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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ
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13話 二人の反省会

 二人の男女がその日の獲物を前にして雑談している。


「やはり、君の剣捌きは素晴らしいな。私はする事がなかったよ」


「何言ってるの。あなたの牽制と補助があるからこそあたしの剣が生きるのよ」


 二人して謙遜し合っているが、お互いに認め合っているからこその言葉なのだろう。

 男性の方は銀の髪を男性としては少し長めに伸ばして下ろしていた。グレーのローブに少し豪華な飾りが先端に付いた杖を持ち、いかにも魔術師といった容貌だ。それに対して女性は男性と同じ銀の髪を後ろで一本に束ねており、服装はシンプルだが丈が短いベージュのワンピースの下に膝丈のショートパンツという出で立ちだ。髪の色を除けば顔立ちから体型に至るまで礼にそっくりだった。しかし、戦っていたと思われるにもかかわらず、話題に出てきた「剣」はどこにも見当たらない。もしかすると魔法武器を得物としてるのかもしれない。

 銀髪に尖り耳という特徴を持つ二人は、恐らく魔族であろう。そんな二人の前には体長五メートルはあろうかという巨大な羽の生えたトカゲのような生物が横たわっていた。


「まさかこんなところにレッサードラゴンが出るとは思わなかったな」


「そうね。被害が出る前に討伐できて良かったと思うべきかしら」


「あぁ、そうだな。だが、一匹出たって事はもしかするとまだいるかもしれないな」


「はぁ…こんなのそんなに何回も相手したくないわね…」


 女性のその言葉を裏付けるように、二人の顔には少し疲労の色がうかがえた。


「まぁ、レッサードラゴンの肉は結構美味しいから、いい収穫になったと思おうか」


「そうでもしないとやってられないわ…」


 そう話して、二人はレッサードラゴンと呼ばれた獲物と引きずりながらその場を後にするのだった。


 礼がそこまで見届けたところで視界が暗転し、その時点で今まで見ていた光景は夢だったのだと気付く。

 徐々に意識が覚醒し、やがて礼は薄っすらと目を開く。そこはエメラの家の礼が借り受けている部屋の中だった。部屋の中も窓の外も暗闇に包まれており、既に夜になっている事を物語っていた。

 礼は意識を失う前のことを思い出してエメラの安否が気になった。礼が助かっているという事はエメラに助けられたのだと礼も想定できるが、気絶した人一人を庇いながらの戦闘など負担以外の何ものでもなく、無事に切り抜けられたという保障もないのだ。

 居ても立ってもいられなくなった礼は部屋を飛び出していつも食事を取っているキッチンに向かう。そこは暗く誰もいなかった。嫌な予感を感じた礼はその足でエメラの部屋に向かう。しかし、礼の心配は杞憂に終わる。エメラの部屋ではエメラが眠っていた。見たところ目立った外傷等も見当たらず無事に連れて帰ってきてくれたようだ。

 安心して部屋に戻ろうと静かにエメラの部屋の扉を閉じようとした。


「アリィ…?」


「ごめん、起こしちゃった?」


「ううん、大丈夫」


 最初から寝ていなかったのか、目を覚ましたのか、エメラはベッドから降りて礼に近づいていき、何も言わずに抱き付いた。


「よかった…いつものアリィだ…いなくなっちゃったかと思った…」


 エメラの声は少しくぐもっていた。礼からは顔が見えないがエメラの目には涙が浮かんでいて心の底から安心した表情をしていた。


「心配かけてごめん」


「そうよ!まったく…」


 怒ったように言うエメラだったが、顔には泣き笑いを浮かべていた。


「色々話したいけど、今日はもう遅いから明日話そう?」


 礼はエメラにそう声をかけるが、エメラは礼から離れようとしなかった。


「エメラ?」


「今日は一緒に寝て…」


 「今日は」というより「今日も」という頻度なのだが、礼もあえてそれには触れない。


「うん、わかった。いいよ」


 そうするとエメラはやっと体を離すが、その表情は年齢からすると礼の目にはかなり幼く、そして儚く映った。礼からすると同い年であるにもかかわらず、小さな子どもをあやしている様な、そんな錯覚に陥りそうだった。

 二人してベッドに入ると、エメラは礼の腕を抱き込むように密着する。礼も最初の頃こそドギマギしてなかなか寝付けない日々が続いていたが、エメラがベッドに乱入してくる頻度が増すにつれて精神的に慣れてきていた。しかし、エメラのささやかな膨らみが二の腕に当たると、自分にはもっと立派なモノが付いているにもかかわらず、礼は相変わらずドキドキしてしまう。それは女性経験の無さによるものかもしれないが、逆にまだ男としての意識が残っていることに僅かばかりの安堵を覚えてしまう礼だった。


 翌朝、礼の予想に反してエメラの抱き枕にはなっていなかった。いや、厳密には予想通り抱き枕になっていたのだが、この日は礼が寝坊をしており、礼が目を覚ました時にはエメラは既に起き出していた。目覚ましの魔道具をかけていなかった事に加えて、昨日の疲労が礼の体を蝕んでいたのだろう。ここ1ヶ月ほどの生活で身に付いた体内時計まで機能しないくらい熟睡していた。


「アリィ、おはよう!…むぅ、何で起きてるのよ…」


 礼の起きぬけにタイミングよく部屋に入ってきたエメラはドア開けて挨拶するなり、既に起きていた礼に対して文句のような愚痴のような言葉を口にする。


「おはよう。なんで、そこで不機嫌になるか理解できないんだけど…」


「久しぶりにあたしが起こしてあげられると思ったのにぃ」


 礼には理解のできないところでエメラは納得できていないようだったが、礼としてはそこまで気を使えるわけがない。


「なんか、ゴメン?」


「はぁ…もういいわ。とりあえず朝ご飯にしよ」


 エメラは取って付けた様な誠意の無い礼の謝罪に溜息をつくと、礼の手を引っ張ってキッチンに向かっていく。

 二人テーブルに着くと準備されていた朝食に手をつけていく。


「…あたしの説明不足で危険に晒しちゃってごめんね」


 昨日の事をそう謝罪するエメラ。その謝罪に何の事かよくわかっていない礼はしばらく考えて、少し間をおいてから昨日の事だと気付く。


「気にしないで。僕も迂闊だったから。そもそも、それまでと違って複数いたんだからもっと注意すべきだったんだ」


 狼の群れに襲われると防戦一方になり、何かの拍子に障壁を割られてしまうと一巻の終わりなのだ。囲まれた際にそれを打開する策を持っているか、仲間を呼ぶ前に仕留めるまたは囲まれないようにするスキルが無い限り手を出すべきではない。エメラはその日一回も狼をターゲットにしなかった事もあり、その注意事項を礼に伝えていなかった。また、エメラ自身、少しの時間であれば獲物等発見できないと高を括っていた部分もあった。そういった意味で、礼に森を一人歩きしての狩りなどさせていい状態ではなかった。少なくともエメラはそう反省していた。


「平行線になりそうなその話は置いておくとして、アリィいつのまにあんな大剣出して戦えるようになったの?」


「え?なにそれ?」


「あたしが駆けつけた時には氷の大剣で狼全部片付けてたじゃない?」


「え?僕が?」


「あれ?覚えてないの?」


 礼としては謎の声が頭に響いて気を失った後、気付いたらエメラの家にいたのだ。気を失った直後にエメラに助けてもらったのだと思い込んでいた。しかし、実際にエメラは氷の大剣を手に狼を屠った後であろう礼の姿を目にしているのだ。話が噛み合わなくても仕方ない状況といえる。


「狼に囲まれて気を失った後、気付いたらここにいたんだけど…」


「えぇ!?それじゃ寝たまま、あれだけの事をやったって事?」


 大剣から狼の血が滴っていた事から、エメラは間違いなく礼の仕業だと思っていた。そして、礼にその記憶が無いとくれば、寝たまま戦っていたとしか思えなかった。しかし、現実的にそんな芸当ができるとは思えず、二人して唸るだけで真相らしき朧げなものすら見えてこない。


「結論、わからない!」


 そう、断じた礼の言葉に二人の認識が表れていた。まったくもって訳がわからない現象で想像すらできない。二人にとってはそんな話だった。

 エメラにはもう一つ気になる事があった。エメラが礼の所に駆けつけた時の礼の雰囲気、あれはいつもの礼のものではなかった。そして、確かにエメラを見据えてエメラの事を「ルー」と呼んでいた。

 総合して考えると、何者かに操られているかのように見えなくもないとエメラには思えた。しかし、そう結論付けるには手持ちの判断材料が少なすぎて口に出すのは憚れ、礼にその事は言えずにいた。


「でも、アリィももっと戦う術を身に付けておいた方がよさそうね」


「うん、特に接近された時に何か対応するものが欲しいかも」


 狼に囲まれた時も、予め武器になるものを持っているか、障壁を張りながら同時に攻撃魔法を撃てるスキルがあれば、守りながら少しでも攻撃ができたはずだった。あのような状況になっても、無事にいられて課題が見つかっただけ良かったと礼は良い方向に考えていた。


「そうねぇ…魔法で二つ同時にこなす練習は前提として必要だけど、この前石を切ったあの細い剣なんてどう?」


 礼のイメージで、あれは日本刀だった。現存する刀剣類の中で特に切るという点に重点を置いた武器で、礼にとっては最も武器としてイメージがしやすかった。礼自身気付いていないが、明確にイメージができているほど魔法武器としての性能は高くなり、石を切った際の氷の刀は実はかなりの性能を持っていた。ただ、魔力の制御が甘かったせいで途中で砕けてしまったように、魔法としての完成度が低く、その辺は礼自身の鍛錬が必要だった。


「武器を持ってた方が動きやすい気がするから、いいかも」


「うん。でもどうするにしても魔法を同時に操れるようにならないとダメね。水浴びした後練習しようか」


 二人はそう確認して、残りの食事を片付けていった。

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