2人の女の明暗
会社の社長室では社長とユイが向かいあって座っていた。そこへ圭とアカネが戻ってくる。
「・・・代わりは見つかったか?」
「・・・」
「無理だろうな。こんな所に好き好んでくる奴なんて」
社長が1人で勝手にしゃべっている時、ドアが開き比奈が1人で入ってきた。
「失礼します」
圭とアカネは振り返らなかった。社長はそのまま入ってきた人物を見ながら話を止め、ユイは椅子に座ったまま振り返って口を開いた。
「来ちゃダメ。誰か知らないけど、こんなところに来ちゃダメ。あたしでいいんだから」
ユイがそう言っている途中で、比奈はユイに近づきそっと手を取った。
「良いのよ。あなたは選ばれたの。彼がこれでいいのなら、いいのよ。・・・見捨てられない私の運命なんだから」
比奈はそう言って社長の前にまっすぐ立つ。
「おいお前ら。もう下がっていいぞ」
社長は圭、アカネ、ユイの3人にそう命令する。アカネは無表情を貫き、圭は険しい顔のまま比奈には声をかけずユイの手を引こうとする。
「ちょっと。みんな正気なの?関係ない人を巻き込んで!」
「・・・行くぞ」
ユイは比奈に対して食い下がる。しかし圭の強い力によって腕を引かれ連れ出される。アカネもそれに続いて部屋を出る。残された比奈は、社長に無言でじろりと見られ、その時に初めて恐怖を覚えたが、自分を奮い立たせて社長の目を見て立つ。その姿を見た社長は秘書とボディーガードに連れていけと命令する。そして社長室は社長だけになった。その時に別の社員が社長室に飛び込んでくる。
「どうした。ノックもせずに」
「社長!大変です!警察が!」
「警察?」
「はい。刑事が、覚醒剤の密売について探っています!」
それを聞いて社長は勢いよく立ち上がりその社員を見た。
「あいつら。裏切ったのか!」
「分かりません」
「分かりませんって。あいつらしか知るわけがないんだぞ!」
「詳細は分かりませんが、とにかく警察の手がすぐそこまで迫っているのは事実です」
そう言うと社長は少し冷静になったそぶりで椅子に座りなおす。そして口を開いた。
「証拠を全て隠滅しろ」
「はい。そちらについてはもう全て用意できています」
「分かっているのか。わたしは全てと言ったんだ。簡単じゃないぞ。覚悟はあるのか」
自信満々に喋っていた社員を遮り社長は冷酷に言った。その言葉に社員は社長の言葉の真意に気が付いた。
「・・・まさか」
「人間は立派な証拠だ。口が付いている分なおさら面倒な証拠だ。知らなくても良いことを知ってしまった人間はな」
社長はそれ以上は言わずにタバコに火を点けた。この状況になった以上、圭とアカネは社長にとって利用すべき人物では無く厄介な証拠品になり下がった。比奈の身柄も一瞬で意味を失ったということだ。社員は自分に突然課せられた使命を受け入れ、実行するために社長室を後にした。
一方その頃、圭はユイの手を引っ張ったままビルを出た。そこでユイは無理やり手を離し、圭を平手打ちした。2人は無言のままだったがアカネがここは危ないから行こうと促しビルを離れる。そして敢えて人通りの多いショッピングモールのフードコートに向かった。そしてフードコート内の一番端の席に腰を下ろす。一番初めに口を開いたのはユイだった。
「関係ない人を巻き込んでいいと思ってるの?これじゃあ何も解決しないよ。私は真実知っちゃってるんだから。彼女人質に取られて、圭とアカネさんも逃げれば殺されて、もう八方塞がりだよ。お先真っ暗だよ。どうしようもないよ。」
ユイは周りには聞こえないぎりぎりの声でまくしたてる。その顔は社長室に居たときの凛々しい物では無く絶望に満ちていた。それを聞いていた圭は静かに反論を始める。
「じゃあ、無駄にするのかよ、あの夜のこと。お前、何のために人殺しなんてしたと思ってるんだよ。お前だけでも真っ当に生きるんだよ。俺はお前の為に生きるから。どんな環境であろうが、お前のためなら生きるから。」
そう言って圭はユイの手を握る。ユイは振り払おうとするがさらに強い力をこめる。そして続けて呟いた。
「・・・大事なものは一つしか守れないんだ」
黙って聞いていたアカネは反省していた。2人を守ろうとしたこととはいえ、社長の盗聴を予期できずに探偵に余計なことを話してしまったことを。恐らくほころびのきっかけはそこにあったのだろうと。しかし、こうなった以上また打開案を考えなくては。アカネにとっては守るべきものが3人に増えていた。比奈を人質に差し出したとはいえこのままでいいとはさすがに思っていない。どうにか3人とも助けなければ。考え込んでいたアカネはいつのまにか2人が言い争いを止めて自分を見ていることに気が付く。圭は口を開く。
「とりあえず、俺らはそれぞれの所に戻るわ」
そう言って圭とユイは立ち上がろうとする。アカネはとっさに引き留める。
「待って!」
「何だよ。今はとりあえず落ち着いている様子をあいつらに示すべきだろ」
圭の言葉を無視してアカネが決意を決めた表情で言う。
「人生、やり直そうか」
2人は意味が分からないという表情をする。アカネは説明を始める。
「あいつらが私たちをターゲットとして見なくなる時は、私たちの知る秘密が秘密で無くなった時。つまり、クスリのことが私たち以外の人物のリークによって明らかになった時」
圭とユイはアカネの真剣な話に耳を傾ける。
「あの人を使うわ」
「あの人?」
「探偵よ。私を指名してまで温田の死を調べてる」
「どうやって」
「実はね」
そう言ってアカネは小さな機械を取り出す。
「これ」
「これは。盗聴器じゃないか。今までの話も全て聞かれていたんじゃ!」
「大丈夫。社長に呼び出された後に気が付いてすぐに壊した。社長室では具体的な話はしていないからそこまでいろいろなことはバレていないはず。それにこの盗聴器、めちゃくちゃ性能悪い。社長のやつの10分の1くらいね。逆にこれを利用する。不可抗力で探偵にばれたことにすればいい。そうすればそのごたごたの間にあなたたち2人は逃がせる。比奈さんは私がどうにかする」
圭は怪訝な顔で尋ねる。
「勝算はあるのか」
「やってみないと分からないけれど。でも、ある。」
アカネのその言葉で3人は決意を固める。そして必ず作戦を成功させることを誓って、その場をそれぞれに後にした。




