諦めを邪魔する愛
坂原は事務所に戻りアカネと再会した。
「まさか。自分から会いに来てくれるとは」
「坂原さん。お願いがあるんです」
「・・・君が、僕に?」
「・・・真実をお話します」
そう言ってアカネは1人話し始めた。
「前に話したと思いますが。温田を殺したのは私です。でも・・・。彼が私をタダで弄ぼうとしたから殺したわけじゃありません。そう。あなたの思っている通り、温田はそんなことをする人ではありませんから。」
「・・・じゃあ、なぜ?」
「・・・彼は余計なことをしようとしてしまった。いや、世間的には正しい行動。ただ、私たちの世界の人間にとって余計なことを。彼は秘密を知り、それを世間に公表しようとした。その秘密っていうのは・・・わたしが所属する会社が覚醒剤の密売を行なっているという事実です。私たちの世界は一般の感覚はまるで通用しませんから、自分にとって邪魔な人間は排除する・・・。私は客として来た温田を殺すように命令されました。そして私が、罪を着せる身代わりを出してまで守られたのは、私もその秘密を知っていたから・・・。会社にしてみれば、知っている人間を逮捕させて、全てを話されてしまったら終わりですからね。」
「・・・」
「わたしは・・・命令が怖くて、彼を殺した・・・。坂原さん」
「・・はい」
「彼は、意志を全うする前に死にました。・・・こんなこと、私が今更言う事じゃないですけれど。・・・坂原さんがその意志を継いでくれませんか」
「どういうこと?」
「探偵であるあなたがそれを警察にリークすれば事件は必ず動く。いくら冤罪が明るみになると言ってもクスリの密売を放置するほど、警察もバカじゃないでしょう」
そこまで話してアカネは黙り、じっと坂原を見た。そして坂原は神妙に口を開く。
「その秘密は・・・もうバレているよ」
「・・・は?」
「僕も知っているし、警察も知っている」
「・・・まさか、あの会話を聞いて!?」
「やっぱり。盗聴器の存在に気づいていたんですね。おかしいと思ったんです。いくら近づいても受信しなくなったから。でも。僕が知っているのはそれのおかげでは無いです。君は警察にリークするようにと僕に言ったけれど、逆に僕は警察からその話を聞きました」
そう言うとアカネは一気に青ざめる。
「・・どういうこと」
「恐らく、君が思っている状況と今の状況はかなり違ってきていると思うよ。君たちが何を考えているのかは知らないけれど」
「・・・誰がリークしたの?もう私たち以外にこのことを知っている裏切者なんていないはずなのに!」
「これはとある刑事に聞いた話ですけど、島に出張した風俗嬢が客に覚醒剤を売りつけていたらしいです。その男が覚醒剤使用の罪で逮捕されて・・・。だからもう君たちは、人質を取られてまで脅される理由は無くなったんです。」
アカネの耳には坂原の話は半分くらいしか入っていなかった。
「・・・つまり、あの店の中に勝手に密売していた女がいたってことね。」
「そういうことですかね」
「・・・そんなことはあの人たちには関係ない、本社はまだ静かで警察は居なかった。もし本社が既にこの事を知っていたら・・・。私たちは・・・」
アカネは力が抜けたように近くに会った椅子にふらつきながら座った。坂原はゆっくりとソファに座った。
「温田の話、嘘だよね。あいつがそんなことをわざわざ公表するとは思えない。もっとうまい方法でその情報を金に換えるはずだから。・・・本当は誰が温田を殺したの?」
アカネはその問いには答えない。
「・・・危ない。圭たちが危ない」
そう言ってアカネは椅子から立ち上がり出ていこうとする。それを坂原はとっさに止める。
「離してください!」
「危ないのは君も同じだよ。君も殺されるかもしれない」
「そんなの。私が死んであの二人が助かるならそれで!」
「どうして君たちはそんなに守り合うんだ」
坂原の言葉を遮るようにアカネの携帯が鳴る。坂原は言葉を切るがアカネの手は離さない。仕方なくアカネはそのまま電話を取る。
『もしもし』
『アカネ?俺だけど』
『圭!ごめん。全部バレてるみたい。だから。とにかく逃げて。もう隠れている意味も無いから。とにかく。もう・・生きる道は逃げるしかない。気を付けてね。でも早く逃げて。あとは私がどうにかするから』
坂原は途中でアカネから携帯を取り上げようとするがアカネはその前に電話を切る。
「どうして守るかって?私は決めてるの。あの二人だけは必ず助けるって。それが私の生きる価値だから。」
「誰かのために犠牲になって生きる価値を求めるなんておかしい」
「犠牲になんてなってない。わたしの心が救われているからそれでいい。」
「・・・」
「坂原さん。私の罪、全て告白するから、私と、一緒に来て欲しい」
坂原はここで何を言っても無駄かと思い、アカネの頼みに乗ることにした。そして2人は事務所を出た。




