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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第2章 亜人種の住処
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5話 寂れた村

 アリエッタとエメラが旅を始めて二週間が経過していた。経由した町も両手で数えられる数を越えていた。オオトカゲの操作など慣れたもので、最初の頃のおっかなびっくりといった様子と比べると雲泥の差だ。

 今の所、最初の町でナンパ男をエメラが絞り上げた事を除けば、大きな問題もなく順調すぎると言ってもよかった。

 しかし、ルビアスに関する情報についてはさっぱりだ。元々、そんなにすぐに有力な情報にあり付けるとは思っていなかったが、出てくる情報といえば三十年前のものしかない事に、改めてこの旅の難しさを思い知らされた二人だった。


「あ、見えてきたよ」


 アリエッタの言葉にエメラも前方に目を凝らしてみると、ぼんやりと民家の屋根のようなものが見えた。


「今日はそこの村に泊まるよ」


 まだ少し日が高いが、さらに次の町に行く頃には日付が変わってしまう事が想定されるため、必要以上に無理をする必要のない二人は、中間のこの村で一夜を明かそうと考えていた。

 さすがに街道の通る村ではないだけあって、宿がない可能性もある。その場合は最悪野宿になる。

 実のところ、通常の街道を行けばこのような村に立ち寄る事はなかった。しかし、それまでの中継町で情報が得られないのであれば、少し迂回してでもあまり人の立ち寄らない村に足を伸ばしてみるのも逆に手かと考えての行動だった。


 その数分後、村の前に到着した二人はオオトカゲから降りて村の中へ足を踏み入れていく。

 村の中はほとんど人気が無かった。正確に言うと家の中には人の気配があるものの、表には出歩く人がまったく見当たらない。いくら人口の少ない村だからといって誰も見当たらないのはアリエッタもエメラも異常に感じた。

 誰かに話を聞くにも表にいないのであれば、適当にピックアップした家に突撃する以外ない。そう決めて、一番近くにあって、人気のある家のドアをノックする。


「こんにちは~、どなたかいらっしゃいませんか~?」


 少し待っていると、少しだけ扉が開かれて中から窺うように女性が顔を覗かせた。


「…どちら様ですか?」


「あたし達は旅の者でエメラディナといいます。こちらはアリエッタ。今日はこの村で一泊したいんですけど、宿泊施設の情報をいただけるとありがたいんですが」


 家の中の女性は少しだけ警戒を解いたのか、全身が見える程度まで扉を開けた。


「旅の方ですか。生憎この村には宿はないので、村長の家に行ってみては?商人なんかも泊まってる事が多いので面倒見てもらえると思います。この前の道を真っ直ぐ行って、一番奥の大きなお屋敷なのですぐわかると思いますよ」


 二人は家の中の女性にお礼を言って、村長宅を目指した。

 先ほどの女性が言った通り、村長の屋敷はすぐに見つかった。他の家より二回りほど大きく立派な屋敷だったが、あまり整備が行き届いていないのか、所々壊れていたり、汚れていたりしてみすぼらしい印象を受ける。

 エメラは扉を叩くとさっきと同様に中にいるかもしれない人に対して声を掛ける。

 しばらくすると中から老婦人が姿を現した。魔族の老人と言うと三十代程度の人がほとんどだったが、そこに出てきたのはアリエッタの認識からしても正真正銘の老人だった。その顔に刻まれた皺や染みはアリエッタの認識からしても人間族で言うところの七十代相当に見える。

 エメラは事情を説明し、他の村人にここを紹介された事を告げる。


「そういう事でしたら、大したおもてなしはできませんが今夜は我が家にお泊まりください」


 老婦人に案内されるまま、中に上がらせてもらうと今度は老紳士に出迎えられた。


「ようこそいらっしゃいました、旅の方。私は村長のゲイリーと申します。隣は妻のクレーアです」


 一通りの自己紹介をした後は、この村の現状を聞く。

 基本的には旅人は訪れないが、物資を供給してくれる行商人は来てくれるので、その度に村長宅に泊まってもらっているのだとか。

 主な収入源は農業で主産物は麦だそうだが、あまりに地味な村に嫌気が差して町に流出していく若者が後を立たないのが悩みなのだそうだ。

 しかもここ数年の間で、近くに巨人鬼が住み着いてしまい、生活に不安を抱いた人達がさらに流出してしまっているようだ。巨人鬼のせいで日中もなかなか外に出られないと嘆いていた。さきほども村の中に人気が無かったのも、最初の住人が警戒していたのもその影響だったわけだ。


「見たところ、お二人とも相当な力量をお持ちの魔術師とお見受けします。始めてお会いした方にするには不躾なのは承知の上でお願いを聞いていただけないでしょうか?」


 ここまで話してれば、いかに鈍くとも次に村長から出てくるであろう言葉は容易に想像ができた。


「巨人鬼の討伐…ですね?」


「…はい。もちろん無料(タダ)でとは申しません。僅かではございますが、我々の蓄えを報酬としてお渡しします。それ以外にもお望みのものがあればできる限りご提供します。ですので、どうか…どうか!」


 涙ながらにエメラの手を握りながら懇願する村長の姿に、困惑してしまったエメラとアリエッタはお互いに顔を見合わせた。

 エメラの困惑しつつも、どこか真っ直ぐな思いを宿した表情を見たアリエッタは、その意図する所がなんとなく理解できて、ゆっくりと頷いた。


「確約はできませんけど、できる限りやってみます」


「本当ですか!?」


「はい。あたし達も死にたくないので、安全が確保できるレベルまでですけど」


「それはもちろんでございます!ありがとうございます…!」


(やっぱりね)


 アリエッタの感じたものと、エメラが口に出した内容は一致していた。エメラはどこの馬の骨かもわからないアリエッタを拾って家に住まわせる程のお人好しだ。魔族の寿命の長さから考えると、余生もほんの僅かであろう老人に泣いて頼まれれば、エメラが断れるとはアリエッタはとても思えなかった。

 まだ討伐が成功するかわからないにもかかわらず嬉し涙を流す村長を見てしまえば、アリエッタとしても今更反対する事はできなかった。

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