43 夏休み突入
「毎日更新するのは少しの間だけ」だと言ったな?
スマンありゃウソだった。
もうちっとだけ続くんじゃ
タクミはいつものように寮で朝食を食べていた。
そして、いつものように校長がやってきた。
しかし、校長の様子はいつもとは違っていた。
何というか、とても機嫌が良さそうに見えた。
「ハーイ、おはようございまーす」
校長は元気に挨拶した。
「どないした?今日は妙に楽しそうやけど」
アカネが聞いた。
「もちろん、今日から夏休みだからですよ」
校長は嬉しそうに答えた。
そうか、もう夏休みに入ったのか。
タクミは思った。
そして同時に疑問が浮かんだ。
「おい、校長。なんでアンタが嬉しそうにしている?」
タクミは疑問をぶつけた。
「何故って、もちろん私も休みに入るからですよ」
校長はキョトンとした様子で答えた。
「いや、仕事しろ」
「何故です?」
「聞きたいか?」
「はい、是非」
校長の言葉にタクミは深呼吸をした。
「アンタはここの顔だ。リーダーであり、トップだ。『責任者出てこい』と言われたら出ていかなきゃいけない立場だ。つまりは、この大学の代表だからだ」
タクミは一息で答えた。
「んー、そう言われましても毎年していた事ですし、今年から無しというのも……」
校長は困った様子で言った。
それでよく大学を運営できたものだ。
そう思ったタクミは呆れた。
「そんな事より!皆さん、夏休みの予定はありますか?」
校長は訊ねた。
「アカネさんは?」
「ウチはニコルんとこでバイトや」
アカネは答えた。
「エリさんは?」
「リンダという人のところへ行って勉強してきます」
エリは答えた。
「ハナさんは?」
「魔法の勉強をするよぉ」
ハナは答えた。
「タクミさんは?」
「ミアと魔道武術の訓練をする」
タクミは答えた。
「ということはミアさんも?」
「タっ君と魔道武術の訓練だ」
ミアは答えた。
「なるほど。皆さん、休み中の予定はしっかりあるのですね」
校長は安心したように頷いた。
「ところで、もしも家に帰れるとしたら、皆さんどうします?」
「え?ホンマ?」
アカネが真っ先に聞いた。
「少し先の話にはなるんですがね。七日程、ヤマトに帰国するのはいかがかと思いまして」
「ええな、それ!な?」
アカネはみんなに声をかけた。
「うん。いいと思う」
エリが答えた。
「アタシもそう思う」
ミアが答えた。
「ハナ、お母さんに会いたくなっちゃった」
ハナは言った。
「俺は……どうでもいい」
タクミは答えた。
「んあ?タっ君、どないした?」
タクミの答えに疑問に思ったのか、アカネは聞いてきた。
「俺、高校の時から寮に入ってたからさ」
「帰るところあらへんってか?実家に帰ればええやん」
「ずっと帰らなかったからさ」
タクミは呟くように言った。
早い話が『今更帰るだなんで気まずい』であると、タクミは言いたかった。
しかし、そんな事を口にする気にはなれなかった。
どうしても、遠回しに言ってしまう。
「なら、一層帰ったほうがええって」
アカネはタクミの本心に気づかずにそう言った。
「そぅだよぉ、帰った方が良いよぉ」
ハナもそんな事を言い始める。
タクミは深いため息をついて頭を掻いた。
何故二人ともそう思うのか、タクミには理解できなかった。
「タクミさん。一緒に帰りましょう」
校長も加わった。
「両親の事なら心配ありませんよ。私が同意書を貰うために訪問した時には、喜んでサインしてくれましたし」
校長はタクミの心を読んだかのように言った。
「何?」
タクミは思わず聞き返した。
「タクミさんの両親は応援していましたよ。確かにずっと帰ってないと気まずいかもしれませんが、きっと温かく迎えてくれると思いますよ」
「何や、タっ君!そないな事で帰りたくなかったのかいな?」
アカネは笑った。
タクミは顔が熱くなるのを感じた。
「大丈夫や、タっ君!自分の子供を嫌うような親はあらへんって!」
「……分かった。俺も帰る」
タクミはアカネに目を合わせず、勢いで答えた。
「ふむ、ではみんなで帰る事になりますね」
校長は確認した。
「それではそのように手配しますね。日程が決まりましたら連絡します。では失礼」
校長はそう言って、寮を出ていった。
タクミはふと、みんなの様子を見てみた。
みんな顔がニヤついている。
どうやら、今の話で自分の本心を知った事と関係があるようだ。
「タっ君って、意外とシャイなんだね」
エリは顔をニヤつかせながらそう言った。
タクミはその顔を眼鏡ごと粉砕したくなった。
「タっ君、可愛いぃ」
ハナも顔をニヤつかせながらそう言った。
「黙れ」
タクミはハナの顔に我慢できず、想像式詠唱法で空気弾の魔法を放った。
右手から放たれた空気弾がハナの顔を直撃する。
チュイン
しかし彼女の顔に命中した瞬間、金属音と共に空気弾は跳ね返された。
厚顔も極めれば文字通りに厚くなるのだろうか。
いや、違う。彼女は顔に魔力の鎧を展開したのだ。
いつの間にそんな事ができるようになったのだろうか。
タクミは不思議に思った。
「オボッ!」
隣に座っていたミアが奇声を上げながら、椅子ごとひっくり返った。
どうやら、跳弾が命中したらしい。
「あ、おい!大丈夫か、山田」
事故とはいえ、やったのは自分だ。
タクミは席を立ち、彼女のそばに寄った。
「……っ痛ぅ」
ミアは後頭部と胸を押さえて痛がっていた。
「ちょい、タっ君!ミアちゃんに何しとんねん!」
「タっ君、最低ぃ」
アカネとハナが非難した。
お前が大人しく喰らっていれば、こうはならなかったのに。
タクミはそう思ったが、グッと我慢した。
そして、ミアに鎮静の魔法を想像式詠唱法で当てた。
「痛みはどうだ?」
「……だいぶ楽になった」
タクミの問いにミアは答えた。
「……すまない」
「いい。わざとじゃないんだろ?」
ミアは起き上がりながら言った。
許してくれたようだ。
「んあ!アカン、もうこんな時間や!」
タクミがミアと椅子を戻そうとしていると、アカネは突然言った。
「スマン!ウチ、ニコルのところに行かなアカンねん!先行くわ!」
彼女はそう言って、足早に寮を出ていった。
「あ、じゃあ私も!これからリンダって人のところに行かなきゃいけないから……」
「じゃあ、ハナも!グエン君と魔法の勉強してこよっと」
エリとハナは自室へと戻っていった。
これから朝の身支度をするつもりらしい。
この場に残ったのはタクミとミアだった。
急に静かになったような気がした。
「おい、山田」
「ん?」
「夏休みだろうが関係ねぇ。今日もトレーニングを頑張るぞ」
「……うん」
タクミの言葉にミアは頷いた。
自分も朝の身支度をしよう。
タクミも自室へと戻って行った。
今回のはちょっと短かったかな?
ゴメンね




