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生まれたての五現目(a)

あれから、どのくらいの時間が過ぎたのだろう。


"なにか"は空気とまじりあって、空間にたゆたっていた。

それはまるでこの世界全体を、うすいまくのようになって覆っているかのような感覚だった。


しかしわずかに意識を動かしたとたん、あちらこちらに散らばっていたかけらのようなものが、急速に自分のもとへと集まりだした。

それらはたちまち、ぎゅっと凝縮され、やがてひとつの形を作り上げた。


そっとこぶしをにぎって、開く。

これは手。


そろりと視線を動かす。

これは目。


短い髪に、短い前髪。

月見坂学園の制服を着た中学一年生。……、そうだ、これは"私"だ!


「うわっ!? な、なんだ!? いったいなにが起きた!?」


飛鳥はさけびながら、飛び起きた。


からだにまとわりつく空気が、まるで水風船のようにふにふにだ。

すべての感覚がやわらかい。


飛鳥は両手で何度かグーとパーを作ることをくり返してから、つぶやいた。


「……、私は、どうしてしまったというんだ?」


見上げると、ちょうど自分の教室……一年B組の窓が見える。


「そうだ、私はあそこから落ちて……、って、なんであんなところから落ちて無事なんだ? 傷ひとつ、見当たらないぞ……」


飛鳥は自分のからだを動かしてみたが、どこも痛いところはない。

校庭の地面にも、血のあとのようなものは見当たらなかった。


飛鳥の目と鼻の先には、黄色と黒で編まれたロープが貼られ、"立ち入り禁止"と書かれた紙が貼られている。

飛鳥はそれを見て、首をかしげた。


「あんなものは、朝に見たときにはなかったような気がしたが……」


それからまじまじと自分の両の手のひらを見た飛鳥は、絶句した。

なぜなら、……手のひらがうっすらと透けていたからだった。


「……これはもしかしなくても、ぜんぜん無事じゃあないぞ」


かたちの定まらない自分の足元を見ながら、飛鳥はひとり、つぶやく。


「まいったな。私は、……どうやら幽霊というものになってしまったらしい」

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