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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第3章 サバンナの中のサーフィト帝国
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3話 今後の指針

 アリエッタ達はフレブルの宿泊している宿に併設された食堂で、少し遅めの朝食を取っていた。

 前の晩はタダ酒だと調子に乗ったガリオルが水のようにがぶ飲みしたせいで、今日はまだ部屋のベッドで二日酔いの苦しみに唸っているだろう。自業自得ではあるが、さすがに放置するほどアリエッタもエメラも冷たくはなかった。一通りお世話をして、一段楽したところで食事に来たというわけだ。

 メニューはパンにスクランブルエッグ、ハムにサラダという日本人にも馴染みのシンプルなものだ。しかし、味付けという点に関してはかなり味気ない。スクランブルエッグは調味料が塩だけだし、サラダに至っては切って混ぜただけで味付けそのものがない。やはり食という点においては魔族は人間族よりも拘りも強いし、それを実現するだけの豊かさがあるという事だ。


「アリ!おいし!」


 グー握りでフォークを持ち、そのフォークに料理を刺して口に運ぶリフィミィの様はいつ見ても愛らしく、同じ歳くらいの人の子と比較してもなんら変わりがない。


「そうだね」


 とアリエッタも優しく笑顔で返し、口の周りに付いた食べかすを拭ってやる。


『アリエッタ、お母さんみたーい』


 エレアがそう言って笑うと、アリエッタが慌て始めた。アリエッタとしては兄のような感覚で接しているつもりで、醸し出している雰囲気はまさに「お母さん」だ。そもそも見た目が女で「兄」と考える時点で無理があるのだが、アリエッタはその辺にまったく気付いていない。


「エレア…僕はそんなんじゃないよ」


『でも、そうとしか見えないんだもん』


 アリエッタは否定するが、その言葉は弱く説得力もない。むしろエレアの方が堂々としていて、状況を他人が聞けば大方エレアの言葉を支持する事だろう。エレアはアリエッタが元々男性だったことを知らない。そのため、「お母さんみたい」という形容詞はマイナスに振れる言葉とは思っておらず、まったく悪びれた様子もなく、完全に面白がっている。

 エレアの言葉が聞こえないエメラにもアリエッタが嫌々説明すると、こちらも面白がっていた。


「あはは!エレアの言ってることは正しいわ。あなた達本当に母娘にしか見えないもの」


『ほらー!』


 エメラの場合はアリエッタの事をよくわかって言ってるのだから性質が悪い。本音半分、からかい半分といったところか。そこに思いもよらないところから、まさかの追い討ちがかかる。


「アリ、りひーのおかさん、いや?」


 リフィミィが泣き出しそうで悲しい顔をしてアリエッタを見上げてきた。アリエッタにとって、リフィミィのその行動は反則的だった。その場でリフィミィの否定などアリエッタにできようはずもない。


「そんなことないよ」


 アリエッタにはそう取り繕うしか手段がなかった。それでもリフィミィは途端に表情を笑顔に変えると、また食事に戻っていった。


『アリエッタ、やっぱりお母さんだー』


 エレアはそう無邪気に笑うが、アリエッタとエメラは顔を見合わせて、お互い複雑な表情を浮かべた。

 本来のリフィミィの母親と思われる巨人鬼はアリエッタとエメラが討伐してしまっている。リフィミィは実の母親の事を親と思っていないのだが、二人にとってそんな事は知るところではない。母親のいない悲しみを、アリエッタを代わりにする事で紛らわせている、そう考えてまた罪悪感を刺激されてしまうのだった。

 実際リフィミィがどう思っているのか、それは本人だけが知る事で、アリエッタとエメラにはわからない事だった。


 しばらくして朝食が一段落したところで、自然と今後の動き方について話し合いをする事になった。話し合いと言っても、リフィミィは言わずもがなでエレアもガリオルも旅に関しては基本的には自己主張がないため、今まで通りアリエッタとエメラの二人だけの話し合いだ。


「今のところ、有力な情報はゼロなんだよね。もしかしたら僕に憑いてる人なら何か知ってるかもだけど、気まぐれで滅多に出てこないし…」


「そうよね…。ルートは少し遠回りした方がいいかもしれないね」


 当初の予定では、このままイルダイン公国を避けて北上し、そのままエルガラン王国に入る事を考えていた。しかし、全体の行程の三割程度進んできたにもかかわらず、直接ルビアスに繋がるような有力な情報が出てきたわけではない。このまま予定通りの行程を進んだとして、有力な情報を得られる可能性は低いと思えた。もちろん、今までの行程は無人もしくは交流を避けている種族しかいない土地だったため、このあとの行程の方が情報が出てくる可能性は高い。それでも、当初の目論見より厳しい現状を前に、積極的に動く必要を感じたのも事実だ。


「予定にはなかったけど、フィルブト回ってみるのはどうかな?」


 帝都フィルブト。その名前の通り、サーフィト帝国の首都だ。「大陸最南端の大都市」と呼ばれるだけあって、帝国の領域の中でもかなり南西に位置している。当然の事ながら、フィルブトを経由してエルガラン王国に行くのであれば大幅に遠回りをしなければいけなくなる。しかし、本来の目的はルビアスに会う事であって、観光ではない。慌ててエルガラン王国に入る必要もないのだ。


「うん、折角だし観光がてら行ってみよっか」


 あっさりとエメラとも意見が一致して今後の方針が決まるも、お互い気になっている事があった。


「それだけ旅が延びると、その分お金が心配なんだけど…」


 昨日ドライフルーツをすべて売り切ったおかげで八万レムもの大金が手元にある。これだけあれば当面は特に問題はないが、旅にはそれなりにお金がかかる。純粋に宿泊だけだったとしても、一泊五十レムはかかり、一ヶ月も続けば千五百レムにもなる。それ以外にも食費や旅で使う消耗品も含めれば一ヶ月で四千から五千レム必要になる。そうなると約一年半で使い切ってしまう計算になる。資金が尽きたらジムの用意してくれた瞬間移動スクロールで一旦戻るという手もあるが、再び大森林のジャングルを抜けて、今度は氷竜の助けなしでアムブラント山脈を越えなければならない。さらには、かなり無理をして用意をしてくれたであろうスクロールを無駄に一枚消費してしまう事にもなる。


「そうなのよね…。はぁ、仕方ないから依頼こなすしかないか」


 危険なモンスターの跋扈するこの世界では、現代日本のように気軽にどこでも出歩けるわけではない。命を落とすようなモンスターに出くわす可能性は低いとはいえ、現代日本において山で熊に遭遇するといった可能性よりもはるかに確率が高く、遭遇した場合の致死率も段違いだ。

 それでも町の外に出る用件は発生する。そういった時に役に立つのが傭兵ギルドだ。商業組合のようなギルドと役割が違い、依頼の受付と傭兵の斡旋を一手に引き受けてくれる。中間マージンを取る代わりに、戦う術を持つ者の伝手がなくとも依頼ができ、傭兵側からしても請ける仕事の選択肢が大幅に広がる。


「…うん。とりあえず、宿代くらいは賄える程度稼ぐって事でいいかな?」


「いいと思う。完全にムダな事とも言い切れないし、気持ち切り替えていこっか」

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