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気がかりな放課後(c)

かばんを落としたまま教室のとびらの前で固まっていたのは、ひとりの女子生徒だった。

名札に引かれたラインの色からして、飛鳥と同じ学年だ。


「……ま、まさか見えているのか!? この私のことが!」


飛鳥が近づこうとすると、女子生徒は「ひゃっ」、と短くさけんで、尻もちをついた。


「ああっ、すまない! おどろかせるつもりは……」

「だ、だいじょうぶ? なにかあったの? 西森さん……」


そこにやってきたのは、先ほど教室から出て行ったばかりの佑虎だった。

どうやら女子生徒の悲鳴を聞いて、もどってきたらしい。


西森と呼ばれた女子生徒は前髪が長く、その目元を覆い隠している。

佑虎以上に、内気な印象の少女だった。


「だ、だいじょうぶ……」


女子生徒はそう言って立ち上がると、ちらりと飛鳥のほうを見た。

それからおろおろしている佑虎に向かって言った。


「ごめんね、ちょっと転んじゃっただけなの。ほんとうに、なんともないから……」

「そ、そう? ……それならいいんだけれど……、えっと、気をつけて帰ってね」


女子生徒はもう一度、飛鳥のことを見た。

その顔は、なにか言いたげだ。すかさず、飛鳥がさけんだ。


「となりのA組の教室へ! 私も行く!」


飛鳥の言葉に、女子生徒が小さくうなずいた。



+++++



A組の教室にも、人はだれも残ってはいなかった。

ひとまずだれに見られても怪しまれないように、女子生徒を彼女自身の席に座らせて、飛鳥はその机の前に浮かんだ。


「私は越智飛鳥。B組の元生徒だ」

「私はA組の西森青空です。越智さんのことは……知ってるよ」


青空は顔にかかる髪を片耳にかけながら、かなしそうな表情で言った。


「二日前に……亡くなったんだよね」

「そうだ。二日前に死んだはずが、成仏しきれずに幽霊になってしまったんだ。

しかし私はわるい幽霊ではない。けっして西森さんに危害などは加えない! わかってくれるか?」

「……うん。……越智さん、ぜんぜんこわくないもの」


青空はそう言ってほほえんだが、またすぐに沈んだ顔にもどった。


「越智さんが生きているうちに、こうしてお話ができればよかったのに……」

「死ななければ、言葉を交わす機会がなかったかもしれない。私はいま、こうして西森さんと話ができることがうれしいんだ」


飛鳥はそう言って笑った。


「むしろ、死んでからのほうが人とよく話すようになった気がする。

……そうだ、西森さんのクラスの赤月君とも、さっき話をしていたんだ」


それを聞いた青空は、あまりおどろかなかったようだった。


「五限目に……、一度私のクラスに来てたよね、越智さん」


そう言われて、飛鳥はかっと顔を赤らめた。


「き、気づいていたのか? それは、はずかしいところを見られたな……」

「ふり返ったときにちらりと見ただけだったから、あのときはあまりよくわからなかったの。

でも、授業が終わったあとにも、だれもそのことについて触れないから、ちょっとおかしいなとは思っていたんだけれど……」


青空の言葉に、飛鳥はうなずいた。


「思った以上に、幽霊を見ることができる人間は少ないみたいなんだ。私が知るところでは、まだ赤月君と西森さんのふたりだけだ」

「越智さんのほかに幽霊さんは、いないの?」

「いまのところは、先輩幽霊がひとりだけ。ほんとうなら、死んだあとはみんなすぐに成仏してしまうらしいんだ。

しかし私の場合は、"未練"が成仏のさまたげになっているらしい。ただ、その肝心の未練にこころ当たりがなくてな……」

「わ、私、その未練を探すお手伝い、する……!」


いきなり大きな声でそう言われたので、飛鳥はおどろいて青空を見た。

青空も自分の声にびっくりしたようで、あわてて手をふった。


「め、迷惑じゃなければだけれど……!

でっ、でも、私にもなにかできることが……あればいいな……って……」


青空の声はそう言っているあいだにもだんだんと小さくなり、最後にはなみだ声になっていった。

しかし青空がその言葉をすべて言い終える前に、飛鳥が青空の手をぎゅっとにぎった。


……といっても、実際はすり抜けてしまうので手を添えるだけだったが、それでも飛鳥はうれしそうに、顔を輝かせた。


「ありがとう、西森さん! 実は、赤月君も同じことを言ってくれたんだ。

私はいい同級生に恵まれていたんだな。こんなにうれしいのは、生まれてはじめてだ」

「そ、そんな、大げさだよ……」


そのとき、教室の前をとおりかかった数学教師の狐塚が声をかけてきた。


「……西森、そんなところでひとりでなにをしているんだ? あんまりおそくまで残ってるんじゃねえぞ」

「はっ、はいっ!?」


青空は椅子から転げ落ちそうになりながら、立ち上がって返事をしたのだった。

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