76 救出完了
エリを自然主義者達から助けるために、タクミ達は彼らのアジトに突入した。そして自然主義者達を倒しながら、奥へと進んで行った。
彼女は祭儀所のような所に捕まっていた。その上、今にも殺されそうになっていた。
殺そうとしていたのは自然主義者達のリーダーのようであった。自らを神父と名乗り、襲いかかってきた。
が、別に強いというわけでは無かった。
アルマンの銃弾を受けて倒れ、タクミの魔剣で首を刎ねて死んだ。
あっという間の出来事であった。
こうしてエリを救出する事ができた。後は無事にここを脱出するだけだ。
「姫!どこか怪我をしておりませぬか?」
アルマンは心配そうに訊ねた。
「大丈夫だよ。どこも痛くないから」
着衣を済ましたエリは嬉しそうに答えた。
「おい、こんな所さっさと出るぞ」
タクミは親指で出口を指しながら言った。
タクミにとって、この空間は不快なものであった。
ロウソクだらけで、祭壇のような者は人骨か何かで飾り付けられている。とても気味の悪い空間だ。
早くこの空間から出たい。タクミはそう思っていた。
「うん、そうだね」
「では参りましょう」
アルマンはエリの手を引いて、出口へ歩き始めた。
タクミはその後を歩く。
「アルマン。イザークとアンリは?」
エリはアルマンの方を向いて訊ねた。
「彼らは別な場所で戦っておるでしょう」
アルマンは彼女の方を向かずに答えた。
「大丈夫かなぁ?」
「ご安心を。自然主義者に銃は有効であります。討ち死にする事は無いでしょう」
「だといいけど……私のために誰かが死ぬだなんて嫌だから……」
エリは心配そうな声で言った。
『あ!お疲れー!なんとか無事に終わったみたいだね』
出口を出ると、リンダのロボットが立っていて、手を振っていた。
「……リンダさん?」
このロボットの事を知らないはずのエリは、リンダに訊ねた。
『そうだよ』
「えっと……どうなっているんですか?」
『遠隔操作で動かしているだけだよ』
「あ、そうなんですか……」
エリはさっきのアルマンに似たリアクションをした。
『ところで、これどう?ピノッキオ零号機っていうんだけど』
リンダはロボットを一回転させながら聞いた。
「凄いです!リンダさんってロボットも作れるだなんて……」
『ふふん、いいでしょ?』
「はい!あ、零号機があるって事は壱号機や弐号機もあるんですか?」
『計画上ではね。今は壱号機……いや、初号機を開発中だよ』
「いいですねぇ!是非ともテストパイロットになりたいです!」
『この零号機だったら、今度触らせてあげるよ。初号機はまだ動かせるような状態じゃないからさ』
「構いません!では今度お願いします!」
エリは嬉しそうに言った。
「あ、吾輩もやってみたいですぞ!」
『いいよ』
「おお!ありがとうございます」
アルマンは嬉しそうに礼を言った。
「おい!そういう話は脱出してから言え!」
完全に立ち話状態となり、苛立ったタクミは注意した。
タクミが苛立った理由は、祭儀所のような所から離れたいだけではない。リンダがさっきの戦いに参加しなかった事にもある。
彼女が言うには、祭儀所のような所の付近で電波の入りが悪くなったという。つまりは、これ以上先に進む事ができないから、見物だけしていたという事だ。
彼女も合流前は戦ったらしいが、それはタクミが見ていない所での事。そのためか、タクミは彼女に対して、怠け者のような印象を感じていた。
『そうだね。あ、よく見たらバッテリーの残量が少なくなってた』
「なんですと!」
『バッテリー切れになったら、君達に連れ帰ってもらわなくちゃいけないし、先に帰るね』
「あー。では、また研究所の前で」
『うん。じゃあね』
リンダは走り去っていった。
「では我々も参りましょうか」
「うん」
アルマンとエリは歩き始めた。
タクミはその後を続く。
しばらく死体だらけの道を戻り、タクミ達はようやく梯子のある部屋までやって来た。そこは通路以上にたくさんの死体があった。
その一方で、仲間は誰もいない。もしかすると、リンダが終わったとみんなに告げたのかもしれない。それで先に帰ったのかもしれない。
タクミ達は死体を避けながら梯子へと向かった。そしてタクミ、アルマン、エリの順に梯子を上った。
廃教会に出ると、すっかり暗くなっていた。ナイツの日の入りの時間を考えると、夜の10時は過ぎている事になる。
廃教会は屋根が穴だらけであるため、月光が差し込み、建物の中にしてはまだ明るい方であった。そしてその差し込まれた月光の一つに、変身を解除したマリーがポツンと立っていた。
「貴様は確かマリーだったな?」
タクミは彼女に話しかけた。
「そうだよ。そういうアンタはタクミだろう?」
マリーはタクミの方を向いて答えた。
「ああ、そうだ」
「みんなはもう帰ったよ。無事に助ける事ができたって聞いたからさ。それを伝えるために待ってた」
「やっぱりそうか」
タクミは頷いた。
「なぬ?イザークとアンリもか?」
アルマンが驚いた様子で訊ねる。
「ああ、アイツらなら研究所に戻るってさ」
「ぬぅ……姫と合流せず、勝手に戻るとは……」
「いいんじゃねぇの、二人で一緒に帰ったらいいじゃねぇか」
「い、いや、しかし……」
マリーの言葉にアルマンは狼狽えた。
そしてマリー自身はニヤけた顔をして見せた。
「待て!戸塚が寮に戻るまでは安心できない。俺も行く」
タクミは言った。
すると、マリーは小さく舌打ちした。
彼女がそうした理由をタクミは分からなかった。
ただ、彼女の癇に障るような言動をしてしまった事だけは何となく分かった。
「ふむ、いいでしょう。では最初に研究所に寄って、それから寮へ戻るとしましょう」
アルマンは提案した。
「いいだろう。じゃあ、早く行くぞ」
タクミ達は廃教会の出口へ向かって歩き出した。
そして廃教会を出ようとした時、タクミは立ち止まってマリーの方を向いて話した。
「貴様も一緒に帰るか?」
「いや、いい。アタシにはやらなきゃいけない事があるからな」
「じゃあ、ここで『さよなら』だな」
「ああ、じゃあな」
「じゃあな。今度は緊急じゃない時に会いたいもんだ」
タクミは先を歩くアルマン達の後を追った。
「それにしても、姫が無事で本当に嬉しく思いましたぞ」
「アルマンのおかげだよ。私、後少しで殺されるところだったもの」
エリとアルマンは手をつなぎながら歩いていた。
それを後ろでタクミが見ていた。
二人は仲が良さそうだった。
もしかして、さっきマリーが舌打ちした理由というのは……
タクミはなんとなく察した。
しかし、タクミは彼らを二人きりにするのには反対だった。
時間は夜だ。また新たな脅威に襲われる可能性は十分にある。それだけは避けたかった。
邪魔者呼ばわりされてもいい。彼女の安全が第一優先だ。タクミはそう思った。
「ん?あれは……」
三人が歩いていると、アルマンが足を止めて、前を指差した。
タクミは指差した方向を見た。
すると、二人組の男が何かを運んでいるのが見えた。よく見ると、彼らはイザークとアンリであった。
「おい!イザーク、アンリ!何をしておる!」
アルマンは大きな声を出して、二人を呼び止めた。
「あ!アルマン!いい所に!」
二人は嬉しそうに振り返った。
「ご覧の通り、ロボットを運んでいます」
イザークが答えた。
「リンダ様に頼まれたのですよ。ロボットが帰還途中にバッテリー切れになったから運んで欲しい、と」
アンリが説明した。
確かに彼らは、さっきのロボットを持っていた。
よほど重いのか、小柄なアンリはともかく、大柄なイザークも重たそうにしている。
「できれば手伝って欲しいのですが、よろしいですかな?」
イザークは重さで顔を強張らせながら訊ねた。
「もちろん手伝いますぞ。あ、タクミ殿!できれば――」
「手伝えってか?まあ、いいが……」
タクミはアルマンと共にロボットを支えた。
ズシリと重さが腕に来る。
「くっ……重い!」
「で、ですな。二人ともよくぞ堪えましたぞ」
「だいぶ……楽にはなりましたが、まだ重いですね」
「最初は拙者一人で十分と思っていましたが……そんな事はありませんでしたぞ」
タクミ達はロボットをゆっくりと運び始めた。
「あの……私も手伝う?」
エリが話しかけてきた。
「いえ、結構!姫にはさせるわけにはいきません!」
アルマンが答えた。
「そう?私、念動力の魔法が使えるんだけど……」
「念動力……それだ!」
アルマンは何かを思い出したかのように叫んだ。
「イザーク!アンリ!V.I.P-Boyのあの機能を使うのだ!」
「あの機能?」
「そうか、『動力機能』ですね?」
イザークにはピンと来なかったらしいが、アンリには分かったようだ。
「左様!というわけで一回下ろすぞ」
「おい、『動力機能』って何だ?」
アルマン達はタクミの質問には答えず、ゆっくりとロボットを石畳の上に置いた。
もちろん、一緒に運んでいたタクミもそうせざるを得なかった。
「おい!質問に答えろ!」
「説明するより見せた方が早い。しばし待て!」
アルマンはそう言った。
そして、左腕に装着された機械を操作し始めた。
「よし!1、2、3で使うぞ!」
「うむ」
「はい」
アルマン達はロボットに左手を向けた。
「1……2……3!」
『3』とアルマンが言った瞬間、各々の左手から青いビームのようなものがロボットに向けて放たれた。
すると、ロボットは宙に浮かび始めた。
「なるほど、念動力みたいなものか」
タクミは納得した。
「左様。これで重さの問題は無くなった」
「後はリンダ様の所まで運ぶだけ」
「三点で支えれば安定して、どこかにぶつける危険も無いでしょう」
アルマン達は口々に言った。
「では出発」
アルマン達は移動を開始した。
それから少し遅れて、タクミとエリも移動する。
「魔道工学というのも、なかなか面白いな」
タクミは素直に言った。
「でしょ?タっ君もたまにはどう?」
エリは嬉しそうに言った。
「……魔道武術に活かせるものがあるならな」
「んーと、どうかなぁ?魔道式ノコギリなんてどう?チェーンソーみたいな工具なんだけど」
「却下」
「えーと、じゃあ――」
タクミとエリのやり取りはリンダの研究所に到着するまで続いた。
そしてその後、予定通りに寮へ戻る事ができたのであった。




