60 ゲーム魔法
「ハナちゃん、優勝おめでとう!」
寮に戻ってきたハナはエリにハグをされた。
「やったよ!」
ハナは持っていた優勝杯をタクミ達に見せつけた。
「しかしなぁ、ホンマに凄いで」
アカネは興奮した様子で言った。
「何やねん、あの魔法。まるでゲームを観とるような光景やったで」
「だな。あれってハナの固有魔法なんだろ?何なんだ、あの魔法は?」
ミアがハナに訊ねた。
ハナが三回戦で見せた、あの奇妙な力。
アレはその後の試合でも使われた。
言うならば、アレのおかげで優勝できたものだ。
まるでゲームのキャラクターのような動き。
魔法の力によるものなのは明らかだが、それにしても妙な能力であった。
「ほえ?『ゲーム魔法』だよ」
ハナはキョトンとした様子で答えた。
「『ゲーム魔法』だぁ?」
そのまんまのネーミングに、タクミは思わず話に割り込んだ。
「うん。そうだよ」
ハナは頷いた。
「ゲームの力でハナは変身するんだよ。凄いでしょ?」
「全く意味が分からん」
自慢げな様子で言うハナに対し、タクミは頭を掻いた。
「え?それって『エグゼイダー』みたいじゃない!」
エリはハナから離れると、驚いた様子で言った。
「あー!それや!何やどっかで見た事ある気がしたんや!」
アカネはエリを指差した。
「ほえ?アカネちゃんもエリちゃんも『エグゼイダー』知っているの?」
ハナは首を傾げていった。
「ウチは小学生の弟がおるからな。一緒に見とったんや」
「私は、特撮ものって好きだから……ゲイム役の人もカッコイイし……」
さらっと答えたアカネに対し、エリは少し照れた様子で答えた。
「『エグゼイダー』?」
ミアは分からないといった様子で、タクミを見た。
まるで解説を頼むかのような目をしている。
タクミは首を横に振った。
その手の番組は、とっくの昔に卒業している。
どんな物語かなんて知るはずもない。
「何なんだよそれ?」
タクミはハナに訊ねた。
「だからぁ、ゲームの力でハナは強くなるんだよぉ」
「全然分からん。もっと分かるように言え」
タクミはハナの答えにイラッとした。
「じゃあぁ、ハナと戦ってみる?」
「いいだろう。実際戦った方が理解が早い」
「ちょい待ち!ハナちゃん戦ってきたばかりやろ!少し休まんと!」
二人の間にアカネが割って入ると、彼女は声を荒げた。
「大丈夫だよ、アカネちゃん。ハナはまだまだ元気だよ」
「ホンマか?あんなに動いた後なのに凄いなぁ……」
アカネは驚いた様子で言った。
「よし、じゃあ奥へ移動するぞ」
タクミはそう言うと、奥にある訓練用のスペースへと移動を始めた。
「で?どんな魔法なんだ?」
タクミはハナの前に立つと訊ねた。
「ん~とね、こうするの」
ハナはそう言うと、両腕を横に真っ直ぐに伸ばした。
するとあの時のように、彼女の体から三枚の半透明の窓のようなものが現れた。
「何なんだ、ソレ」
「ゲームのタイトル画面だよぉ」
タクミの質問にハナは答えた。
確かに言われてみると、そのように見えた。
一枚は、道着を着た人物がファイティングポーズを取ったイラストが表記されている。
一枚は、銃とハート型の標準のイラストが表記されている。
一枚は、ディフォルメされたキャラクターがジャンプしているイラストが表記されている。
それらは、彼女を中心にゆっくりと回転している。
「で?」
「ハナがどれかに触ると、そのゲームの力が使えるの」
再びタクミの質問にハナは答えた。
「どれがどんなゲームなの?」
エリは質問した。
「ん~とね、格闘、シューティング、アクションだよ」
ハナは指を折りながら答えた。
「タイトルとかってあるんか?」
アカネは訊ねた。
「格闘が『ノックアウト・バトラー』で、シューティングが『ずっきゅん・トリガー』。アクションが『マリック・トリック』だよ」
ハナはゆっくりと答えた。
「『ずっきゅん』……そういえば、決勝戦で銃使ぅてたな」
「そうだったね。怪我はなかったみたいだけど、ハチの巣にされていて可哀そうだったよね」
アカネとエリは顔を見合わせた。
「ああ、そういう事か。準決勝まで格闘ゲーム。決勝戦でシューティングゲームで戦ってたってわけだな?」
「うん、そう」
タクミが訊ねるとハナは頷いた。
「あ、アタシはゲームの事ってよく分からないけどさ……ようは、魔法でゲームっぽい事としていたって事か?」
「まあ、そういう事なんだろうな」
タクミはハナの代わりに答えた。
「それで?俺とはどのゲームを使って戦うんだ?」
「ん~、これかな?」
タクミが訊ねると、ハナは半透明の窓のようなものに一枚に触れた。
それはディフォルメされたキャラクターがジャンプしているイラストのものだった。
さっきの話から考えて、おそらくはアクションゲーム。
『マリック!トリック!』
触れた瞬間に窓のようなものから声が聞こえた。
そしてソレは彼女の前に出ると、彼女を眩しい光で包んだ。
強い光が彼女を包む。
それが一、二秒ほどして、光は弱くなった。
そして姿を現した彼女は、あの時と同様に衣装が変わっていた。
肩や肘等、あちこちに紫のプロテクターが装着され、顔には白のゴーグルが装着されていた。
これがアクションゲームでの彼女の姿らしい。
「おい、伊藤。俺はお前だからって容赦はしない。だから、貴様も本気で来い!」
「うん、分かった」
タクミが言うと、ハナはあっさり頷いて向かってきた。
ハナは跳んだ。
ポインと妙な音と共に、彼女は高く跳び上がる。
そして、タクミを踏みつけようとしてきた。
タクミは迎え撃つ。
両手を魔力の鎧で覆うと、殴ろうと構えた。
「おっと!」
ハナは声を上げると、空中で後退し、床に着地した。
「なるほど。アクションゲームなら、そういうのはアリか」
タクミは小さく舌打ちして言った。
「行くよ!」
ハナはそう言うと、右手を上に上げた。
すると突然、彼女の手にマンガみたいなデザインのハンマーが握られた。
『ブレイクハンマー!』
窓のようなものに触れた時と同じ声が響いた。
「て~い!」
ハナはハンマーを手に、タクミへ迫った。
彼女の動きは早い。あっという間にハンマーが届く距離まで近づけてきた。
ハンマーが振り下ろされる。
タクミは魔力の鎧で覆った右の拳で迎え撃った。
ドシンと重々しい音が響く。
右手が弾かれた。右手が痺れる。
これを受けてはマズい。
タクミは今の一撃で理解した。
考えてみれば、アクションゲームの敵キャラクターは一発の攻撃で倒せる事が多い。それだけのパワーを持っている。
ということは、今の彼女は機動性とパワーに優れた力を持っていると考えるべきだろう。
「それそれそれそれそれ!」
ハナはハンマーをメチャクチャに振り回す。
タクミは必死でそれを避け続けた。
なにしろ一撃が強烈だ。
それを手数で攻められるとかなりキツい。
「このっ!」
タクミは一瞬だけハナに隙を見つけた。
そこを左の拳で攻撃する。
「痛ぃ!」
拳は彼女の胸に当たり、彼女は怯んだ。
これはチャンス。タクミは右の拳で追い打ちをかける。
「痛いよバカぁ!」
しかし、そうはいかなかった。
タクミが繰り出した拳は、彼女が振り下ろしたハンマーに命中した。
ミシリと嫌な音を立て、拳に激痛が走る。
「ぐっ!」
折れたか。タクミが一瞬、その事に気が行った瞬間であった。
ハナはハンマーを振り上げ、それがタクミの胴体を直撃した。
「がぁ!」
タクミの体は吹っ飛んだ。
吹っ飛び、そして壁に激突した。
壁が凹む。全身が軋みを上げる。
死ぬ。
タクミは本気でそう思った。
「勝った!」
ハナが喜びの声を上げた。
彼女の変身が解除される。決着はついたようだ。
「お、おい!大丈夫か?」
ミアが真っ先に駆け寄ってきた。
「大丈夫じゃねぇな……」
タクミは壁に寄りかかり座り込みながら答えた。
「悪ぃが医務室まで連れてってくれ……骨がヤベぇかもしれねぇ……」
タクミは痛みに耐えながら彼女に頼んだ。
全身が痛い。特に肋骨あたりに激痛が走る。
あのハンマーが直撃した。魔力の鎧で防ぐ事ができなかった。
モロに入ったのだ。無事だとは考えにくい。
「ゴメンね、タっ君」
ハナは申し訳なさそうな様子で近寄ってきた。
「いい……貴様と戦うんだ……このくらいの覚悟はできていた」
タクミは息を荒くしながら言った。
「にしてもだ……それだけ強けりゃ……『舞台上の決闘』部は安泰だな……部長でも目指すか?」
「ううん。ハナは辞めるよ」
ハナはキョトンとして答えた。
「アアン?」
予想外の答えにタクミは大きな声を出した。
「何かね、違うなって思ったの。優勝もしたし、もぅいいかなって……」
「何……だよ……それ……」
タクミは急に力が抜けてきた。
「ちょ!ホンマかいな?」
「えぇ!それでいいの?」
「バカか!」
みんながハナの方を向いて言った。
ハナ。
前から思っていたが、彼女はヤバい奴だ。
将来、大物になるかもしれない。
タクミは彼女を見つめながら思った。
視界が少しずつ霞んでいく。
意識が……マズいかもしれない……
少し……休もう……
タクミはゆっくりと目を閉じた。
 




