢は、等の詳細な情報だけは得られていないままだ。どういったわけか、目撃情報はあれども詳細な見た目を見た者がいないのだ。
そういった点からは、なかなかハッキリと姿を見せないようにしている同一人物、という見方もできなくはないといったところか。
「まち、みえてきた!」
人一倍目の良いリフィミィが目的地の街並みを見つけるが一番早いのはいつもの事だ。今回も例に漏れず、フィルブトをいち早く見つけて口を開いた。
「ついに着いたね」
「あう!ごはんたのしみ!」
リフィミィの食欲は底知れず、楽しみの大部分は食事とアリエッタとの触れ合いだ。アリエッタとしては友達がいない事を不憫にも思うが、今の自分の置かれている状況とリフィミィの特殊性を考慮すると難しいと判断せざるを得ない。
その後十分ほどオオトカゲを走らせたところでフィルブトの外壁の入り口に到着する。
アリエッタは地球にいた時の知識から、サバンナの国というとアンコールワットのような東洋的なものを勝手に想像していたが、実際には中世ヨーロッパを思わせる建築様式なのは以外にもセヴィーグと同じであった。しかし、帝都というだけあって、その外壁の大きさ、高さはそれまで見てきたどんな壁よりも高く、強固な造りになっていた。悠に三十メートルは超えるそれは、いざ戦になればそう簡単に越える事などできず、強引に突破するには多大な犠牲が伴うであろう事が容易に想像できる。
門兵による検問を終えて外壁をくぐると、そこには広大はスペースを有した巨大な都市が広がっていた。その規模はネマイラよりも大きく、人間族の中でも指折りの国家の首都である事を誇るかのようであった。
「ふわぁぁ!おっきぃー!」
この規模の都市を見た事のないエレアはしきりに驚いて、目を輝かせていた。ネマイラを知っているアリエッタとエメラ、年長者のガリオルは然程驚いた様子は見せなかったが、整然と並んだ街並みは美しく、その壮麗さには感嘆の念を抱いていた。
「綺麗な街並みね」
「うん、ネマイラやスレヴィにはない街並みだね」
「人間たちは無駄に綺麗に並べるのが好きなのか?」
「綺麗なのは無駄な事じゃないでしょ!」
感心しながらも無粋な物言いのガリオルには、少し批判的な色を含んだエメラの言葉が飛ぶと、言い返せないのがガリオルは口篭ってしまった。
街の中に入ると、すでにいい時間になっており、辺りを橙色の日の光が照らし出し、夕暮れが近づいている事を告げていた。アリエッタたち一行は、その日の具体的な活動はしない事にして、宿探しを始めた。
しかし、この日は運が悪く中級の宿はすべて埋まっていて、残っているのは治安の怪しい安宿と、一泊の値段が通常の五泊分もするような高級宿しか空いていなかった。ここ最近のモンスター討伐による収入は決して多くなく、宿泊費用も貯金を切り崩しているような状況だった。そんな懐事情の中、更なる出費は避けたいと、この日は安宿に泊まる事にした。そして、この決断がちょっとした事件を発生させる事になった。




