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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ
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1話 運命の日

ここから本編になります

 その日は特に予定もなかった礼は、家でダラダラしているくらいなら、と街に出てぶらつく事にして自宅近くをゆっくりと歩いていた。

 ニュースでは桜の開花宣言が出されたと報道が出ており、その報道通りに桜の木には淡い桃色の花がポツポツと開き始めていた。

 陽気もこの時期にしては暖かく、それまで手放せなかった厚手のコードとマフラーがあると汗ばむほどで礼も薄手の春用のジャンパーを羽織る程度に留めていた。杉花粉のピークでもあり、人によっては嫌な季節でもあるが、幸い礼はアレルギーもなく彼にとっては快適に過ごせるだけの良い季節だ。


 まず礼が足を向けたのは駅の近くに展開されたアパレル関係の店だ。

 礼はファッションに関しては無頓着な方ではあったが、それでも最低限の身だしなみの必要性は理解していて、周囲に指を刺されない程度には気を使っているつもりだ。実際に周囲からの評価は可もなく不可もなく、お洒落というほどではないが影で笑いものにされるようなレベルでもないという、礼の目論見通りのものだった。

 この日も暖かくなる季節に向けてアウターとして使える薄手の上着を見て回るつもりだ。

 見て回るとは言っても所詮は地方都市。数件ある百貨店やデパートと、さらに数件ある個人店をハシゴする程度だ。


 めぼしい店をすべて回ったが、即欲しいものではなかったという理由から結局この日の購入は見送った。高校時代アルバイトをしていない礼の懐事情は苦しい。いつもの事ではあるが買い物に対しては吟味に吟味を重ねて納得するまでは購入しない。両親は衣類に関してはかなり理解がある方で、高価なものでない限り欲しいと彼が言えばお金は出してくれるだろう。しかし、変に自立心の高い礼は、その事を良しとせず今までもお小遣いを遣り繰りして凌いできた。


 その後、頭の中で予定していた全国的にチェーン展開する古本屋に立ち寄る。

 一昔前は本屋というとビニールやシュリンク等はされておらず立ち読みし放題であった。しかし、最近は古本といえども購入側が状態を気にする事が多くなり、ビニール等で保護された状態で店頭に並ぶ事が多くなった。

 そんな中でも、その古本屋はまったく外装をせずに店頭に並べているため立ち読みし放題だった。そんな状態のため、店内は立ち読み客が非常に多く、礼もそれが目的だ。


 2時間前後買うほどではないが気になる漫画を楽しんだだろうか。じっと立ったままであればそれなりに足が疲れてくる。例外なく足にだるさを感じた礼も、キリのいいところまで読み終わったところで切り上げる事にした。

 昼過ぎに家を出てからはそれなりの時間が経過していて、店の外に出ると既に日が傾き始めていた。

 日が出ていた昼間は少し暑いくらいに感じた陽気も、この時間帯になるとそれなりに冷え込んでくる。礼も若干の肌寒さを感じつつ足早に帰宅することにした。


 "それ"があったのは、後から考えた時偶然なのか必然なのか礼には判断ができない。しかし、彼のその後の運命を決定付ける出来事であった事は動かしようのない事実であった。


 駅からの自宅までのいつもの道を歩く礼。腐っても県庁のある最寄駅だ。少し離れただけで畑や田んぼが現れるという事はない。しかし、帰り道の途中に1箇所だけ家二軒分程度の空き地があり、長い間そのまま放置されたその場所だけは、ちょっとした草原のように雑草が生い茂っていた。

 礼が小学生の頃には既にあったその空き地は、子ども達にとって良い遊び場で、礼も小学生の頃はよく利用させてもらったものだった。

 そんな空き地を通りがかった時、礼は奇妙なものを見つける。

 彼にはその空き地の一角が少し黒っぽい靄がかって見えたような気がした。気がしたというのは、夕暮れ時ではっきりと視認できなかったことに加え、空気が黒いなど聞いたことがなかったからだ。

 興味本位でその黒い靄のようなものに近づいていく。その距離が靄まで手が届くかというところまで来た時だった。

 礼の立っている後ろの空間が文字通り割れた。そこに透明の壁があって、その壁が割れたかのように穴が開き、その穴の向こうは真っ黒だった。見たことはおろか聞いたこともないような、その現実離れした光景に恐ろしくなった礼はその場から離れようと横を向いた途端、その方向も同じように空間が割れた。

既に走り出そうとしていた礼は止まる事ができずに、向こう側が黒い穴の中に落ちてしまった。


 礼がその穴に落ちて数秒もすると何事もなかったかのように割れた空間は元に戻り、黒い靄のようなものも綺麗になくなっていた。

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