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燈される夜(a)

幽霊生活、二日目の夜。


飛鳥はまた、ひとりだった。

辺りが暗くなっても、マリアとぴよ吉のすがたが見当たらないのだった。


「まったく、ふたりともつれないな……」


飛鳥は、最後にぴよ吉がすがたを消した雑木林のようすを見に行くことにした。


フェンスに近づくと、なにか草がこすれるような音と、わずかなうめき声が聞こえてきた。

飛鳥は音がするほうへ目をこらし、そしてさけんだ。


「ぴ、ぴよ吉、どうしたんだ!? そのけが!」


そこにいたのは、地面に身を投げ出したぴよ吉だった。


両手のつばさを広げ、大の字になってあお向けに倒れている。

服は裂けて、血だらけだ。


「うるせー……」


ぴよ吉は小さい声でそう言うと、ゆっくりと上半身を起こした。


「夜になったから、寝ていただけだろうが……」

「ばかを言え! いったいなにをしたらそんなけがをするんだ!? こっちに来い!」

「うるせーっつってんだろ……」


学校の敷地のそとにある雑木林まで、飛鳥は行くことができない。

かたくなにこちらに来ることをこばむぴよ吉に、飛鳥はやきもきとしながら言った。


「……そう言えば、おまえはひよこのころからそうやってけがばかりしていたな。

少し目を離したすきに、高いところにのぼっては飛びおりて……」


言いながら飛鳥は、はた、と気がついた。


「ぴよ吉……もしかして。おまえ、飛ぼうとしているのか?」


しばらくのあいだ、答えは返ってこなかった。

しかしぴよ吉はよろりと立ち上がると、飛鳥の前のフェンスにひたいをつけた。

フェンスががしゃん、と音を立てる。


「ああ、そうだ。俺は鳥だ。……俺は、空が飛びたいんだ」


それはしぼり出すような声だった。


「ただエサを与えられて息をしていくだけの一生なんて、俺はごめんだった。

どうして俺たちニワトリにはつばさがあるのに、だれもろくに飛べないんだよ?」


ぴよ吉の表情は見えない。

しかし、声にはくやしさがにじみ出ていた。


「せっかく、こんな大きなつばさを手に入れたのに。

俺はまだ、飛べずにいる。なにが……なにがまちがっているんだ?

結局、俺はどうがんばっても、飛べない運命に生まれてきたっていうのか?」

「そんなことはない」


ぴよ吉が顔を上げると、そこには確信に満ちた飛鳥の顔があった。


「おまえのように人に飼われることをこばんだニワトリが、空を飛んだという話を聞いたことがある。

しかしそれよりもたしかなことは」


飛鳥はフェンスに手を当てて、ぴよ吉に言った。


「おまえの思いの強さが、おまえをそのすがたに変えたんだ。それなら、そのすがたには意味があるはずだ」


にっこりとほほえむ飛鳥。

夜なのに、幽霊なのに、ぴよ吉にはなぜかその笑顔がまぶしく見えた。


「おまえはいつか空を飛ぶ。しかしそんなけがをしていたら飛べるものも飛べなくなるだろ。

こっちに来い。傷の具合を見てやるから」


ぴよ吉は飛鳥の顔をフェンス越しにながめていたが、やがてため息をついて立ち上がった。


「おまえには敵わねえな。俺のおふくろかよ」

「似たようなものだろう。ひよこの時から世話をしているんだから」

「……それだと、このすがたになった意味がないんだけれどな」


そのとき、強い風がふいた。

周りの木々がざわめいたせいで、飛鳥はぴよ吉の言葉を聞き逃した。

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