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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第3章 サバンナの中のサーフィト帝国
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1話 帝国の玄関口

新章スタート!

 アリエッタ達一行は無事に人間族の生活圏であるサーフィト帝国の勢力圏内に入っていた。

 サーフィト帝国は人間族の国家の中では割と他人種に対して寛容な国策を取っている国家だ。そしてその寛容さがあるからこそ、一部の魔族ともコネクションがあり、極一部ではあるがセヴィーグ自治区産の物資が流通しているという側面もある。

 そんな国への入国だからか、魔族であるアリエッタやエメラもそこまで抵抗はなかったのだろう。最東端の検問所も無事通過する事ができた。しかし、問題はリフィミィだった。あまり一般的な種ではない巨人鬼という、モンスターにもカテゴライズされた種族は、子どもとは言えどかなりの抵抗にあった。大人しい事とアリエッタに懐いている所を見せて、なんとか通してもらったのだ。


「絶対目を離すなよ」


 そんな検問兵の冷たい言葉と視線を受けながら、次は幻影魔法で角を見えないようにしようとアリエッタとエメラは本気で思ったものだ。


 サーフィト帝国の気候は概ね熱帯性地域が多い。しかし大森林のような熱帯性雨林ではなく、雨季乾季のはっきりしたサバンナ気候の地域がメインだ。それが故に主食の麦栽培にはあまり向かない土地が多く、北部の穀倉地帯は帝国の食卓にとっては生命線となっている。

 三百年近いエルガラン王国との大陸中部の争奪戦は現在帝国にとっては劣勢であり、これ以上の南下を許す事は、その生命線である穀倉地帯すら失う事を意味する。さすがに帝国側もその意味するところは十分に認識しており、現国境周辺は鉄壁の守りを敷いている。王国側もその守りを崩すことができず、前回の大戦から約七十年睨み合いが続き、膠着状態となっていた。

 そんな情勢もあって、検問も一時期の締め付けは緩み、平時下とまではいかないまでも人の往来についてはそこまで厳しくない。むしろ、他人種であれば間諜である可能性が低くなり、通り易くなるくらいだ。そういった意味でアリエッタ達は幸運だった。

 帝国初めての街フレブルの入り口まで来ると、そこには出入りを管理する兵士が数人立っていた。

 フレブルは東側のサーフィト帝国の玄関口と呼べるような街で、帝国最東端に位置する街だ。しかし、実際に東側から訪れるのはアリエッタのような魔族が稀に来るだけで、それ以外ほぼ来訪者はいない。


「ようこそフレブルへ。少し荷物を調べさせてもらうがよろしいか?」


 門兵は口にした言葉とは裏腹に歓迎の「か」の字もない平板な口調で事務的な対応を取る。それでも国境の検問兵と比べれば雲泥の差だ。


「ええ、構いませんよ」


 エメラがそう答えると、兵士たちは一行の荷物の中身を検め始める。すると、あることに気付いたのか、「ほぅ」と感嘆の声が漏れ、そのままエメラに興味津々で問いかける。


「君達は魔族のようだが、これはセヴィーグ産のドライフルーツか?」


「そうです。あたし達は人間族のお金の伝手がないので、売ってお金にしようかと思いまして。お安くしますので如何ですか?」


 エメラとしては叩き売りになってしまってもそろそろ人間族の貨幣を入手しておきたかったのだ。副次的に門兵の高感度も買えれば安いものだ。


「興味はあるのだが、私にはそこまで経済的な余裕がないのだ」


 するとエメラは両手いっぱいにベリーを載せて再び交渉する。


「それでしたら、これで二百レムでどうでしょう?」


 エメラの持っている量を実際に帝国内で購入しようとすれば、恐らく六百レムは必要になるとエメラは踏んでいた。実際にエメラの提示に門兵は驚いており、その提示が通常よりかなり安いものである事をエメラは確信した。


「…だが、それが本当にセヴィーグ産であるという証拠がない」


 見た目は確かに人間族の知るドライベリーより一粒が大きい。しかし、乾燥させると萎んでしまうため、生のものより大きさが際立たないのだ。


「そう思うのでしたら、お一つ召し上がってください」


 エメラの言葉に門兵は逡巡するも、興味には勝てなかったのだろう。手を出して一粒つまむと口の中に入れた。噛むとすぐにドライフルーツ特有の濃縮された甘さが舌を刺激する。しかも、その甘さが尋常ではなく、砂糖をそのまま口に入れるほどのものだった。しかし、その後に来るわずかに残るベリーの酸味が甘さを程よく中和して、抜群の甘さでありながら甘ったるくなり過ぎないという絶妙のバランスを保っていた。門兵がそれまで口にした事のある甘味のどれ一つ適わないその味に、紛れも無い本物だと確信した。


「疑って申し訳ない。しかし嗜好品に二百レムは…」


「ご家族で召し上がっても、転売して頂いても結構ですよ。もし転売するのに伝手がおありでしたら紹介して頂けたら、こちらは差し上げます」


 エメラはその清楚な見た目に似合わず、こういった強かな面を持ち合わせていた。交換材料にしても手持ちでドライフルーツ数キロも持ってきているのだ。少しくらい交渉材料に使う程度であれば痛くはなかった。


「本当か!?わかった!私の従兄弟に高級食材を扱う商人がいる。そこを紹介しよう」


「ありがとうございます。助かります」


 エメラはそう言うとやわらかく微笑んだ。エメラほどの美貌をもつ少女にそんな表情をされればグラつかない男などいない。門兵も例外ではなく顔を少し紅潮させていた。

本話から1本あたり2000~3000文字前後を目途にしようと思います。

個人的にもそれくらいが一番読みやすくて、1本のボリュームとしては適度な量かなぁという気がします。

週一更新では物足りない量ですが、二日に一回の頻度であれば、少なすぎず多すぎずと思ってますが、どうでしょうか?

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