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22 良薬は尻に痛し

「はーい。こっち、こっちよー」

 ニコルに連れられた先は、さっきのバーだった。


「ここで何をするんだ?」

 ミアは訊ねた。


「言ったでしょ?アナタを手当てするって」

 ニコルは呆れたような言い方で答えた。


「ああ、そういえばそんな事を……ん?できるのか?」

 ミアは不思議に思い、質問した。


 彼女が錬金術師である事は知っている。

 しかし、それと手当てとは結びつけにくい。


 正直な所、この痛みの手当ては素人には無理だとミアは思った。

 できるとすれば、医者ぐらいではないだろうか。そうミアは考えた。


「あら、知らないの?医者が一般的になる前の時代は、錬金術師が務めていたのよ」

 ニコルは腕を組みつつ、無知をバカにしたような態度で答えた。


「そ、そうなのか……」

 ミアは無知を恥じながら言った。


 ミアは初めて知った。

 ミアは錬金術には興味がなかった。だから、それは当然の事だったかもしれない。

 しかし、魔術における一般教養程度には学んでおくべきだったとも思える。

 そういう意味では、これは恥と思った方がいいだろう。ミアはそう考えた。


 そういえば、アカネはこの事を知っているのだろうか。ミアは気になった。

 彼女は、趣味のコーナーにあった本から学んでいるそうだが……

 もし知っているのであれば、自分は彼女に負けている事になる。

 ミアはそう思った所で、頭を振った。


 ……バカ。実力差なんて考えないって決めたばかりだろうが。

 ミアは自分に言い聞かせた。

 どうして自分はそうなのだろうか……ミアは自己嫌悪を感じた。


「――ちょっと!聞いてるの?」

「え?あ……スマン」

 ニコルの苛立った声が聞こえてきた。

 しまった。考えに集中し過ぎて、聞こえてなかった。

 ミアは反省しながら、答えた。


「いい?パンツを脱いで、その辺に寝るの!」

 ニコルは通路の床を指差しながら言った。


 ミアは鼻血を出しながら、耳を疑った。

 寝る。パンツを脱ぐ。

 手当てをするのに必要なのは分かる。

 しかし、この場所でするというのか。

 普通はベッドとかの上でするのではないだろうか。

 ミアの頭は少し混乱した。


「え?そ、そこに?っていうか脱ぐって……」

 戸惑ったミアは、鼻血を袖で拭いながら聞き返した。


「早く!」

 彼女に急かされて、渋々ミアは言う通りにした。


 一見きれいだが、土足で通るような所なので絶対汚れているだろう。

 そこに寝るという事は、頭も服も汚れるに違いない。

 本当は嫌だが、ニコルに逆らうのは止めておいた方がいい。

 これ以上酷い目に遭うのは御免だ。

 ミアが言う通りにしたのは、そう思ったからであった。


 ミアはスカートの中に手を入れて、パンツは脱いだ。

 こんな事になるなら、もっとオシャレなパンツにすれば良かった。

 そう思いながら、その辺に脱いだパンツを置く。

 そして床に仰向けで寝た。


「こ、これでいいか?」

 寝たまま、ミアは訊ねる。


 背中や頭が痛かった。

 やはり床なんかに寝るものではない。

 とはいえ、文句が言えないため、ミアはその事には黙っていた。


「ええ、そのまま膝を胸の方へ」

「あ、ああ……」

 ミアは言う通りにした。


 この体勢だと大事な所が丸見えだ。

 ここには女性しかいないが、それでも恥ずかしい。

 まだ嫁入り前だというのに……

 ミアは顔が熱くなるのを感じた。


「はい、お尻を天井に向ける」

「うっ……キツッ……」

 言う通りにしたミサは苦しくなった。


 体の柔らかさには自信が無い。

 その上、床が硬くて背中や頭が痛い。

 そして、何よりさっきよりも恥ずかしい。


 三重の苦しみだった。


「ハナ、押さえて」

「ほ~い」

 ハナは頭の方へ回り込むと、両手で足をしっかりと固定した。

 そして大きく開脚させる。


 これは……非常に、恥ずかしい。

 あまりの恥ずかしさに、ミアは両手で顔を覆った。


「うわぁ~、ミアちゃんのって……」

「い、言うなぁー!」

 ハナが何か言い出したので、ミアは大声で制した。

 指の隙間から、彼女が自分の大事な所を見ている様子が見える。

 たぶん、ソコについて何か言う気だったのだろう。


 例え褒め言葉だったとしても、コメントされる事自体、恥ずかしくて嫌だ。

 そもそも同性とはいえ、普通、ソコを見ようとするものだろうか。

 自分は違うと思う。ソコを見て何かを言うなんてもってのほかだ。

 そう思ったミアには、ハナの行動が全く理解できなかった。


 ここでふと、ミアは脚の間からニコルを見た。

 彼女は右手で豊満なバストの谷間から何かを取り出していた。


 丸底のフラスコ。どこにそんな物が入っていたのか……

 中には緑の、それも毒々しい緑の液体が入っている。


 そして彼女は、今度は左手をバストの谷間に入れ、別な何かを取り出した。

 出てきた物。それは……漏斗。


 彼女の両手の物。それらを見た瞬間、ミアは察した。

 これから何が行われるのか。どんな手当てをするのか。

 ミアの心は一瞬で恐怖に染まった。


「お、おい!それで何をする気だ!」

 ミアは訊ねた。


 本当は分かっている。

 しかし、それは単なる杞憂だと思いたかった。


「簡単よ。この薬を流し込むのよ。お尻からね」

 ニコルは微笑んで右手のフラスコを揺らした。

 心做(こころな)しか、その笑った顔には邪悪さが見える。


 彼女の言葉を聞いた瞬間、ミアの目は漏斗にズームした。

 漏斗の足は太くは無いが、決して細いとは言えない。

 そして先端が尖っていた。


「いやいやいや!無理無理無理!」

 ミアは首を左右に激しく振った。

 不安が的中してしまった。


 挿れられるのは、もうたくさんだ。

 先が尖っていれば、なおさらだ。

 絶対挿れられたくはない。

 ミアは必死だった。


「大丈夫よ。ローションをたっぷり付けて、挿れやすくするから……」

 ニコルは両手の物をカウンターに置くと、バストの谷間からボトルを取り出した。

 もはやバストの谷間から物を取り出す事には、何も言うまい。


「いや、そうじゃなくて……」

「もしかして流し込まれた後の事が心配?それなら問題ないわ。すぐに腸から吸収されるから、お通じは来ないわ」

 ニコルは笑顔で答えた。


 なるほど、お通じは来ないのか。

 つまり、流し込まれた後にトイレへ駆け込む必要は無いと。

 それなら安心だ。


 ……って、そういう事ではない。

 この方法そのものが異常なんだ。


 ミアは一瞬、彼女に丸め込まれそうになった。


「というか、普通は座薬とか軟膏じゃね?」

 ここでミアは一般論を唱える。


 要は浣腸をニコルはしようとしているらしいが、尻の治療に浣腸を用いるなんて聞いたことが無い。

 普通は座薬や軟膏を用いるはず。

 何故、浣腸にこだわるのか。

 ミアにはまず、そこが気になって仕方がなかった。


「仕方ないでしょ。在庫の鎮痛薬ってこれしか無いのよ」

 ニコルは不満そうな顔で言う。


「それに、これは使用期限ギリギリで処分寸前だったの。ちょうどいいわ」

 ニコルは薬の入ったフラスコを見せつけながら、良い笑顔になった。


 ああ、彼女は商売人なんだな。

 ミアは遠い目をしながら、そう思った。


 タダで与える薬は無い、と。

 もちろん、自分のために座薬や軟膏を作る気も無い、と。

 たまたま捨てる予定の薬があったから使う、と。


 今から『金は出すから、座薬か軟膏にしてくれ』と言ったらどうなるだろう。

 応じてくれるだろうか。

 自分は金ならいっぱい持っている。

 多少の金額なら払える。

 少なくても、このまま浣腸されるよりはマシだ。


「さて、こんなもんかしら?」

 ニコルの声でミアは意識を引き戻された。


 ニコルは透明な粘液を漏斗の足に塗りたくっていた。

 きっと、あの粘液がローションなのだろう。


「それじゃあ、いくわよ」

 ニコルは漏斗を持ち替えながら言う。

 頭の部分を持ち、大きく振りかぶる。


「ちょ、ちょっと待って!」

「……何よ?」

 ミアに制され、ニコルは不満そうな顔をして手を止める。


 交渉するなら今が最後のチャンスだ。

 決して失敗は許されない。

 ミアはそう思い、口を開いた。


「な、何で勢いをつけようとしてんだ?普通、ゆっくり挿れるべきだと思うんだ……」

「そうかしら?ここは思い切って、ブスッといくべきだと思うわ」

 ミアの提案にニコルは聞く耳を持たなかった。


 何を言っているんだ。

 提案しながら、ミアは自身を咎めた。

 言うべき言葉はそれではない。


 いや、言えないんだ。

 今、理解した。交渉は絶対失敗する。

 ミアは絶望感を感じながら思った。


 彼女の顔を見れば分かる。

 彼女はすでに浣腸する気満々だ。

 今、金を見せたところで、彼女の心は変わらないだろう。

 今の自分に出来る事。それは、なるべく少ない苦痛で浣腸を済ませる事だ。

 ミアはそう思うしかなかった。


「いやいやいや!ブスッとなんてしたら、大怪我するって絶対!」

 ミアは漏斗の足の先端部分を見ながら反論した。


 ローションによるものか、尖った先端は怪しく輝き、それがミアにさらなる恐怖を与える。

 勢いよく挿れられた先の地獄、今なら容易に想像できる。


「大丈夫よ。私って穴の扱いには慣れてるから……」

 ニコルは怪しい笑みを浮かべながら、舌舐めずりをしてみせた。


 怖い。非常に怖い。

 そもそも、『穴の扱いには慣れてる』とはどういう意味だろう。

 ダメだ。考えるだけ、恐怖が増すだけだ。

 ミアは完全に冷静さを失っていた。 


「さて、お話はこれまでよ。さっさと終わらせるわ……」

「い、いやぁぁぁ!」

 恐怖のあまり、ミアは叫んだ。

 暴れて最後の抵抗をする。

 しかしハナに押さえられて、あまり意味を成さない。


「ミアちゃん!頑張って!」

 ハナが応援する。


 いや、頑張るとか否かの問題じゃない。

 これは行為そのものが間違っている。

 そう思ったミアだったが、何故か懐かしさを感じていた。


 この感覚、覚えがある。

 そうだ、幼い頃の予防接種の時だ。

 あの時は、大勢の看護師に押さえつけられて……


 いや、今は昔の思い出に浸っている場合ではない。

 何としても逃げなくては……


 ミアは現実逃避しかけた自分に活を入れた。

 しかし、それは無意味だった。


「そいやぁ!」

 ニコルは掛け声と共に、漏斗を持った手を勢い良く振り下ろした。


 もうダメだ。

 そう思った瞬間、全てがスローモーションになった。

 漏斗がゆっくりと尻へと迫る。


 ミアはもがいた。

 しかし、自身の動きさえスローだ。

 避ける事等できない。


 漏斗はどんどん尻へ迫る。

 到達まで、残り10cm……5cm……3cm……1cm……

 そして、ついに……


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ミアの悲鳴が部屋いっぱいに響き渡った。

 そしてミアは意識を失った。

『ニコルは掛け声と共に、漏斗を持った手を勢い良く振り下ろした。』あたりから、中島みゆきの『世情』を流すとミアの心境が分かるかもしれません。

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