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彼と喜びと絶望との繰り返し  作者: 青木 綾
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救ってくれた彼

ウトウトしている女性と酒の入った男がどんな事になるのか当時の私には予想も出来なかった。そんな事が自分の身に降りかかる事を考えた事すらなかったし、無縁だとも思っていた。何より、さっきまで楽しく遊んでいた仲間がそんな事をするなんて思えなかった。楽しさのあまり、自分のお酒の許容範囲を超えて、判断能力もなく、個室のテーブルにうつ伏せになっていた私に誰かが「大丈夫?」と声を掛けた。眠い目を覚まし見てみると、あの仲間の中で一番遊び好きそうな35歳のユウスケだった。ユウスケは「俺にもたれかかってもいいよ。酔っちゃったんだね。」と甘い言葉をかけながら私を自分の方へ引き寄せる。「綾ちゃんてお酒弱いんだね〜可愛い。」と耳元で囁きながら、私の髪を触ってくる。私は心地よさと、このままではいけない、という気持ちとで手を払いのけて「酔ってないです。大丈夫です。もう夜だし眠くなっちゃっただけで。」と苦笑いをしてその場から逃げたかった。しかし、ユウスケは「大丈夫だよ。俺が優しくしてやるから、そのままいい子にしてなよ。」とソファに押し倒してきた。「ちょ、ちょっと、やめてよ!私は外に出たいんだから!」踠いても無駄だった。身長180㎝はあるユウスケと150㎝そこそこの私じゃ体力に差があり過ぎた。足をバタバタとさせて、必死に抵抗する。「やめて!!私、そんなつもりで来たんじゃない!!」と暴れる私に強引に口を手で塞がれる。「いい子にしてろって言ってんだろ。黙ってればすぐ終わるんだよ。そもそも一人で夜中に居たらどうなるか分かるでしょ。こんな所って知らなかったの?何人かは知ってるよ?知ってて来てるのかと思ったよ。だって男に囲まれても何も考えないとかあり得ないでしょ。して欲しいって言ってるようなもんだよ?それともお子ちゃまだったのかな(笑)」ユウスケは私のスカートの中に手を入れて来て下半身を触る。"やめてよ!やめてよ!"必死に言ったが口を手で覆われて声にも出来なくて、声を出す力もなくなってきていた。個室の外は騒がしい音が鳴り響いていて、誰にも聞こえない。"誰か助けて!お願い!!"そう言っても届かなかった。悔しい。何も分からなかった自分が悔しくて、バカで、何の為にここに来たのか。単純に仲間を探して楽しい時間を過ごしたかっただけなのに、楽しい世界に足を踏み入れたばかりにそんな事に気付かない自分が一番愚かだと思えてきた。抵抗する力も段々弱くなり、もう諦めかけた。その時、ドアが開いて、誰かがユウスケを蹴飛ばす。腹を殴り顔も殴っていたようだった。「ウッ痛えな!なんだよ!圭太じゃん。何すんだよっ!!」そう言うユウスケにもう一発顔面パンチをして、圭太と呼ばれていた人は私の腕を掴んで、引っ張って個室の外へ出してくれた。その後も店を一目散に逃げて夜の渋谷を走った。人にぶつかりながら、「おい!何ぶつかってんだよ?!」と通行人も無視して、圭太は私の腕を掴んで離さない。スクランブル交差点を渡り切って駅前に着いた時、ようやく圭太が走るのをやめた。二人とも、疲れて息を切らす。"はぁ、はぁ、はぁ、、"「君、バカなの?確か俺の一個上だよね?その年であの状況で、はぁ、なんで分かんないの?」私は何も考えずに「年なんか関係なんよ!分かんなかったんだよ!はぁ、はぁ、」と助けてくれた事に感謝もせず、言葉が先に出てしまった。私だって、こんな集まりだと知っていたら、行かなかったし、一人で行った自分にも責任がある。でも、どうしてもそんな事は認めたくなくて、そんな集まりをしているあんたらが悪いとばかりに「こんな事して卑怯者の集まりじゃんか!知っていたら来たくなかった!!」と怒りと悲しみの混じった感情で言葉を発した後、涙が出てきた。怖かった感情と怒りと悲しかった気持ちが一気に溢れ出し、座り込んで泣いてしまった。圭太は通行人から、冷ややかな目で見つめられながら、どうする事も出来ない状況に「分かったよ。でも、世の中には悪い人もいるんだから、気を付けないと。今日は帰ろう。」と手を取って駅まで見送ってくれた。私は駅の改札を出た時、振り返って圭太を見つめた。その時初めて、今日一次会からずっと気になっていた彼だった事にようやく気付いた。しかし、圭太は手を振って別の改札の方へ向かって行ってしまった。

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