会場までの道のり
二人の再会です。3ヶ月ぶりに会うのでお互い顔がおぼろげですが、どんな再会になるのか?
LIVEの当日、彼と待ち合わせをする。この日は3月も半ばを過ぎているのに雪が降った次の日だった。季節外れの雪に対策もしていなかった私は既にスニーカーがぐしょぐしょだった。吐く息は白く、凍てつく寒さが残っていた。他にも防寒しきれていない人を見て、この人かな?この人だったかな?圭太くんて?とメッセージのやり取りで心の距離は縮まっていたものの、直接会うのは3ヶ月振ほどで顔もうっすらとしか思い出せずにいた。けれど彼ならきっと大丈夫!電車でも遅れているのだろうと思い、圭太くん早く来ないかなぁと待っていた。幸い、私は会場からアクセスしやすい場所に住んでいたため、また、時間には自信があり大抵の場合は30分前に着くようにしている習慣から、遅れはあったものの待ち合わせには間に合った。名の知れたLIVEハウス。そこそこの海外アーティストも利用したりしている。収容人数も2,000人と大きい方だ。その最寄の駅で待ち合わせをしていた。他にもLIVEに向かう人が行き交い、長靴でばっちり防寒対策している人や私と同じく防寒着が間に合わなかった人を見ては、仲間がいる、と少し嬉しくなったりした。圭太くんからメッセージが入った。「ごめん汗電車が遅れていてあと15分位かかる。寒いだろうから先に中に入ってても大丈夫だよ。暖かい所にいて!必ず行くから!」と走る絵文字とその後ろにダッシュの絵文字も付けて送ってくれた。やっぱり、電車の遅延かぁ。状況が分かって良かった。しかし、既に30分は経過していたので寒さもあり、残りの15分は近くの喫茶店に入る事にした。喫茶店に行くと人が列をなして待っている状態でとても入れる余裕は無かった。みんな考える事は一緒なんだな、とまた少しクスッと笑えてくる。寒いので暖かい飲み物だけテイクアウトして外で待つ事にした。同じパターンで喫茶店に入ろうとしたが、結局入らずにはみ出た人達が駅のあちこちで見かけられた。私もその人達に混ざってホットティーを飲んでいた。その時「すみません?待ち合わせですか?」と声が聞こえ、その方向を向くと見知らぬ男性が2人組でこちらを向いていた。「待ち合わせですけど何か?」「僕達もなんですよ。でも、この雪で中々連れが来なくて、ちょっと向こうで話しませんか?良かったら一緒に会場向かっちゃいます?」と馴れ馴れしく話す。男の一人は私の背中を押して、もう一人は私の荷物を持とうとして誘導しようとする。私は、このままだと完全に連れて行かれる!と思って「いえ、あの、もうすぐ待ち合わせの友達が着くんです。だから、ここで待ってないと。」と私が話しても「まぁまぁ。行きましょうよ?会場の方があったかいし。ここじゃ寒いでしょ?連れも後から合流するから、お姉さんの友達も後で合流すればいいじゃん。」と半ば無理やり私の肩に腕を回して前へ進ませようとするので、「やめて下さい。ここで待ちますから。」と拒否をしていた時「ちょっと何してるんですか?連れてかないで下さい。僕の彼女。」
声の方を向くとそこには圭太くんがいた。おぼろげだった顔は直ぐにはっきりと蘇った。「圭太くん!」「あ、お姉さん彼氏と来てたの?なんだよ。友達じゃねーのかよ。だってさ〜行こーぜ」
と男達はそそくさと掴んでいた私の腕や肩を離して荷物をドサッと下に捨てるようにして、何も言わずに去って行った。
「圭太くん、ごめ、、」謝る前に圭太くんからの言葉が突き刺さった。
「ダメじゃん!また、変な奴らに捕まって。俺来なかったらどうするつもりだったの。男にはあれ程、、」と言いかけてから私の感情は溢れ出していてポロポロポロポロ涙が止まらなかった。見兼ねて圭太くんは「ごめん。ロココさん。遅れたのは俺なのに待たせてごめんね。安全な場所にって思ったけどこの駅の周り喫茶店くらいしか無いよね。あの状態だし。会場までもこの行き道じゃ大変だよね。ほんと、ごめん。今日は俺から離れないで。ずっと一緒に見たいよう!」と言ってくれて、私は嬉しかったけど、複雑な気持ちでもあった。圭太くんが遅れた事なんかどうでもいい。そんなの気にして無い。私がまた、あんな奴らに連れて行かれそうになったという事実を認めたく無かった。泣いたのは、あの時のユウスケの事件を思い出してしまったから。本当は怖かった。なのに自分に隙があった為に変な奴らに目をつけられて連れられようとしていた、そんな自分が悔しくて、許せなかった。行き場のない思いだけが残って感情として溢れて来た。
圭太くんは私の手を握って行き道をぐんぐん引っ張ってくれた。「寒かったでしょ?俺カイロ持ってるんだけど使う?」「ううん。大丈夫。会場まで歩いたらもう暑くなってると思う。会場の中はそんなに寒くないと思うし。カイロなんか女子かおばあちゃんしか持ってないよ?」とふざけてみせると「誰がおばあちゃんだよ!女子力ってやつだよ。ロココさんより高いかもね〜」「何それー!ひどい。本気出せば私だって!」とバカップルみたいな会話を楽しんでいた。
行き道は歩きにくかったけど、圭太くんがずっと手を握っていてくれて支えてくれたから怖くなかった。寧ろ、安定していて、歩きやすく何より安心感があった。「圭太くんありがとうね。その、ロココさんていうの他に呼び方ないの?」「あれ?俺聞いた事ないよ?教えてよ?」「教えないよ〜。」「はぁ?なんで?矛盾じゃん!じゃあそのままだよ?良いの?前から思ってたんだけどさ〜、ロココって名前どうなのよ?世界史かよ?!」「はぁ?まぁ、世界史だけど権威ある王朝の名前だよー!知らないでしょ〜だって私より一個下だもんね。圭太くんは!」「それ世界史と関係ないじゃん。一つ下でも勉強の内容は変わらないじゃん。てか、ロココさんて勉強出来たの?」
他愛も無い会話は途切れる事がなくて、ただ会場まで歩くだけなのにとても新鮮で楽しくて、今まで味わったことのない優しさとか温かさを感じていた。このままずっと二人で歩いていたいなと思った。
全然話が進まず、書こうと思っていた方向性は合っていますが、思ったより長く時間がかかっています。読み手には飽きないような展開があると良いのかなと思い、次以降に頑張ります。