絶対不壊デュランダル
王の鍛冶場でドワーフ王が満足そうに頷くと次のインゴットに手を伸ばします。
「待て待て。俺たちがいるだろうガンテツ」
次の剣を作ろうとする王にドルストさんが声をかけます。その声にやっと気づいたのかドワーフ王のガンテツさんがこちらを向きました。
「おう、ドルストじゃねぇか。どうした?」
ガンテツさんはドルストさんと同じ大きな体に色黒の肌です。違うのはドルストさんよりも盛り上がった筋肉とあちこちに古傷が目立ちます。
「どうした、じゃない。ガンテツが終わるのをまずっと待ってたんだぞ」
「声かけてくりゃあ良かったのに」
「鍛冶してる間は話を聞かんじゃないか」
「そうだな」
そう言ってハンマー片手に笑います。王と言ってもみんなと対等の様です。
「で用はなんだ?」
「こいつの剣を作って欲しいんだよ」
「こいつ?」
「初めましてシロと言います」
ドワーフ王が視線を落とし僕と目を合わせます。どうやら気づいていなかった様です。
「なんだこのチミっこいのは?」
「異世界の住人らしい」
「異世界?」
「俺たちの住んでる世界とは別の世界だよ。まぁ言ってもわからんか。とりあえずドワーフじゃない種族だ」
「ほぉそんなのがいるのか」
「で問題がこれだ。俺じゃこれを加工できなかった」
「んだこりゃ?」
ダンジョンの力の結晶をガンテツさんがまじまじと見ます。ハンマーで叩いて見たり火でくべたりしますがドルストさん同様何も変化がありません。
「とんでもねぇ代物だなこりゃ。俺の使ってる火はただの火じゃねぇフォージガルド山で燃え続ける神炎と呼ばれるもんだ。この火で溶けない鉱石はないと思ってたんだがどうやらあるみたいだ。異世界とやらにはこんなもんがゴロゴロしてんのか?」
「その世界で一番の力を蓄えた物の結晶みたいです。そうあるものではありません。この世界で言えばフォージガルド山の力が結晶化したものです」
「そんな恐ろしいもんなのか。通りで歯がたたねぇわけだ。それに力の結晶つったか?この鉱石はもともと合金の様な性質を持ってやがる。剣を作るなら金属は純度が高ければいいもんじゃねぇ。適切な割合で他のもんを混ぜなきゃならねぇ。だがこいつはもともと完璧な合金になってやがる。蓄えられてきた力がそうしてるんだろ。」
変化がない様に見えましたがこの鉱石の特徴を見抜いた様です。流石ドワーフ王と言ったところでしょう。ただ、この方が歯がたたないと言ってしまったら僕の剣は作れないということでしょうか。
「ガンテツでも無理なのか」
「おいおい俺を誰だと思ってる。ドワーフ達の王、この世界で一番の鍛冶職人だぞ。ドワーフの誇りにかけて意地でも剣を作ってやる」
未知なる鉱石に目を輝かせ鍛冶職人の意地と誇りにかけてガンテツさんが約束してくれます。
「お願いします」
「加工する当てはあるのか?」
「もちろんだ。この鉱石が世界で一番だっていうなら加工するのも世界で一番だ。この火の源フォージガルド山に行く」
◇◆◇◆◇
すぐさまに鍛冶道具を持ち山を登る準備をした僕たちはフォージガルド山に登っています。禿げ上がった火山は魔物もおらずその点は安全な道のりと言えます。それでも舗装された道があるわけでもなく、尖った岩が先を阻みます。源の神炎は火口から行ける場所にあるらしく、標高一万メートル以上にも登るフォージガルド山は魔物がいなくても危険な道のりとなるでしょう。
時に川を渡り、時に崖を登り、時に足場の脆い道を進みました。体の丈夫なドワーフでも五千メートルを超えたところで体調が悪くなりテントを張って休むことになりました。
地面からの熱は熱く雪が降っていてもおかしくない高所でも気温が高いです。
他の二人が辛そうにしているのでテントの中で僕が二人のリュックの中から持ってきた食材で料理を作ります。フォージ街では全て自足自給していて様々な野菜や穀物が作られています。他にも牧畜をやっていて良質な食材があります。
今は調味料が塩しかないため簡単な料理になります。自分で作ったことはないですが存外うまくいきました。力のつく様に牛肉のステーキと野菜のたっぷり入ったスープ、それにパンを配ります。
「すまねぇなシロ」
「疲れた体に染み渡るな」
「構いませんよ。僕が一番動けますから」
食事を終えた僕たちはランタンのほのかな火が灯るテントで横になりながら雑談をする。
「それにしてもこの山を登ってピンピンしてるなんざその見た目からじゃ考えられねぇな。体の強さには自信があったんだがよ」
「純粋な力と体力ではドワーフ族が一番優れていたと文献にはあったが、それをはるかに上回ってるな」
「これまでの世界で僕より強い存在にはあったことがありませんね。これからの世界では、いるかもしれませんがいるなら会いたいです。僕の生まれた意味がわかるかもしれません。」
雑談が続き眠くなってきた頃、ランタンの火を消すと三人は眠りました。僕はじっと横になっているだけでしたが。
◇◆◇◆◇
朝になり三人はテントから出ました。テントを片付け再び山頂を目指します。これから先は足場の悪さに加え熱風が吹き荒れています。登る速度は下がり、消費するエネルギーが増えています。鉱石を取るために山を登るドワーフとは言えこの高さまで登ることはありません。それこそ神炎を取りに行くときぐらいです。僕が魔法で楽に山頂に着く方法はあります。でも決死の覚悟で登る二人を邪魔する道理もありません。
覚悟と意地でようやく山頂の火口に着きました。普通の生物ではここにいるだけで息絶えるほどの熱と煙が充満しています。
「はぁ、はぁ、ここを降りるぞ」
「丈夫なロープを持ってきているそこの岩にくくりつけて降りよう」
「休んだ方がいいんじゃないですか?」
流石に汗をかき息を切らしている二人を見て休むように促します。
「大丈夫だ前に来た時にこの下に小屋を建てておいた簡易的だが熱に耐えれる素材だそこで休む」
それならとロープを岩と自分たちの体にくくりつけ慎重に下ります。そのまま落ちればマグマに真っ逆さまです。そうなればドワーフもただでは済みません。長時間マグマに耐えられる体はしていません。
下に降りマグマに近い横穴に入ります。横穴には扉が付いているところがあり、そこが前に建てた小屋のようです。ここには備蓄があるようです。
そこに入ると少し暑さが和らぎました。それでも山頂よりもよほど暑いです。ここで水を飲み休憩をします。
「この横穴の先に神炎がある。それならばその鉱石を溶かせるだろう。正直神炎の源の近くで剣を作れるかどうかは五分五分だ。一つの剣を作るのに耐えれるかわからない。だが絶対に作ってみせる」
「えぇお願いします」
「よし行くぞ。十分休んだ」
小屋を出て横穴を進みます。進むごとに熱が強くなります。中心のマグマよりも遥かに高い温度が先にあるのがわかります。
ついにその源にたどり着きました。祭壇のような遺跡があり、壁にはドワーフと思われる人が火を崇めている壁画があります。祭壇の中心には黄金の火が吹き出しています。
「ちょっと待ってろサクッと作って来てやるよ」
「頼みます」
ガンテツさんは辛そうな顔を見せずこれからの最高の鍛冶に挑みます。僕は鉱石を渡し、ガンテツさんが受け取り神炎に向かいます。鍛冶道具を広げ鉱石を轟々と燃え上がる神炎で熱します。これまで一切の反応を見せなかった鉱石がその身を赤く変色させます。
金床に鉱石を固定し、何度も何度もハンマーを振り下ろします。子気味良い鉱石を叩く音がなります。叩いても叩いてもわずかに変形するだけで剣にするには途方も無いほど振り下ろさなければなりません。このままでは先にガンテツさんが根を上げてしまうでしょう。僕はこっそり魔法で熱から守るようにヴェールで包みます。
鉱石を引き延ばし、折り返し重ねます。加工するのが困難な鉱石で折り返します。そうして剣として形の整った後、焼き入れを行います。水なんて蒸発する中でガンテツさんは油の中に剣を入れました。ただの油では無いようです。
次に焼き戻しを行います。また神炎で熱した後自然に冷ましていきます。その後大まかに研ぎ細かい部分を研ぎ砥石を変えてより鋭く切れるように研いでいきます。
この作業、実に一ヶ月かかっています。飲まず食わずただ剣を作ることだけに命を捧げていました。これが鍛冶職人ですか。凄まじいですね。素直に感心しました。凄まじいと思ったのは初めてかもしれません。
山を登る前の元気な顔つきは無くなりフラフラになりながら一振りの大剣を僕に渡します。その後ばたりと倒れました。
「ガンテツ!」
極限まで力を使い果たしたガンテツさんを介抱するようにドルストさんが抱きとめます。
受け取った大剣はまさしくガンテツさんにとって会心の出来です。光も吸い込むような黒の大剣です。その重厚な見た目に見合う丈夫さが伺えます。
最高の出来です。会心の出来です。でも究極ではありません。至高ではありません。最強でも最優でもありません。
この剣はまだ強くなります。この鉱石は神炎の数万度では本来の姿を現しません。この剣が僕に訴えて来ます。幸い最高レベルの鍛冶をこの目で見ました。僕にもできそうな気がします。そして問題のさらに温度の高い火はこの下にあります。先ほどの神炎は火の先端でしかなくまだ下に大元があります。その熱実に数千万度です。
「この剣はまだ先があります。今からその先を作りに行って来ます」
「この素晴らしい剣の先があるだって?ガンテツが鍛えたこの最高の剣のか?」
「はい。これはもっと高い温度がないとダメみたいです」
「神炎よりもか!」
「いいえもっと高い温度をもつ本当の神炎はこの下です」
僕は床を踏みぬきます。神殿の下に隠された本来の神炎です。目の前は黄金に染まり中で炎が渦巻いています。閉ざされた空間の中で温度はどんどん上がっています。さながら天然の火炉です。
二人を魔法で包みこみ神炎から守ります。それと鍛治道具も神炎から守ります。
「ガンテツさん借りますね」
僕は剣を作り始めます。ガンテツさんの作業をなぞるように、ただその工程は極端なものです。
剣を一度溶かします。その中身を守っていたものを溶かします。すると出て来たのは真っ白な鉱石です。これがダンジョンの力の結晶の中枢です。魔法でさらに温度を上げ柔らかくします。
時魔法で時間を引き延ばし一度に何度も叩きます。ガンテツさんが打った回数よりも多く何万倍も叩きます。そして引き延ばし、折り返し重ねます。何万層も何十万層も重なるように。そして絶対零度まで急冷して焼き入れします。そして焼き戻します。
風を操り砥石代りに剣を研ぎます。荒いものから最後には原子レベルで調整します。
仕上げた剣は納得のいくものができました。この剣ならば僕の全力にも応えてくれるでしょう。
一般的なロングソードほどの長さの真っ白な剣です。装飾はなく側から見れば強そうには見えないかもしれません。ですが込められた力は計り知れないものを持っています。込めた願いは僕の力に耐えられる絶対に壊れない剣です。ならばこの剣の銘は決まりました。”絶対不壊デュランダル”にしましょう。
この世界での目的は達成しました。最後に二人にお礼を言って次の世界へ行きましょう。
「ドルストさんガンテツさんありがとうございました。おかげでとてもいい剣を作れました」
「正直途中からは何が何だかわからなかったが素晴らしいものを見せてもらった」
「俺も途中から意識が戻ったがシロには驚かされるばっかだ。俺が鍛治王ならシロは鍛冶神だな。その剣は作れる気がしねぇ。人智を超えてやがる。だがそれを超えるものを作ってやる。俺は鍛冶を極めたと思っていたが甚だ以て勘違いだったらしい。いつかその剣を超えるものを作ったらまたこの世界に来てくれ」
「はい。その時はまた来ます。これは差し上げます何かに使ってください」
僕はダンジョンの力の中枢を守っていた外殻を渡します。そして二人を街へ送り僕は次の世界へ旅立ちました。




