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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ
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14話 足りないものは

「初見でできた人、初めて見たわ」


 エメラの見つめる先で礼が障壁を張りつつ、手には氷でできた刀を持っていた。しかし、極度の集中状態なのか、エメラの言葉は耳に入っていない様子だ。

 エメラは風の刃を作り出すと、礼の障壁にぶつける。障壁は簡単に破れてしまい、その事によって礼の集中も途切れる。


「あ…」


「初見でできたのはホントにすごいわ。でも、内容はまだまだね」


 エメラの作り出した魔法で簡単に割れてしまった障壁は、やはり強度が問題だった。その強度も、ただでさえ甘い礼の魔力制御が、別々に魔法を使うことで更に甘くなってしまい、結果的には実用レベルではなくなっていた。


「はぁ、先は長いなぁ」


「普通は同時に魔法を使うだけでも数年かかるんだから自信持っていいよ」


 事実、魔族の子どもがそのスキルを習得できるのは全体の5割程度で、年齢も15歳程度になる事がほとんどだ。稀に10歳程度で習得できる子どもが現れると天才扱いされるほどなのだ。そもそも条件が違うとは言え、初見で見事に成功させるなど、想像すらできない程の離れ業であった。


「数年って言うとすごいように聞こえるけど、子どもだったらそのうち覚えるってオチでしょ?」


「半分正解。でもね、みんな結構必死に練習して、実際できるようになるのはその中の半分くらいだからね?」


「えぇ!?」


 そこまで聞いて初めて、礼は自分のした事がどれだけ規格外だったか思い知る事になった。


「だから内容なんて二の次で、できたって事が重要なの。できちゃえば、あとは練習して質を高めるだけだから」


「ふ~ん、そんなもん?」


「そんなもんよ」


 そんなエメラの言葉に礼はもう一度魔法を同時に展開してみる。一度成功させてコツが掴めたのか、先ほどよりもどちらにどの程度の魔力を展開すれば安定するのかといった感覚的なものがわかり、少し簡単に発動させることができた。

 それを見たエメラが再び風の刃を作り出して、礼の障壁にぶつけるが、今回は風の刃に負けることなく障壁は無事なままだった。


「威力を低く制御したはしたけど、二回目であたしの攻撃弾くなんて…」


 エメラ自身、ネマイラの自警団ではトップクラスの魔力を持っている。自惚れではなく、事実としてエメラも認識をしているからこその言葉だった。


「なんかコツが掴めてきた気がする」


「コツが掴めるだけでこの上達ぶりはちょっと信じられないわね…。今度は障壁展開したまま、その剣でこの石を切ってみて」


 エメラはそう言うと、いつかのように大き目の岩を出現させる。礼も無言で頷いて手に持った氷の刀を岩に向けて袈裟懸けに一閃させる。


「ちょっと…この短時間でどれだけ上達するのよ……」


 驚愕を色濃く映した表情で独り言のように呟くエメラの前には、斜めに綺麗に切断された岩が転がっていた。

 一回目では武器はともかく、障壁は実用レベルになかったのか、二回目は大幅に手加減していたとは言えどエメラの攻撃を事もなく退け、武器は見事に岩を切断していた。それはどちらも対人戦において、一定までの相手であれば実用レベルである事を意味していた。少なくとも、一対一であれば人間族の中堅クラスの兵士では相手にならないだろう。


「なんとなくだけど、コツというよりも不思議とどうすればいいかわかる感じなんだよね」


「普通はそんな感覚ないよ。やっぱりアリィってかなり特殊だわ」


 通常、やったこともなく、教えてもらってもいないことが「不思議とわかる」などという事はあり得ない。そういった意味でエメラの発言は正しい。礼としても特殊と言われると思い当たることも多く、自分で自分がわからないという不安に駆られる。

 しかし、立ち直りが早いのが礼のいい所だった。


「うん。でも僕もわからないからどうしようもないけど、できたならありがたいから、それはそれで全然OK」


「安心すればいいのか、心配すればいいのか判断に迷うわね」


 礼も色々考えた末にポジティブさが前面に出ての発言なのだが、何も考えていないように聞こえてしまうのは逆に礼の悪癖だった。


「あ…うん、前向きに考えてるから大丈夫」


「そっか、それならいいわ。それにしても、障壁と武器は器用に使えるのに、どうして通常の魔法の制御がうまくいかないのかなぁ…」


「う~ん、武器で攻撃はできるし、障壁で守れるなら魔法使えなくていいや」


「ぷっ!アリィってば、能力だけじゃなくて思考まで魔術剣士なのね」


「ん?魔術剣士って?」


 アリスフィアには魔術剣士と言われる兵科(クラス)がある。名前の通り、剣をメインにして魔法も駆使する。大きな特徴は直接的な攻撃手段としては魔法を使わず、魔法はあくまで剣で戦う事に主眼を置いた補助的な使用に止めるところだ。

 実際には礼のように並外れた魔力を持ちながらも、制御に難があり武器での戦闘に特化せざるを得ないという者が選択するクラスだった。


「そんな訳で、魔術剣士の人って今のアリィみたいな事言うのよね」


 練習しているにもかかわらず、なかなか上達しない魔法制御。一方で、わりと簡単に操ることができた障壁と魔法武器。天秤にかけた場合、こだわりがない限り後者を取るのは目に見えている。そうなれば言う事も似通ってくるのだろう。


「あはは、そうかもね。でも制御の練習は続けるよ。打てる手は多い方がいいだろうしね」


「うん、そうして。あとは武器の扱いかな。誰かに最低限は教えてもらった方がいいわ。ジムさんにお願いしてみようか」


 刀の扱いに関しては礼は素人だ。当然武器を握って振り回すだけでも、礼の魔力量であればそれなりの脅威にはなるだろう。しかし、当たらなければ意味がない。ある程度経験や訓練を積んだ相手には恐らく通用しない。


「ジムさんってレーンズさんのお店から出た時に会った人だよね?」


「そうよ、養子に誘ってきた人ね。今は引退したけど、昔は自警団の前衛隊長で魔術剣士だったみたいだから、お願いできれば適任でしょ?」


「なるほどね。それじゃ、お願いできるなら、お願いしたいかな」


 ジムは見た目は若いが好々爺といった雰囲気を醸し出していて、そんな自警団に身を置くような苛烈なイメージは礼としてもわかない。本当に指南などできるのだろうかという疑念もない事はないが、人の良さそうなジムにお願いできるのであれば礼としても願ってもない事だ。


「了解。後でジムさんの家にお願いに行ってみようか」


「うん。お願いします」


「その前にお昼ね」


 そう話して、二人は再び家の中に戻っていった。

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