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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ

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19話 待機と新しい任務

「ふわぁ~」


 礼は口を抑えて欠伸をする。それも仕方のないことだった。とにかく暇なのだ。

 人間族の夜襲があってから1週間ほどが経過した。その間、再侵攻がある事もなく、待機所に缶詰になる日が続いていた。1週間もたつといかに夜襲があったとは言え、緊張感がなくなってくるのも致し方ない事だ。周囲の自警団のメンバーも同様に緊張感の抜けた表情をしている。

 得てしてこういう時ほど奇襲が起こったりするものだが、そんなフラグすら不発なのか自警団のメンバーは暇を持て余していた。


「そろそろ水浴びしたいわ。ねぇアリィもそう思わない?」


「そうだねぇ。僕も体がベタベタしてきて気持ち悪い」


 待機番は二日連続で一日休みというローテーションだ。礼とエメラはその二日目で、ちょっとした外出以外が認められていない現状では、湖まで行く事もできない。

 冬も近くなり厚着になったとは言え、百人規模の人数が一同に集まれば室内の温度が上がるのは必然だ。そうなれば汗もかくし、皮脂も出てきて必然的に体の表面は半渇きの汗と脂でベタつき不快感を与える。濡らした布で拭き取れば多少はマシにはなるが、水で洗い流すほどの効果は期待できない上に、髪の毛は元より、この大衆の前では胸元や腰周りはどうしようもない。


「それにしても、いつまでこの状態が続くのかしら。夜の見張りは必要だけど、ここまで待機する必要はない気がするのよね」


「この状態だとこっちが逆に消耗しちゃうから、偵察隊募って周り調べてみるのも有効な気がするね」


 相手はこの状態を狙っているのかもしれない。そんな事を礼は考えていた。相手を消耗または油断させたところを叩くというのは有効な戦術の一つだ。その辺の確認、打開する為に外に出るのも、この場合は有効でもあった。数十人規模の隊で数千人に襲われれば戦うとなるとひとたまりもないが、囲まれさえしなければ魔力の差で逃げ切ることは難しくない。


「うん、そうね。ちょっと幹部と掛け合ってくる」


 エメラはそう言うなり、どこかに行ってしまった。言葉の通りであれば本当に幹部に具申しにいったのだろう。

 しばらくするとエメラが笑顔で戻ってきた。


「アリィの案、通ったよ」


「え!?」


 採用されないだろうと半分無責任な案だと自覚していた礼だが、さすがに採用されたとなると責任感を感じてしまう。実際はその案を採用したトップが全責任を負った上で実行に移すのだが、発案者としての責任も感じてしまうのだった。


「何で驚くのよ。実行は明後日。あたしとアリィとその他四十八人の五十人体制。隊長はウィレイさん。あそこの髭の人ね」


 エメラの指差す方向には筋肉隆々のいかにも傭兵です、と言った雰囲気の色黒の男性が座っていた。整った顔立ちながら、銀の髪は短く刈り込み、日に焼けた精悍な顔に顎鬚と強面の男性だった。何も悪いことをしていなくても凄まれたらつい謝ってしまいそうな、それくらい見た目は怖かった。


「決まるの早くない?」


 それだけのメンバー選抜と作戦実行が早い事に礼は驚いていた。


「うん。アリィの案が妥当だったって事もあるけど、幹部達はもうすでに敵軍がいないんじゃないかって睨んでて、偵察隊を出すか検討してたみたいだから」


 つまりは自警団幹部も礼と同じ事を考えていたのだ。そこにきて団員から同じ意見が出てきた事もあって実行に移す決断をしたといったところだ。


「そんなわけで、明後日の偵察隊に選任された人達は今日はもう終わりにして、明日休むことになったの」


「そっか、なるほどね。もしかしてメンバー選考もある程度されてたり?」


「みたい。あたしとアリィは発案者って事で追加されたみたいだけど」


 つまりは「俺らのケツ叩いたんだから、お前らも一緒に言って来い」という事なのだろう。微妙に薮蛇だった事に礼は嘆息する。


「あちゃー、やっちゃったかぁ」


「ん、何が?」


「いや、こっちの話。それより早く帰って水浴びしようよ」


 礼としては"やっちまった感"はあったのだが、決まってしまったものは既にどうしようもなく、今は一刻も早く体の汚れによる不快感を取り除きたかった。衛生環境の非常に良い日本で生まれ育った礼は元々が女性でなくとも、そういった衛生面での意識レベルが高かった事も影響しているのだろう。


「そうね、帰ってゆっくりしようか」


 ほとんど動いていないのだから体力的に疲労感を感じる事はない。しかし、同じ場所に何をするでもなく拘束されれば気も滅入るし、ストレスだって溜まるだろう。礼とエメラが感じているのはそんな精神的な疲れだった。ゆっくりしてリフレッシュしたいと思うのは自然な事だった。


「皆さん、お先に失礼しますね」


「おう、お疲れ」


「また明後日な」


 残るメンバーに一言かけると、労いの言葉や、既に明後日の事を聞いていてなのか純粋にシフトの話なのかの言葉が掛けられ、礼とエメラは連れ立って待機所を後にするのだった。






 夜襲があって数日は夜も騒がしい日が続いていたが、少しづつ収束しつつあり、その日は以前とほぼ変わらない静かな夜が訪れていた。

 まだ暦の上では秋とは言え、夜になると随分と冷え込み、冬といっても差し支えなかった。

 二日前に礼とエメラが帰ってきたときはまだまだ外が騒がしかったが、今日はあの夜襲の日以来ほぼ元通りの夜だった。

 そんな夜の静寂の中、礼は自分自身の事をエメラに話すかどうか悩んでいた。

 地球から来たと言う事は話していたが、地球では恐らくアリスフィアでいうところの人間族と同じ種族であった事、そしてなにより男であった事は話していない。人間族であった事はともかくとして、男であった事を打ち明けるのは、やはり怖かった。

 しかし、このまま黙っているのも、身寄りのない自分をここまで良くしてくれたエメラに対する裏切り行為のようなものだと礼は感じてしまうのだ。先延ばしにすればするほど話しづらくなる。それは礼も十分に理解しているつもりだったが、結論を出せないまま半年が経過してしまっていた。

 湖ではエメラの生まれたままの姿も見てしまっているし、同じベッドで眠った事も数知れずで、本当に今更なのだ。

 それでも、しっかりとエメラとは向き合いたい。そんな思いもあって、礼はこの騒動が一段楽したら打ち明けよう、そう決めてまどろむのだった。



 翌朝気付くと、いつの間にベッドに潜り込んだのか礼はエメラの抱き枕になっていた。そんな無遠慮なエメラを見ていると、昨晩真剣に悩んだのが馬鹿みたいに感じてしまった礼だった。

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