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繰り返される悲劇

菜穂は深川を振り切った後、風俗会社の本社にたどり着いていた。そして躊躇せずに中に入って行く。用心棒が居て中に入るのは簡単ではないだろうと思っていた菜穂の予想に反し本社内には誰もいなかった。どうやら情報が洩れて証拠の隠滅に走り回っているらしい。そうして順調に社長室の前までたどり着くが、社長室の前にはさすがに人が居た。彼女は菜穂が近づくと社長室のドアの前に無言で立ちふさがった。


「・・・あなたが、朝井比奈さんね」


「・・・」


菜穂にそう聞かれた彼女は否定しない。その時、足音が聞こえ比奈の肩越しに男が見えた。その男は小走りで近づいてきて拳銃を構えているのが見えた。菜穂は急いで拳銃を出すがその前に発砲音が聞こえその男の足元で火花が散った。振り返ると深川が居た。


「深川さん!」


「早く。ことを片付けるぞ」


「はい」


菜穂は比奈を腰から支えてそのまま押し切って社長室のドアを押し開けた。その中では社長が1人でこちらを見ていた。菜穂は物おじせずに言う。


「あなたを、覚醒剤密売の容疑で逮捕します」


社長はその言葉を予想していたのか余裕の表情でにやりと笑った。


「証拠も無いのにいきなり何ですか。証言だけで逮捕とは、警察もずいぶん乱暴な手を使うんですねえ」


「証拠ならありますよ。これを辿ればあなたにたどり着くでしょう」


菜穂はそう言って、逮捕した男から押収した覚醒剤を見せる。社長は一瞬顔色を変えるがすぐに戻る。


「そんなもの、いくらでも作れますよね」


「これは、とある島で逮捕された男が持っていたものです。その男の証言によるとこの会社の出張サービスで来た女から買ったということです」


菜穂がそこまで言うと社長は怪訝な顔になる。菜穂は話を続ける。


「調べましたが、出張サービスで来た女が覚醒剤を売りつけている事実はどこを探しても見つからない。つまり、その女が独自でやっていた可能性が高い。恐らく、金儲けの為にこの会社には身近に存在した覚醒剤をくすねて売りさばいていたんでしょうね。」


「何が言いたい」


「つまりあなたは、脅しと恐怖によって自分が操っていると思っていた女たちに、裏切られていたんですね」


菜穂が核心を突くと社長は黙った。諦めるかと思い菜穂が少し近づこうとすると社長は隠し持っていた拳銃を構えた。菜穂は比奈を後ろに下げる。


「ふざけるな。私は裏切られてなど居ない。そもそも、あいつらが余計なことをしなければこんなことにはならなかったんだ!」


「以前にもあなたと同じような方がいました。自分の欲望と名声の為に家族や周りを恐怖で押さえつけて・・・。関係のない人たちが傷ついて、結局誰も幸せにはなりませんでした。あなたも同じ道をたどることになるでしょうね」


社長と菜穂が対立している最中、深川はポケットの中で携帯が震えているのに気が付くが相手が拳銃を構えているこの状況ではむやみに確認することが出来ない。社長が引金に手をかけた。その時、後ろの入り口のドアが開いた。勢いよく飛び込んできたのはアカネと坂原だった。社長はアカネが入ってきたのを見て、アカネの方に銃口を向けたのだ。証拠の隠滅の為に。会社内に人が居なかったのは、証拠隠滅に人を割いていたというのもあるがあえて警察を社長室に惹きつけて証拠を消す時間を稼ぐことも目的の1つだったのだ。つまり、社長は残酷なほど冷静だったのだ。証拠隠滅に躍起になっている今、菜穂に追い打ちをかけられて、もう社長にはアカネたちは人間では無くただの煩わしい証拠にしか見えていなかった。それに気が付いた深川は大声で叫んだ。


「伏せろっ!!」


しかしその言葉とほぼ同時に社長は引金を引いた。そして、その銃弾はまっすぐ飛びアカネの心臓の近くを撃ち抜いた。アカネの後ろから入ってきていた坂原はその血吹雪を浴びた。


「アカネさん!」


坂原はアカネに駆け寄り持っていたハンカチで傷口を押さえ出来る限り止血しようとつとめた。しかしアカネはみるみるうちに顔色を失っていく。撃たれ所が悪すぎたのだ。深川は急いで携帯を出し救急車を要請した。比奈はその状況に驚き腰を抜かしていた。坂原はユイと圭を探しに行ったはずの深川がなぜここにいるのか、そしてどうして社長が拳銃を構える状況になっていたのかなどとにかく状況がつかめない。菜穂はどさくさに紛れて社長を捕らえようとするが社長は動揺する様子など微塵も見せずに近づく菜穂に再び銃口を向ける。比奈はその間に立ち上がりアカネの元へ行き坂原から止血を変わり、坂原はアカネに心臓マッサージし続けた。深川は無理やり冷静になり救急車を要請した後に先ほどの着信が誰からだったのか確認して来宮からの連絡だと気づき折り返しかけなおす。その混沌とした状況で社長が呟く。


「余計なことをしなければ死ななかったのに」


「ふざけないで」


「ふざけてない。自分にとって邪魔なものは排除すべきだ」


「狂っているわ」


「君がどう思おうが私には関係ないんでね」


深川は電話で来宮からユイと圭を神戸空港で発見したという連絡を受ける。しかしまた見失ってしまったと。その電話の最中に救急車の音が聞こえてくる。その音を確認して来宮にすぐに行くと伝え電話を切り社長室を出た。救急隊とすれ違い社長室の場所を伝えて車で神戸空港を目指す。救急隊が社長室に到着した時、応急処置を続けた坂原と比奈の努力もむなしくアカネはほぼ蘇生不可能な状態になっていた。アカネが運び出され坂原も同乗するために救急隊に連れていかれる。そしてそのどさくさに紛れて比奈も連れ出したが社長は何も言わなかった。社長にとってもう比奈はなんの価値も無い人間だったからだ。そして社長室には社長と菜穂の2人だけが残った。


「これで証拠は全て隠滅した。」


「あなたは、私の目の前で殺人犯になった」


「ああ。そうだね。」


菜穂は冷たく問いかける。


「これであなたは確実に逮捕され極刑は免れないかもしれません。彼女を殺したことに意味はありましたか?」


社長は迷わず答える。


「あったね。自分のプライドを守った。これは誰も守ってくれない。自分で守るしかないからね。」


「そんなもののために」


「君には無いのか。そういうものは」


そう聞かれて菜穂は、強い正義感の為に傷つくべきでない人間が傷つく悲劇がまた起こったことに気づき、その強い正義感こそが自分にとってのプライドなのかと思い当る。そう思ったことで菜穂が黙った隙に社長は拳銃を天井に発砲する。そしてその衝撃で電気が消える。部屋は外から入ってくるかすかな光しか見えなくなった。その状況で社長は自分の頭に銃を向ける。それに気づいた菜穂は今度は躊躇せずに社長の肩を狙って発砲した。見事に肩に命中し社長は倒れる。菜穂は急いで近づき社長から拳銃を取り上げる。そしてクビになることを覚悟で警察に連絡を入れ再び救急車を要請する。そして菜穂は気を失っている社長に向かって呟く。


「私は、あなたとは違う。」


菜穂は社長の肩を押さえながら、アカネの流した血の跡を見て急に込み上げてきた涙をこらえきれずに救急隊と警察が到着するまでの間、流し続けた。


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