変わらない女
深川は水野署の休憩所でコーヒーを飲んでいた。そこに、見覚えのある女が現れた。
「・・・磯山」
「お久しぶりです。深川さん」
磯山は来宮と別れた後、水野署に来ていた。
「お前、なんで今ここにいるんだよ」
「少し、お話しませんか」
菜穂は不敵な笑みを浮かべて深川を誘う。2人は警察関係者が来ないであろう少し離れた場所にある喫茶店に入った。そして菜穂はいつもの調子に戻って切り出す。
「この前、私のいる管轄では久々の犯人逮捕があったんです」
「・・・なんか、同じ警察とは思えない発言だ」
「ええ。わたしも最初はそう思いましたよ。でも田舎は人が少ないからその分悪い人も減るんですよ」
「で、それが何なんだよ」
「その男の容疑が覚醒剤の所持だったんですけどね。ずーっと黙ってたのに私が取り調べたら堰を切ったように話し出したんですよ!」
「偶然だろ。お前の自信は相変わらずだな」
「実力だって言ってくださいよ。それで、その男が言うには、出張風俗を呼んだらしいんです」
「出張風俗?良く分からんな。風俗嬢は元々出張する場合が多いだろ」
「ホテルにという意味では無くて。島や僻地という風俗の無い場所に行くサービスがあるんです。それで、その出張で来た女が男に持ち掛けたそうなんです。この粉を使えば私との行為は10倍満足するものになると・・・」
「えらく濁したな」
「あ、女の発言はもっと直接的だったらしいですが自粛しました。そのまま聞きます?私とのセッ」
「もういい!直接関係ない話だろ!」
菜穂は微妙につまんないなという顔をしたが平然と続けた。
「つまり。その女が覚醒剤を渡して、やめられなくなって、狭い町で狂っていたら目立ちますからね。そのまま逮捕と。」
「で。その女は」
「そこなんです。まさかその女1人で密売してるわけないですから。その女が働く風俗店とその親元を調べました。どうやら、組織ぐるみで密売やってるみたいですね。その会社がこの管轄内にあります。実質的に証拠は男の証言とわずかな現物しかありませんけど、乗り込もうと思ってます」
「・・・相変わらず破天荒だな」
「いやいやそれほどでも」
「褒めてない。で、他の奴らは」
「ああ。明日1人応援が来ます」
「たった1人か。」
「ええ。田舎でのんびり飼いならされた腑抜けしかいませんから。こんな危険なヤマには消極的です。」
「危険と分かっているんだな・・・」
「ま、クスリで狂ってるやつの証言しかないんで当然です。勝手なことはするなと言われてまして、1人しかこちら側に引っ張れませんでした。失敗でもしたら最悪ですからね。・・でも明日、決定的な証拠が出ればこっちの勝ちです。そうなればさすがの腑抜けどもも動くでしょう。」
「賭けってことか」
「ええ。でも・・・もしものことがあったらと思いまして。こうして深川さんに。信用してますよ」
「ずいぶん恩着せがましい奴だな」
深川はそうは言うがまんざらでもなく笑って見せる。深川はあの事件後から水野署内部での立ち位置が微妙に変わり本来の正義感を取り戻しつつあった。
「よろしくお願いします。といっても頑張るのは私なんですけどね。私、絶対にこのままじゃ終われないので。いくら飛ばされたって正義を捨てるつもりはないので。」
菜穂はそう言うと調べものがあると言って喫茶店を先に出ていった。深川はその菜穂の姿を呆れながらも少々羨ましく見ていた。そんな時深川の携帯に着信がある。
「深川です。ああ、来宮先生じゃないか。久しぶりだな。どうしたそんなに慌てて。え?何を言ってるんだ?・・・分かった。とりあえず行く」
深川は来宮からの電話を切り、医療センターへと向かった。




