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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
序章 プロローグ
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プロローグ2 礼の日常

 公園に植えられた桜の木の枝先に少し赤みを帯びた蕾が付き始めていた。寒さも緩み始めた3月下旬、朝倉礼は友人たちと高校生活最後の休みを満喫しようと最寄の駅まで早足で歩いて向かっていた。


"まだか?早く来い!"


 そんなSNSメッセージにも急かされて少し慌てていたのは、寝坊してしまったからだった。

 昨晩はついスマートフォン向けのアプリゲームに夜中遅くまで熱中してしまった事が災いして、今朝気付いたら見事に集合時間の15分前だった。そんな時間まで寝てしまえば、いかに駅まで10分そこそことはいえ間に合うわけがない。既に集合時間は5分ほど過ぎており、時間にうるさい友人からは引っ切り無しに督促のメッセージが届いていた。


"ごめん!!!後5分待って!"


 そんなメッセージと土下座するキャラクターのスタンプを同時に送信して謝意を全力で表す。


 駅前に着くと案の定不機嫌そうな顔をした男の友人と、特に気にしてなさそうに談笑する男女4人が待っていた。


「ホントにごめん!」


 礼は友人たちに向かって両手を合わせて申し訳なさそうに誤り倒す。不機嫌そうな友人一人を除き「たった10分だし気にスンナ」「連絡あったしいいよ」等と軽く流してくれる。しかし不機嫌そうな友人だけはとことんお説教をする気のようだったが、周りの友人から宥められて渋々矛先を収めていた。


 全員揃ったところで電車に乗って移動を始める。目的地はアトラクションひとつで数時間待ち確実な有名テーマパークだ。礼はあまり乗り気ではなかったが、最後の思い出に女の子も交えて遊びにいくのも楽しいだろうと思い直して友人の誘いに乗ることにしたのだ。


「礼は名桜大だっけ?一人暮らしできなくて残念だったな」


 電車の中で友人の一人が礼に声をかけてきた。名桜大はわりと名門ではあったが、残念ながら本命ではなく第二志望だった。そこに加えて本命であれば実家から離れるため念願の一人暮らしだったが、第二志望の名桜大は電車で30分ほどで通えてしまうため実家から通学になってしまうのだ。


「う~ん…まぁ全部落ちて浪人するよりは全然オッケーだけどね。一応名桜大だって第二志望だし」


 その言葉は本音ばかりではないが嘘でもない。一人暮らしがしたかったのは事実だが、それなりに行きたかった大学に現役で入学できたのだ。そこに一人暮らしも、となると贅沢というものだ。そう礼は思っていた。


「ホントお前ってポジティブだよな」


「そう?普通だよ」


 普通かどうかかはともかく、ポジティブなのは礼の良い所のひとつではあった。そこをピンポイントで見てくれるその友人は礼にとって良い友人なのだろう。


「そういえばあの百合カップル、そろって三橋大らしいな。法学部と医学部。可愛くて頭よくてサイコーなのに百合とか勿体ねぇよな」


 実際に百合なのか本当のところを礼は知らないが、友人が冗談で言っているという事だけはわかっている。そして、そんな表現をされる二人といって直ぐに二人の女子を思いつく礼も同罪と言ってよかった。

 容姿端麗、成績優秀、片方は運動がてんで駄目だが、もう片方は運動もテニスで全国大会に出るレベルと文句の付けようがなかった。

 しかし、そんな二人でも百合と周囲に言われるには理由があった。

 仲が良すぎるのだ。登校もお昼も一緒、部活こそ違ったが帰りも一緒。そしてなぜかクラスも3年間一緒。さらには同じ進学先。実際にはそんな事はないのだが、周囲が話の種にするには十分だった。


「あの子告白断りまくってるみたいだよね。僕ら眼中に無いってやつ?」


「お高くとまりやがって!じゃなかった、百合か」


 馬鹿を言いながら礼は友人と笑い合う。


 そうこうしている内に目的のテーマパークの最寄り駅に到着する。

 電車を降りた時点で既に人が多く、元々人混みの嫌いな礼は見るだけで少しうんざりしてしまう。しかし、他の友人たちはそんなこともない様子で、「何から行こうか!」等と楽しそうにはしゃいでいる。そんな雰囲気に水を差すほど礼も無粋ではないし、楽しむ気で来たのだからと持ち前の切り替えの良さで一緒になって楽しむ事にする。





 徐々に夕暮れ時の物悲しさを感じさせるような、一時期の勢いを失ったオレンジ色の光が辺りを包み始める頃になっても六人は俄然元気だった。まだ遊び足りないとでも自己主張するかのようだ。


「さて、そろそろいい時間だし地元戻って飯でもいく?」


 一人の男子が回りに問いかける。


「そうね~、あたしん家未だに親うるさいから、いい時間かも」


「それじゃ健全に今日は帰ろうか」


 そうして一行は再び電車に揺られて家路に着くのだった。


 結局調子に乗って夜の10時過ぎまでファミレスで騒いだ結果、家に帰ってこってり絞られた女子がいたとかいなかったとか。

 礼としては高校生活も有意義だったが、その高校生活の中でこういった友人関係を築けた事が妙に誇らしく嬉しかったと思わされた一日だった。

前作「隣ノ世界ノワタシ」とは世界観はリンクしてたりします。

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