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49 あなたを特別に!

 エリとモテない三銃士はリンダの研究所を訪ねた。

 そして所内を見学させてもらえる事となった。


 しかしそのためには、機密情報を漏らさないと誓う必要があった。

 リンダから誓って欲しいと言われたエリ達は誓約書にサインを書いていた。


「……出来ました」

「ほい。ありがとね」

 エリは誓約書に自分の名前を署名すると、リンダに渡した。


「吾輩も」

「拙者も」

「私も」

 モテない三銃士も誓約書をリンダに渡した。


「うん、これで全員分だね。じゃあ研究室へ移動するよ」

 リンダはそう言うと、さっさと下へと降りていった。


 エリ達は後を追う。

 そして一階へと戻ると、リンダはすでにエレベーターに乗っていた。


「おーい。早くおいでよ」

 リンダはボタンを片手で押しながら手招きした。たぶん『開』ボタンだろう。

 エリ達は急いで乗り込む。


「みんな乗ったね?じゃあ、出発だよぉ」

 リンダは『閉』ボタンを押した。

 扉が閉まり、エレベーターは降下し始める。


「少し……キツいですな……」

 降下が始まって間もなく、イザークは呟いた。


「ゴメンね。大人数での移動って、想定していないんだ」

 リンダは謝った。


「あ、大人数と言えば……」

 アルマンは思い出したかのように口を開いた。


「さっきから気になってましたが、他の研究員の方が見当たりませぬ。皆さん、研究室にいらっしゃいますかな?」

「ううん。研究員はボクだけだよ」

「え?」

 エリとモテない三銃士は、口をそろえて聞き返した。


「研究員はボクしかいないんだ。後は『ボランティア』の人が五人くらいかな?」

「あー、リンダ様?あなた様だけとは?それに『ボランティア』とは何者です?」

 アルマンは訊ねた。


「支部長だなんて肩書きがあるけどさ、ここで研究を行っているのはボクしかいないんだ。だから成り行きでそうなっただけなんだ」

「何故お一人で?」

 イザークは訊ねた。


「それだけボクは優秀って事らしいんだ。自覚は無いけどね」

「……左様でございますか」

「それで、『ボランティア』とは?」

 アンリが訊ねた。


「言葉通りの人達だよ。ボクの研究のために無償で役に立ってくれているんだ」

 リンダは彼の顔を見ながら言った。


「へぇ、無償ですか」

 アンリは言われた事を繰り返した。

 するとピンポンとチャイムが鳴り、エレベーターは降下を止めた。

 そして扉が開く。どうやら到着したらしい。


「こっちだよぉ。ついて来てね」

 リンダが真っ先にエレベーターを降りた。

 エリ達もそれに続く。


 降りた所は真っ白な廊下だった。

 清潔感があり、どこか現実味の無い雰囲気を感じる。

 エリ達はそこを、リンダと共に歩いていく。

 そして少し歩くと、扉があった。


 リンダはそのまま扉の前に立つと、扉は左右に開いた。自動ドアになっているらしい。

 彼女はそのまま奥へと進む。その様子を見てエリ達もそうする。


「はーい。研究室へようこそー!」

 エリ達が中へ入ると、リンダは振り返って言った。


 ここが研究室か。

 そう思ったエリは周囲を見回した。


 広さは六畳程度。

 デスクトップ型のパソコンが一台。仮眠用なのかベッドが一床。ディスクが入ったケースのようなものがたくさん入った棚が一台。

 他にも部屋があるらしく、部屋の奥には扉が二枚ある。

 後は特に目を引くものは無い。殺風景といえばその通りな空間となっている。


「ここは何をする部屋ですかな?」

 アルマンは訊ねた。


「ここはボクの私室だよ。実験室とか作業室は奥にあるんだ」

「ほう、ここがリンダ様の……」

 アルマンは周囲を見回した。


「あ、そうだ。せっかくボクの部屋に来たんだから、ちょっとした記念品をあげちゃおうかな」

「え、何ですか?」

 エリは訊ねた。


「君達のV.I.P-Boy(ヴィップ・ボゥイ)に疑似魔法詠唱アプリをインストールしてあげるよ」

 リンダは自身の左腕の端末を見せつけながら答えた。


「え!よろしいのですか?」

「確か買おうとすると、値の張るアプリのはずでは?」

 アルマンとイザークは驚いた。


「うん、いいよ。さっきも言ったように、若い芽は摘み取らずに育てなきゃ」

 リンダは『笑顔』で答えた。


「あの……V.I.P-Boyって?」

 盛り上がっている時に申し訳ないと思いつつ、エリは訊ねた。


「あれ?知らない?」

 リンダは首を傾げた。


「いえ、存在は知っていたんですけど……実際に見た事無かったもので……」

 エリは恐る恐る答えた。


「あー、もしかして、君ってエイジャ大陸の出身?」

「あ、はい。ヤマト国出身です」

「あー、じゃあ知らないよね。これはまだ、ここユーリッパ大陸でしか販売していないし」

 リンダは納得した様子で頷いた。


 アルマン達が装着していた機械。これがV.I.P-Boyだったのか。

 エリはリンダのものを凝視しながら思った。


 V.I.P-Boy。

 『あなたを特別にする』というキャッチコピーで有名な装着型(ウェアラブル)コンピューターだ。

 他のコンピューターと違い、魔術的な技術が使われているというのが最大の特徴だと言われている。


 ユーリッパ大陸でしか販売していないというのは理由がある。

 動力である核物質を平和的利用できるのはユーリッパ大陸の国々だけだからだ。

 眉唾物の話だが、そういう話だとエリは聞いている。


「じゃあ、君には実験用に使っている物を一台あげるよ。もちろん疑似魔法詠唱アプリは入っているし、他にも便利なアプリも色々入っているよ」

 リンダはそう言うと、パソコンの傍に置いていたV.I.P-Boyを取り、エリに手渡した。


「い、いいんですか?」

 エリはとりあえず受け取るも、本当にいいのだろうかと思って訊ねた。


「うん。替えならまだあるからさ」

 リンダは『笑顔』で頷いた。


 彼女の答えを受けて、エリはさっそく左腕に装着してみた。

 肘から手首の関節近くまでを覆う端末。

 見た目は少々ゴツいが、実際に装着してみると意外と軽い。


「あの……どうです?似合います?」

 エリは聞いてみた。


「うん、似合っているよ。これで君も『特別』になれたね」

「……えへ」

 リンダから言われて、エリは照れながら喜んだ。


「あ、そのままボクに向けててくれるかな?今、使用者情報を君のに書き換えるから。後、インストールするから、君達のをボクに貸してちょうだい」

 リンダはエリのV.I.P-Boyをいじり始めながら、モテない三銃士に言った。






「はい。これでいいよ」

 モテない三銃士からV.I.P-Boyを受け取って五分後、作業を終えたリンダは彼らに返しながら言った。


「これで我々も魔法を使う事ができるわけですな?」

 アルマンは返されたV.I.P-Boyを装着しながら聞いた。


「うん。まあ、正確には疑似魔法だね。極めて魔法に近い現象を使う事ができるよ」

 リンダは答えた。


「魔法……さっそく何か使ってみたいものですなぁ」

 イザークは嬉しそうに言った。


「それなら実験室だね。この後移動するから、その時試させてあげるよ」

「ほう、実験室ですか」

「うん。試し撃ちの為の部屋があるんだ。そこで思う存分にやってみるといいよ」

 リンダからそう言われたイザークは一層嬉しそうな様子になった。


「それじゃあ次の部屋に移動するよ」

「次は何の部屋なんですか?」

 リンダが移動しようとしたため、エリは聞いてみた。


「次は作業室だよ。試作品とかを作る時に使うんだ」

「ほう、面白そうですなぁ」

 リンダの答えにアルマンが興味を示した。


「うん。君達なら気に入ると思うよ」

 リンダはそう言って、奥の扉の一つへ移動を始めた。

 その扉も自動ドアになっていて、彼女が近づくと自動で開いた。


 エリ達は彼女の後を追った。

 そして部屋に入ると、そこはさっきの部屋と同じくらいの広さの部屋になっていた。


「ここが作業室だよ」

 リンダはエリ達の方を向いて言った。


 そこはいかにもそれらしい部屋であった。

 大きな棚があり、そこにはよく分からない機械の部品が収納されている。

 部屋の中央には大きな作業台と思わしきものがあり、その上には作りかけのように見える部品や工具らしきものが散らばっていた。


「ほう、ここでリンダ様の作品が生まれるわけですな」

 アルマンは作業台と思わしきものを見ながら言った。


「まあね。でも既存のものを趣味で改造する事もよくあるよ。後は、副業でちょっとした物を作ったりとかさ」

「副業?例えば何です?」

 イザークが質問した。


「んとね、銃かな。ガラクタを寄せ集めてさ」

「はい?」

 エリが彼の顔を見ると、目が点になっていた。

 たぶん自分も同じ顔をしている。エリは思った。


「一般人向けに格安の銃を作っているんだ。護身用とか言ってさ。けっこう人気があるよ」

 リンダはしれっと言った。


「いいですね、それ。迷い込んできたモンスター、突然現れた悪漢。私達の世界は危険に満ちています」

 アンリは拍手しながら言った。


「でしょ?あ、もちろん綺麗な見た目の銃も作っているよ。これはお金に余裕がある人向きなんだけどね」

 リンダは得意そうな様子で言った。


「あ、そうだ!せっかくだから銃もあげちゃうよ。もちろん、弾薬もね」

「よ、よろしいのですか?さっき有料のアプリをいただいたばかりだというのに……」

 アルマンは困惑した様子で聞いた。


「いいよいいよ。ボクって結構寂しかったんだろうね。君達みたいにまともな人と会話できてとても嬉しいんだ。だからそれくらい、どうもしないよ」

 リンダはそう言いながら、自身のV.I.P-Boyを操作した。

 すると、彼女の目の前に光の粒子のような物が集まり、何かの形を成型した。

 これは……銃だ。銃と弾薬箱と思わしき物が彼女の目の前に生成された。


「はい、アルマン君。君には自動小銃(アサルトライフル)をあげるよ」

 リンダはアルマンに銃と弾薬箱を渡した。


「……大切に使わせていただきます」

 彼は礼儀正しく受け取った。


「次はイザーク君だよ。君には半自動(セミオートマチック)散弾銃をあげるよ」

 リンダは再びV.I.P-Boyを操作して、銃と弾薬箱を生成した。


「……ありがとうございます」

 彼はお辞儀をして受け取った。


「次はアンリ君だ。君には機関拳銃(マシンピストル)を二丁だよ」

「これは素晴らしい物ですね。感謝します」

 アンリもリンダから銃と弾薬箱を受け取った。


「さて、最後はエリちゃんだけど……」

「は、はい……」

 リンダがエリの方を向くと、エリは少し緊張した。


「君ってもしかして、魔法が使えるじゃないかな?」

「は、はい……そうです」

「だったら、ちょうどいいのがあるんだ」

 リンダはそう言うと、再び自身のV.I.P-Boyを操作した。

 そして、生成された物は……


回転式拳銃(リボルバー)……ですか?」

「うん。でも、ただの銃じゃないんだ」

 銃を手渡しながら、リンダはエリに言った。


「え?」

「これはね、魔法を銃弾代わりに使う物なんだ」

「魔法を……銃弾代わりに?」

 エリはピンと来なかった。


「うん。まずは弾倉に魔法を吹き込むんだ。で、引き金を引くと魔法が発射されるって仕組みだよ」

「吹き込む?」

「うーん、ボクは魔法が使えないからよく分からないんだけど、弾倉に魔法を流せば吹き込まれるはずなんだ」

 リンダは『困った』表情をして答えた。


「そうなんですか……でも、魔法を吹き込む利点(メリット)ってあるんですか?」

「あー、魔法を使えない人が限定的とはいえ魔法を放つ事ができる事かな?後は吹き込まれた魔法は威力が増幅されるって事とか……」

「えーと……私の場合ですと、魔法の増幅だけですね?あ、でも、これって杖の代わりに使えそうな気がします!」

「その辺はボクには何とも言えないかな……ゴメンね」

 リンダは頭を掻いた。


「いえ、ちょうど杖が欲しかったんです。ありがとうございます」

「まあ、君が喜んでくれるならいいか。あ、これってまだ試作品だから、使い心地とか言ってくれたら改良してあげるからね」

「あ、はい。分かりました」

 エリは笑顔で言った。


「それじゃあ今度は実験室に移動するよ」

 リンダは移動を始めた。

 エリ達は彼女の後に続いた。


 彼女の後を、エリは鼻歌交じりに歩いた。

 エリにとって、銃はカッコイイ物だ。

 それを手にする事ができて嬉しかったのであった。


 しかし、この時はまだ知らなかった。

 銃を持つ事。それがいったいどういう意味を持つのかを。

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