74 救出進行中
アルマン達にとって、エリは姫であり、とても大切な人であった。
その彼女が自然主義者達に捕まったというのは、由々しき事態であった。
自然主義者というのは、全裸で過ごし、草食人種の肉を食らうという危険人物である。
そんな彼らにエリが捕まったという事は、彼女が食べられてしまう事を意味する。
そんな事はさせない。アルマン達は他の仲間と共に、急いで彼女を助けようと彼らのアジトへと乗り込んだ。
ところが、彼らは思った以上にいっぱいいて、足止めを受けていた。
アルマン達は銃撃でなんとか道を開け、奥へと足を進めた。
「邪魔をするなら容赦せぬぞ!」
アルマンは自動小銃に火を噴かせながら叫んだ。
通路を塞いでいた自然主義者達は、体に銃弾を受けて次々と倒れた。
通路には自然主義者達がうじゃうじゃいた。倒しても倒しても、なかなか数が減らない。
「ここは拙者にお任せを!」
イザークは持っていた散弾銃を彼らに向けた。発砲音と共に多くの自然主義者達が倒れる。
「援護します!」
アンリは二丁の機関拳銃を構えて発砲した。さらに多くの自然主義者達が倒れる。
「いい援護だ!感謝する!」
アルマンはリロードしながらイザークとアンリを褒めた。
「道が開きました!行きましょう!」
アンリの言葉にアルマン達はさらに奥へと進んで行った。
進む、阻まれる、倒す、進む……
しばらくこれが続いた。後ろを向く余裕など無いがきっと廊下は死体だらけになっているだろう。
アルマンがそんな事を考えていると、突然目の前に壁が現れた。
「何?行き止まり?」
「いいえ、アルマン。丁字路です」
アンリに言われて、アルマンは左右を見た。
確かに左右には道がある。
「どっちへ進む?俺は左の方が怪しいと思うが」
タクミは訊ねた。
「拙者は……右だと」
「私も右だと思いますね」
イザークとアンリは言った。
どちらへ進もうか。
そんな事を考えている時間は無い。
今いるのは四人。
ちょうど二人ずつに分ける事ができる。
それでいこう。
アルマンの考えは素早かった。
「では、イザークとアンリは右を探すのだ!吾輩とタクミ殿とで左の方を調べる」
イザークとアンリは頷くと、右の通路を進み始めた。
それを見てから、アルマンは左の通路を進み始めた。
「なるほど、良い考えだ」
アルマンの背後からタクミの声が聞こえた。ちゃんとついて来ているらしい。
「姫をお助けするには、時間が重要。ここで迷っている時間はありませぬ」
アルマンは銃を構えながら言った。
少し進むと、また自然主義者達によって行く手を阻まれた。アルマンは落ち着いて発砲。自然主義者達を倒していく。
しかし、さっきよりも倒しにくくなっていた。考えればそうだろう。銃を持っているのが二人も減ったのだから。
自然主義者達は魔法を放ってきた。アルマンには守るすべが無い。
そこでバックステップで避けようとした。するとタクミが前へ出て、攻撃を防いだ。
「選手交代だ。今度は俺が道を作る。貴様は援護しろ。くれぐれも俺を撃たないようにな」
彼はそう言って、自然主義者達を斬り始めた。
「かたじけない」
アルマンは感謝の言葉を言いながら、銃で自然主義者達に狙いを定めた。
ドドン。
ドドン。
ドドン。
アルマンは冷静に頭を撃ち抜く。自然主義者達は頭から鮮血を放つ。
「よし!進むぞ」
自然主義者達を全て倒すと、タクミは言った。
そして、走り始めた。
アルマンもそれに続く。
進む、阻まれる、倒す、進む……
またしばらく、これが続いた。
「ふ、ふぅ……まだ姫の所には着かないのですかな?」
歩きながらアルマンは弱音を吐いた。
アルマンは疲れていた。
元々運動は得意ではない。本当の事を言えば、少し休憩したいくらいであった。
「知らねぇ。だが、あれだけザコを倒したんだから、何かしらの動きがあるはずだ」
タクミは歩きながら言った。
その後、彼の言った言葉の通り、動きがあった。
いくら移動しても、自然主義者とは一人も遭遇しなかった。いつの間にか周りは静かになっている。
「全滅……させたのかもしれませんなぁ」
アルマンは呟いた。
「かもしれない。だとしたら、戸塚を探しやすくなるな」
タクミは言った。
「ところで貴様。リンダと同じ機械を持っているようだが、奴みたいに戸塚の居場所を調べる事はできねぇのか?」
タクミはアルマンの方を向くと、V.I.P-Boyを指差して聞いてきた。
「うぅむ……確かに技術的には可能。しかし、吾輩にそれができるかどうか……」
アルマンは頭を掻きながら答えた。
方法は分かる。
エリのV.I.P-Boyやスマートフォンから発せられる位置情報。それをキャッチする。
そして地図上に表示させればいい。
しかし、そのための手段がアルマンには分からなかった。
いや、完全に分からないわけではない。部分的には分かるのだが、全体像が思い浮かばないのだ。
「そうか。できるんだったら、探すのが楽になると思ったんだがな……」
タクミは残念そうな様子で言った。
「申し訳ございませぬ……」
アルマンには謝る事しか出来なかった。
「仕方ない、こうなったら当てずっぽうに探すしか――待て!何の音だ?」
タクミは耳を立てて警戒した。
アルマンも耳を澄まして、タクミが聞いた音を聞こうとした。
ガション。
ガション。
ガション。
確かに何かの音がする。
まるで……鎧を着た人物が走って来るような音だ。
マリーだろうか。いや、彼女の足音にしては重い。
ではこの音の正体はいったい……
奇妙な音はアルマン達の背後から聞こえた。振り返ってみると、何か人影が見えた。どんどんと近づいてくる。そして、あっという間に姿がハッキリと見える距離まで来た。
その姿は完全にロボットだった。
全長は160cmくらいで、全体的に黄色の塗装が施されている。
頭はボールにヘッドギアを被せたような形だ。単眼で、その下に赤い突起がある。そして胴体は全体的に細く、ところどころ外装が剥がれて、配線だらけの中身が見えている。
何者だろうか。アルマンは警戒した。
敵だろうか。いや、自然主義者は機械を好まないという。
では味方か。それは分からない。
『ヤッホー!』
ロボットは近づきながら手を振ってきた。
アルマンは今発せられた声に聞き覚えがあり、安心感を与えられた。
「何だ貴様!」
タクミは杖を構えて威嚇した。
「待て!この方は……」
アルマンはタクミを制した。
『僕だよ、僕。リンダだよ』
ロボットは名乗った。
そう、ロボットの声はリンダの声だった。
スピーカーのせいで若干音が割れているが、間違いなく彼女の声であった。
「リンダ様!どうしてここへ?……いえ、それより、そのお姿は?」
アルマンは訊ねた。
『正確に言えば、君達の前にいるのはアバターだよ』
「アバター?」
『遠隔操作で動かしているんだ。本当の僕は研究室でのんびりしているよ』
リンダはそう言うと、ズズッと謎の音を立てた。
『あ、今のはカプチーノを飲んだ音ね』
「それはどうでもいい。何故ここに来た?」
タクミが訊ねた。
『もちろん君達の手伝いだよ。ついでにこのロボット、ピノッキオ零号機の試験も兼ねてね』
リンダは自分を指差していった。
「試験?」
アルマンは聞き返した。
『さっきはみんなと一緒に戦ってみたけど、耐久性以外はほぼ合格点だったね。で、戦闘のデータは十分とれたからコッチに来たんだ』
「何のためにだ?」
『もちろんエリちゃんを助けるためだよ。今、彼女のV.I.P-Boyの位置を追っているんだ。道に迷っているなら僕の後をついて来て』
リンダはそう言うと走り始めた。
アルマンとタクミは彼女の後を追った。
「さっき『みんなと一緒に戦った』と言ったな?状況はどうなっている?」
タクミは訊ねた。
『何の問題もないよ。自然主義者の方が一方的にやられてるような状態だよ』
「そうか。心配はいらないって事だな」
『まあね』
リンダは再びズズッと音を立てた。
『あ、ちょっと待って!』
リンダは急に立ち止まった。
アルマンとタクミは突然の事に彼女にぶつかりそうになった。
『これで最後か……大丈夫かな?』
リンダは呟くと、どこからか奇妙な機械を取り出した。
そして、近くの壁に貼り付けた。
『これでよし!うん、また良好になったね』
リンダは頷きながら言った。
「リンダ様、コレはいったい……」
アルマンは訊ねた。
『コレ?無線用の中継器だよ。ココみたいに電波の入りが悪い所じゃ、うまく動かせないからね』
「そうでしたか」
『今ので最後。エリちゃんのV.I.P-Boyの位置はここから遠くないけど、正直なところギリギリだね』
リンダはやれやれと言いたそうな仕草をした。
「なら、行ける所まででいい。さっさと案内しろ」
タクミは苛立ったような様子で言った。
『うん、じゃあ行くよ』
リンダは再び走り始めた。
「本当に間に合うと思うか?」
タクミはリンダの後を追いながらアルマンに聞いた。
「正直なところ、いささか心配ですな」
アルマンは不安な気持ちを吐き出した。
『うーん、もしかしたらダメかも』
リンダはとんでもない事を言った。
「な!」
「に!」
彼女の発言に二人は驚く。
『今、彼女のV.I.P-Boyをハッキングしているんだけど、生命兆候が全部ゼロなんだよね』
「ゼロだと!」
『これはV.I.P-Boyが外されているか、死んでいるかのどちらかなんだよね。もちろん、前者であって欲しいけどね』
「リンダ様!何故そんなにさらっと不吉な事を言うのです!」
『……なんかさ、今にも死んじゃいそうな人がいると、冷静になっちゃうんだよね。僕の父さんの時もそうだった。ああ、これから死ぬんだなって……』
「リンダ様……」
「死なせねぇよ!約束したんだ!」
タクミは叫んだ。
「うむ!姫を絶対にお助けするのだ!」
アルマンは自分を鼓舞して言った。
絶対助ける。そう思うと、元気が湧いてきた。
アルマンは不安な気持ちを振り払い、リンダの後を追った。




