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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ
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8話 アリスフィアと魔族

ちょっとした歴史説明回です。

 かつて、アリスフィアと呼ばれる世界の大地には三種の人種しか存在しなかった。

 短命で魔力量も少ないが手先が器用で頭が回る為、文明の利を生かして繁栄した人間族。

 人間族より少し長命で魔力量も多いが、文明を築くのを良しとせず自然と共に生きる精霊族。

 アムブラント山脈に住まう竜族と生活を共にしている竜人族。

 精霊族と竜人族は各々の生活を守ることだけに執着し、残りの八割の大地を人間族同士が奪い合う。そんな時代が続いていたが、とある出来事をきっかけに新たな人種が生まれることとなった。



 現在のセヴィーグ自治区と呼ばれる地域にあるアルグ死火山の火口からガスが漏れ始めた。しかしそのガスは有毒なものではないと判断され、しばらくは放置される事となる。

 しかし変化はゆっくりと、だが確実に起こっていた。ガスが出ている事が確認されてから百年程度経った頃、現セヴィーグ自治区で凶悪なモンスターが出現し始め人間族に対しても牙を剥いてくるようになった。

 事態を重く見た当時のタランタス大陸の覇者アーレム帝国皇帝レグラント一世は人員を派遣して調査を命令した。その結果わかった事は凶悪なモンスターだと思われていたものはすべて野生の獣や虫等が異常発達した姿だと言うことだった。

 元々、何かしらの理由で魔力を溜め込んだ固体がモンスター化するという事象は発生していた。しかし現セヴィーグ自治区で発生している現象はそれだけでは発生頻度という点で説明がつかなかった。さらに調査を進めた結果、異常発達したモンスターからアルグ火山から発生したガスと同質の魔力を大量に溜め込んでいた事が発覚した。

 その事実を知ったレグラント一世はアルグ火山周辺の人を含めた生命を一掃するよう命じた。

 大陸中から集められた精鋭三十万の軍勢に地域の掃討は時間の問題かと誰もが思っていた。しかし、その予測に反して一年掛かっても現地の抵抗に遭い地域を制圧することができなかった。

 その実、異常発達した生物は、なにも野生の生き物だけではなかった。人種も少なからずその影響を受けており、魔力量は従来の人間族の五倍から十倍にも及び、たったの一万の軍勢で三十万の精鋭軍を一年もの間抑えていたのだ。

 さらに地理的にもアーレム帝国軍を苦しめた。現セヴィーグ自治区に入るには霊峰と呼ばれる一万メートル級の山脈を越えるか、迂回してもアムブラント山脈を越えて精霊族の住処である大森林を通過しなければならなかった。アーレム帝国軍は迂回するルートを選択したが、結果的にはこれも悪い方に転がった。運が悪く、襲撃と勘違いした竜族の急襲を受けその数を半分まで減らしてしまったのだ。

 そんな状況もあり、アーレム帝国と現セヴィーグ自治区の争いは均衡状態に陥る。しかし、それも遠征をしているアーレム帝国軍側の方が不利であり、戦況は徐々に現セヴィーグ自治区側に傾いていった。アーレム帝国軍はいたずらに戦費の増大と被害を拡大させる一方となり、帝国内でも侵攻続行派と停止派とで二つに分かれる事となった。

 そんな折、自らを"魔族"と名乗り始めた現セヴィーグ自治区から一人の使者が帝国に訪れる。その目的は三つの条件付きで相互不可侵条約を結ばないかといったものだった。

 お互いの領土には一切手を出さないこと。

 現セヴィーグ自治区で発生する凶悪なモンスターについては魔族ができる限り間引くこと。

 アーレム帝国が魔族に対して自治権を認めること。

 この条件飲むか否かでアーレム帝国内はまたしても紛糾した。条件を飲むという事は自他共に大陸の覇者を認めるアーレム帝国が折れるという事を意味しており、通常であれば到底受け入れられるものではない。しかし結果的にアーレム帝国はこれを受け入れた。現セヴィーグ自治区は、特に優れた資源や肥沃な土地があるわけでもなく、帝国側には戦略的にそこまで価値のある土地ではない。そこに加えてこのまま戦費を消費し続けるのであれば自治権だけ認めて、元々の目的である脅威の排除をしてくれるのであれば安いものだ。レグラント一世もそう考え魔族の提示した条件を飲んだ。

 その結果、正式に自らを魔族と名乗り、彼らの住まう地域をセヴィーグ自治区と名付けた。それをアーレム帝国も認め、一般的にも魔族という人種の呼び名が広まっていく事となった。



 その約二百年後にアーレム帝国は崩壊するが、その後も人間族の間では魔族に手を出してはいけない、そんな風習がしばらく続く事となる。魔族も元々は穏やかな民族が元になっていただけあり、自治区を出て侵略するような事は起きず、結果的に人間族と魔族は相争う事はなかった。



 その均衡が崩れたのは、約三十年前の事だった。神聖エルガラン王国の属国イルダイン公国が霊峰を越えてセヴィーグ自治区に侵攻してきたのだ。この侵攻はとある二人の英雄により難なく退けられる事になるが、今現在も隙あらばとイルダイン公国は虎視眈々と狙っている。そんな状況だった。



「そんな事もあって、それぞれの街で自警軍を整備してる。それにあたしも入ってるってわけ」


 ここでエメラの長い講義が一段楽した。礼としてはアリスフィアの歴史には興味があった事もあり、随分と楽しんで聞いていた。エメラが語り上手という事もあったかもしれない。


「そうすると、今でもイルダイン公国が攻めてくるかもしれないという事ですね?」


「うん、そうね。でも前回こっぴどくやられてるから、そうそう手は出せないと思うけどね」


 実際、霊峰を越えてきた事は賞賛に値するが、結果的にそれだけで兵が疲弊して戦どころではなかったというのも大きかった。指揮官が無能だったのか幸いしたというところか。


「ところで、魅力のないセヴィーグ自治区にどうして急に目を向けたんでしょう?」


「百五十年くらい前に発見された金鉱でしょうね、間違いなく」


 アーレム帝国と争いがあった時は発見されていなかった金鉱。この発見が人間族との均衡を壊すきっかけとなったのだ。今更ではあるが、戦争もなく平和ボケしていた日本とは違うという事を礼は再認識させられた。場合によっては人によって殺される、逆に必要であれば人を殺める。そんな自分とは無関係だと思っていた世界に身を置いている。実感はないが、そんな事実を突き付けられた気持ちになった礼だった。

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