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誰かにとっての大事な人

深川と呑んだ翌日、坂原は再び占い小屋に向かった。坂原が近くまで行くと、入り口の鍵を閉めて駅へと向かう受付嬢の姿が見えた。彼女はスーツケースを引いていた。


「里美さん!」


そう叫ぶと彼女は立ち止まりゆっくり振り返った。


「・・・坂原くん」


「・・似合いませんね。昼間の街が」


「顔の見える昼間は地下に居ろって?うるさいわね」


里美と呼ばれたその受付嬢は呆れたように笑った。


「どこへ?」


里美はその問いには答えない。


「・・・坂原くん。昨日、さようならって言ったのに」


「昨日、聞き忘れたことがあるんです。里美さんは、温田と一緒に暮らしていたんですか?」


坂原は戸惑いもせず、そう単刀直入に聞いた。


「ふふ。」


「そうなんですか?」


「そんなわけないじゃない」


里美の作り笑顔が崩れた。真顔になって話を続ける。


「あの人は・・・私になんて興味はなかったわ。でも・・温田には一緒に暮らしていた女性がいたみたいよ。・・・坂原くんも私には興味は無くて、そこに興味があるのよね」


「いや・・その」


「いいの。いいのよ。と言っても、はっきりと誰と住んでたのかは分からないんだけどね。・・・そうだ、お気に入りの風俗嬢はいたみたい・・・確か、アカネって言ったかなあ・・。」


「・・・」


「何よ。黙っちゃって。これが目的で来たんでしょ」


坂原は何も答えられない。


「昨日の夜から今まで、小屋の整理をしてたの。そしたらさ。いろんなこと思い出しちゃった。本当に汚い空間で1人で占いと裏情報通として稼いでて、そこにあたしが入って・・。あれからもう何年も経って・・・でも。あたし、温田が今誰と住んでるのかすら知らなかった。どんな生活しててどんな交友関係があって・・・。何にも知らない。それなのに勝手に女房役みたいな顔して受付に座ってた。それでよかった。よかったのに。今は・・それじゃ良くなかったって、思っちゃう・・・。まさか、死ぬなんて思わないから。温田はずっと、クズとして、ここで、私のすぐそばで生きていくものだと勝手に思ってたの・・・。バカでしょ。」


「いえ・・・。」


「風俗漬けのだらしない男・・・。誰からも嫌われる男・・・。そんな男でも、一人くらい・・・まあ、いいわ」


里美は言い終わらないうちにいつもの笑顔に戻った。


「それじゃ坂原くん、今度こそ、ほんとにさよなら!ありがとね!」


「あっ!里美さん!」


「まったねー!」


里美はスカートを翻して、颯爽と去っていった。坂原に複雑な気持ちを残して。


急に吹いた強いビル風はまるで、里美に返事をしているようだった。


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