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35 魔法の系統

「なんだか、部活動を思い出しますねぇ。さて、魔法の系統についてどれほど理解しているかなんですが……皆さんどうです?」

 校長は咳払いをして聞いた。


 聞かれても困る。エリはそう思った。

 魔法の系統自体は以前、高校生の時にミアから聞いている。

 こういう表現をすると悪いが、彼女にとって秘密にしておく程の内容ではなかったらしく、簡単に教えてくれた。


 おかげで、一応は理解しているとエリは思っている。

 しかし、どう説明したら理解していると証明する事ができるのか。それが分からなかった。

 エリが困ると思ったのはそういう事だった。


「あ、はい。ほんならウチがいこか?」

 アカネの声が聞こえ、エリは彼女の方を向いた。

 彼女は生き生きした様子で人差し指を立てている。


「おお、アカネさん。ではお願いします」

「おっしゃ!任せとき!」

 アカネは立ち上がると、説明を始めた。


「まずは……破壊。破壊魔法やな」

「破壊魔法……いいですね。一般的に真っ先に覚える魔法ですものねぇ」

 校長は納得したように頷く。


「破壊魔法は相手を攻撃するための魔法や。基本的には火、水、風、土の四つの属性を使うんやけど、火の親戚ちゅーことで電気やったり、固まった水ちゅーことで氷やったりを使う事もあるで」

「ふむ、いいですね。他はいかがです?」

「ちょい待ち。今、()うてくから」

 アカネは軽く咳払いをした。


「次は生命魔法や。命をどうこうする魔法で、基本的には怪我を治したり元気にしたりするんやけど、逆に弱らせたりとか酷い時は簡単に命を奪う事もできるらしいっちゅー怖い一面もあるで」

「いいですね。最大の特徴である『(せい)と死の二面性』が良く分かっていると思います」

「次は変性魔法――」

「待て、天王寺。俺にも言わせろ」

 突然タクミが立ち上がり、アカネの話を遮った。


「んあ?」

「おお、タクミさん。もちろんいいですよ。では交代をお願いします」

「しゃーないなぁ、タっ君は。出番が欲しいんやったら、はよ言わんと」

 アカネは座った。


「ふん。では俺が説明する」

 タクミは一呼吸してから話し始めた。


「変性魔法。世の(ことわり)を捻じ曲げる魔法だ。具体的には、重力増加といった物理法則の一時的かつ限定的な書き換え、身体能力の強化等。魔力を物質化したり、何らかの性質を与えるのもこれに含まれる」

「分かりやすくていいですね。この系統は概要だけだと分かりにくいのですが、具体例がしっかり出されていて素晴らしいと思います」

「ふん。そう思うなら、俺を『頭でっかち』と言った事を取り消してもらおうか」

「おや?そんな事言いました?」

「俺はしっかりと覚えているぞ!」

「ふむ、覚えがありませんね。まあ、いいでしょう。次をお願いしますよ」

 その言葉にタクミは小さく舌打ちした。


「召喚魔法。何かを呼び出したり、操ったりする魔法だ。有名なのは使い魔の使役だが、そのための下準備や維持に苦労するそうだ。基本的には物質を使う事がほとんどだな」

「ずいぶんあっさりとした説明ですね。何か具体例はありますか?」

「俺達が見た中では、念動力の魔法が一番だな。校長、今まで何度か俺達に使って見せてたよな?書類とか支給品渡す時に」

「その通り。よく覚えていますね」

「他には異次元収納の魔法だ。俺達にはまだ使えないが、使えたらかなり便利だって話題に出ていた事がある」

 その話にエリは心の中で頷いた。そして思い出した。


 初めてその魔法の存在を教えてくれたのはミアだった。

 それはエリ達が一年の時、つまり去年だ。

 彼女は『知っているが、まだ使えない魔法』であると言い、みんなで習得しようと頑張った。

 結局、誰も習得までは至らず、エリの場合は消しゴム一つがどうにか出し入れできる程度だった。


「ええ。その魔法は本当に便利です。大荷物を出し入れできるようになると、手ぶらで旅行ができて本当に助かります。後、買い物の時もですけど」

「校長。ついでだ、俺達にアドバイスをくれ」

「そうですね。異次元に物を出し入れする事自体は簡単なのですよ。問題は容量です。始めはキツキツでほんの僅かにしか入りません。そこで諦めずに何度も挑戦して、少しずつ拡張していってください」

 エリはその話に何かエロスを感じながら頷いた。


「さて、まだ説明されていない魔法はどうでしょう?」

「タっ君!アタシにも説明させてくれ!」

 今度はミアが立ち上がった。


「山田?」

「……ダメか?」

「……好きにしろ」

 タクミは座った。


「では、ミアさん。どうぞ」

「……幻惑魔法。生物の精神に影響を与える魔法で、主に感情や感覚の操作。しかし『第二の破壊魔法』とも呼ばれ、精神面への攻撃で相手を再起不能にする事もできる」

「そう、精神面への攻撃。それがこの魔法の本質です」

「校長。前にニコルから、水をかけられる幻を見せられた。本当にかけられたとしか思えなかった。それもそういう事なんだよな?」

「ええ、そうです。正直なところ、彼女程の実力ならば存在しない包丁で相手を刺し殺す事もできるでしょう。まあ、それをしないのが彼女の良い所なんですけど」

 校長は嬉しそうに答えた。


 ハグや握手をする程度の仲とは言っていたが、校長はニコルに惚れているのかもしれない。

 エリは彼の様子を見て、そう思った。


「おや?ミアさん。どうして座るのです?」

 その校長の言葉にエリは意識を引き戻された。

 エリはミアの方を向く。

 彼女は座りかけた姿勢のまま、ポカンとした様子で校長を見ていた。


「え?……あ!」

 ミアは少し考えていたが、何か思い出したらしく、すぐに立ち上がった。


 他に何かあっただろうか。

 魔法の系統は五種類のはず。つまり、これで全部出たはずだ。

 エリは首を傾げた。


 もしかして六つ目があるのだろうか。

 またミアが隠していたとすれば、可能性はゼロではない。

 しかし、魔法適性検査での結果は五つ。行なった検査も五つ。

 これはいったいどういう事なのだろう。


 エリがそう考えているとミアが話し出した。


「神秘魔法!他の系統のいずれにも含まれない魔法!」

「そう、それ。忘れてましたね?」

「……はい。すいません……」

 ミアは恥ずかしそうにうなだれて言った。


「まあ、仕方ありません。簡単に言えば『その他の魔法』。魔法適性検査でも評価のしようがなく、省かれてしまう系統ですからね」

「ねぇねぇ。どんな魔法なのぉ?」

 ハナが質問した。

 エリがふと彼女の方を向くと、彼女は右手を大きく振っている。


「何でもありですよ。他のどの系統にも含まれない魔法ですし」

「例えばぁ?」

「そうですね……ダウジングですかね?」

「おー!ハナ、できるよ!」

「おやおや、本当ですか?素晴らしい!神秘魔法の習得は、魔法との相性が全てですからね。しようと思ってできるものではありません。一つでも習得できていたら凄い事ですよ」

「やったぁ!ハナ、凄いんだぁ!」

 ハナは嬉しそうに両腕を振り回した。


「さて、これで全部ですね。どうでした?ちゃんと理解できてましたか?」

 エリは校長の問いに頷いた。


 エリの理解はみんなが言っていた事とほぼ同じような内容だった。

 知らなかったのは、神秘魔法くらいなものだ。

 それを除けば、理解に問題は無い。


 それにしても、何故突然魔法の系統について復習しようと言い出したのだろうか。

 エリには、それが分からなかった。

 確かに、魔法の系統を理解していなくては、魔法適性検査の結果を正しく受け止める事ができないかもしれない。

 しかし、それだけでは理由としては弱い気がした。

 何か大事な理由があるはず。エリはそう思った。


「突然復習する事になって、皆さん驚いたでしょう?でも、これがとても大事なんですよ」

 校長はそう言うと、右手を真っ直ぐに上げた。

 すると、五枚の紙が浮かび上がった。


 エリは思い出した。

 アレはさっきニコルが放り投げた紙だ。

 確か、今後の学習についてのアドバイスが書かれているはず。


「何故ここに落ちているか分かりませんが、ニコルさんからの助言です。これを正しく理解するためには必要だったのですよ」

 校長は右手を前へ向けた。

 すると、紙はエリ達の前に移動した。


 エリは自分の前に来た紙を手に取った。

 さっきまで意思があるかのようだった紙は力を失い、ただの紙へと戻る。


 エリはすぐに目を通した。

 それにはこう記されていた。


 『エリ・トヅカ アナタは基本的に器用貧乏。逆に言えば、どの系統の魔法もまんべんなく習得できるでしょう。目標のために多くを学び、そして活かしていきなさい。』


 器用貧乏という表現にはガッカリしたが、エリにはぴったりと当てはまる内容だった。

 エリの目標は魔道工学を学ぶ事だ。

 工学的に魔法を使っていくと考えるならば、広く浅く魔法を習得するというのは理にかなっている。

 使える魔法を手段とするならば、それが多い程取り組みやすくなるからだ。


 エリは興奮ぎみに読み直した。

 今後、自分はどうするべきか。それがとてもハッキリと書いてあるように思えた。


 エリは考えた。

 まずはもっと授業に参加して魔道工学を学ぶ。

 魔道工学にできる事を学び、その中で自分がやりたい事を見つける。

 そして、それを達成するために魔法を学んでいく。

 魔法を学べば、やりたい事が増える。それをまた達成するために、さらに魔法を学んでいく。

 これを繰り返していこう、と。


 とりあえず、明日からはモテない三銃士と一緒に動こう。エリはそう思った。

 初めて会った時以来、彼らとは会っていない。

 想像式詠唱法の練習や魔法の習得に集中していたからだが、エリは今後彼らを大事にしようと思った。

 彼らはまだ一年生らしい。つまり、魔道工学を共に学んでいきたい。切磋琢磨していきたい。そう考えたのだ。


「どうですか皆さん?助言はためになりましたか?」

 校長の声にエリは意識を引き戻された。


「助言を参考にして、これからもたくさん学んでください」

「はいっ!」

 エリ達は元気よく返事をした。


 自分の道が見えたエリは希望を感じた。

 今後の勉強が楽しくなりそう。エリはそう思った。

少し更新を中止しますよ。

お話のストックが少なくなりましたので。

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