八番目の世界:虚無
僕が次に来たのは光が入る余地がない世界です。そういう意味ではこの前の同じですね。しかしここは黒でも白でもありません。何も存在しません。ここには世界が存在しません。
「世界が存在しませんね」
どこか別の世界へたどり着くはずですが、これ以上世界がないということでしょうか?僕は世界を探します。しかし力を広げても検知する気配がありません。世界を超えるというのは莫大な力が必要です。つまり世界から更に別の世界を探しそこから更に別の世界を探すというのは途方も知れない力が必要となります。そんな大きな力を感じられないわけがありません。
その結果呼び寄せたのはとんでもない存在でした。
山よりも惑星よりも恒星よりも大きい存在です。それには大きさを当てはめるには不適当だと言えるでしょう。
その巨体から発せられた言葉は予想よりも高い子供のような声でした。
「やっと会えた!ご主人様だ!」
そんな言葉とともに僕の体は粘体に包まれました。
「僕ねご主人様のために、いっーぱい食べたんだよ!」
この生物はスライムです。スライムの規格を軽々と飛び越えていますがスライムです。そのスライムはまるで子供が親に報告するように楽しそうに話します。
「ご主人様というのは僕のことですか?」
「そうだよ?だって僕はご主人様から生まれたんだよ」
僕は首を傾げます。僕はスライムを生んだのでしょうか?
『忘れられているんだよ』
頭の中に響くような低い声が聞こえます。
「どういうこと?」
『君はあんなにご主人様のために働いたのに君のご主人様は何にも知らないみたいだ。酷いよな本当に酷いよな』
「うん酷いやご主人様。ずっと追いかけてきたのに」
『じゃあ食っちまえばいい。これまでと同じさ』
「そっか!そしたらずっと一緒だね!」
思考を誘導するように呼びかける声には悪意を感じます。悪意を確かめるように僕は呼びかけました。
「貴方は一体誰ですか?」
それにしても先程からこの声の正体を探っているのですが上手くいきません。いつもならばすぐにわかるのですが膨大な壁があるように邪魔されます。
『俺か?俺はドミトルだよろしくな。俺もずっとお前に会いたかったんだぜ。なんせ商売の邪魔をされたからな』
「商売の邪魔ですか?」
『そうだせっかく集めた神どもを逃がしやがったからな。まぁそれも今となっちゃどうだっていいことだ。このスライムと出会えたからな感謝してるぜ』
なるほどあの時の界賊の関係者ですか。そしてこの僕をご主人様と呼ぶスライムと出会い使役しているわけですね。
『今や世界といえる世界はすべてこのスライムが食っちまった。これがどういうことかわかるか?異世界はもうない。すべてはこいつの腹の中そして俺は全世界の覇者となった!』
「その地位にどれほどの価値があるのですか?世界を手に入れたといってもその世界はすべてスライムが食べ溶かしその身にかえたのですよね。語らう相手も充実もないその場所で一体何をするというのでしょう。あなたの生きる目的とは何ですか?」
『俺は覇者だ!界賊だけじゃない。すべてを従えた!このスライムの中であれば何も脅かす存在はいない。死すらも超越したのだ。語らう相手などいらない生きる目的など俺がこれからも覇者であり続けることだ!』
彼は覇者という虚構の座椅子にしがみついています。もうどこにも世界はないのです。生物はここにいる僕とスライムと彼だけです。確かに彼が支配したかった世界はスライムの中にあるのかもしれません。しかし覇者と呼ぶにはいささかもう狭すぎる物になってしまいました。
「ドミトルは僕にいっぱい教えてくれるんだ。僕の中ならずっと一緒で楽しいよ。だからご主人様も一緒になろう!」
「僕はまだやることがあります。あなたに食べられるわけにはいきません。そして僕は前の世界のほうが好きでした。僕からあなたが生まれたのならば僕があなたを倒し元に戻しましょう」
僕は爆発を起こしスライムの中から脱出します。超高密度のエネルギーはこの空間を押し広げるほどですがそれでもスライムの一部を吹き飛ばすにとどまります。スライムから幾多の触手が広がり僕一点へしなり収束します。すべてを燃やし尽くす神炎を再現した炎が広がり触手を燃やしつくします。
「ご主人様はやっぱりすごいや!でもこれならどう!」
濁流のような溶解液が視界いっぱいに流れてきます。それに対し僕はそれを上回る量の水を生みぶつけます。その光景は濁流を飲み込む洪水のようです。普通であれば世界を覆いつくしますがそこは世界を飲み込むスライムです。溶解液も水もすべて飲み込みさらに大きくなりました。
「おいしい!これまでいーっぱい食べてきたけどご主人様のが一番おいしい!」
その言葉とともにそれまでとは一線を画す猛攻が襲います。燃やし消し切り潰し殴ります。僕にできる攻撃をすべて本気でします。ここが世界であればとっくに崩壊するほどの攻撃を何回も何回もしますが、どれだけスライムの体を削ったとしてもすぐさま再生し再び襲い掛かります。より強大により速くより多く圧倒的な物量の前に僕の体は傷つき始めます。
「ーーッ」
痛みそれは僕には無縁のものでした。これまで僕を傷つけることができるものは誰もいなかったのです。僕にできないことはなく望んだことはすべて叶えてきました。初めて感じる痛みに僕の攻撃の手が緩みます。
「ご主人様やっと一緒になれるね」
僕はスライムに包み込まれます。最初のように抱きしめるようにではなく僕を殺すためにです。体のあちこちが溶け出します。生まれて初めて感じる体が溶け出す痛みは僕に声にならない悲鳴をあげさせます。
たまらず僕は痛みから逃れるように思い切り吹き飛ばします。命の危機を感じた力は僕が本気だと思っていたよりもはるかに大きい力を出しました。思えば一度も必死に等なったことがなかったのでしょう。スライムは飛び散り、その巨体すべてを吹き飛ばしました。
「やりましたか?」
しばらくすると飛び散ったスライムの破片がうぞうぞと動き出しひとつに集まります。そして現れたのは相も変わらず大きすぎるほどのスライムです。
「びっくりしたー。さすがご主人様だね。でもそれじゃ僕は倒せないよ」
「ならばもう一度、今度は飛び散りもしないほどすべてを消滅させます」
スライムを消滅させるために力をためようとしたとき僕は膝をついてしまいます。
「力がはいりません...」
無尽蔵のはずの源力が尽きています。力の源流が尽きてしまいました。
「ご主人様疲れちゃったの?じゃあもう楽にしてあげるね。これからはずっと一緒だよ」
僕は再び粘液に包まれ意識はそこで途切れました。




