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8.鬼人の宴

 新たに狼人族の協力を得ることに成功した俺たちはその晩、村長むらおさの家で歓待を受けた。

 彼らなりに最高級の料理や酒が、惜しげもなく振る舞われる。

 ちなみに今回も、シルヴァが捕まえてきた獲物を提供しておいた。


 その席には傷だらけのドベルも出席していた。

 てっきりまた敵対するのかと思っていたら、嘘のようにおとなしくなっている。

 レミリアの強さを見せつけられ、すっかり心を入れ替えたようだ。

 強さが全ての基準ってのもどうかと思うが、仲良くやっていけるならそれに越したことはない。


 ちなみに宴の最中に改めて、”レミリアは俺の嫁です”と言ったら、また盛り上がってしまった。

 村長の爺さんからは”婿殿~”と言って抱きつかれ、しこたま酒を飲まされた。





 翌日は盛大な2日酔いだったが、不思議と気分は悪くなかった。

 朝早くに狼人族の村に別れを告げ、バルカンに乗って帰路に就く。

 ただし、チビトカゲが飛竜ワイバーンに変身したら、パニックになりかけたけどな。

 どれだけ先に言っておいても、災害指定級の魔物が実際に現れると混乱しちゃうんだな。


 おかげで俺の株はまたまた急上昇。

 銀狼、神狼、ワイバーンを従える人物として、ほとんど神格化されつつあるような気がする。

 あまり期待されても困るが、この大陸でネットワークを作り上げるには、そんな名声も利用するべきか。


 途中でシュウたちも回収し、カガチに帰還して仲間と情報を共有した。

 今のところ計画は順調なので、みんなも喜んでくれている。





 翌日はジード、ダリル、ザムド、ナムドを連れて出発だ。

 4人ともこの大陸からさらわれ、奴隷として売られていた奴らだ。

 まず猫人族の村までバルカンでひとっ飛びし、そこから陸路で虎人族、獅子人族の村を目指す。


 今回は空中移動に際して、俺たちが乗り込む箱を準備した。

 これは横幅が背丈より少し小さいくらいで、長さはその倍、高さは胸ぐらいまである木製の箱で、名付けて”飛行箱”。

 箱の上部にはバルカンが掴みやすい握りがついていて、これを持って彼に運んでもらう。

 風を避けて快適に移動できるよう、ガルたちに作ってもらったものだ。


 一応、いろいろと工夫して軽量化はしてあるが、それなりに重量はある。

 しかしバルカンは火魔法を応用した上昇気流に乗って飛べるので、けっこう重い物でも運べるのだ。

 さすが、火精霊サラマンダーから進化した特異なワイバーンなだけはある。


 1刻ほどで猫人族の村に到着すると、そこからは箱を置いて地上を歩いた。

 さすがに地図も無いような密林で、空から目標の集落を見つけるのは難しいからだ。

 一度でも行けば、次からは飛んでいけるので、これも必要なことと割り切るしかない。





 険しい道を歩いて4日で、虎人族の村に到着した。

 ここも警戒が厳しかったが、ザムドとナムドが交渉して入場を認めてもらう。

 俺たちが行商用の荷物を持っていたのも大きかった。


 その後、彼らの家族を訪ねると感動の再会となり、みんなで涙を流して喜んでいた。

 俺もおおいに感謝され、村長にも会うことができた。


 村長に奴隷狩りの話をすると、それなりに前向きな感触は得られたものの、その場で結論は出なかった。

 他の種族を含め、具体的な話がまとまるまでは様子を見たいって話だ。

 猫人族と比べて人族との接触が少ないせいか、人族への恐怖感が強いのだろう。





 とりあえずザムドたちを残したまま、今度は獅子人族の村へ向かった。

 2日後に着いたその村では、ジードが積極的に動いてくれ、とんとん拍子に話が進む。

 その日のうちに村長と会うことができ、奴隷狩り対策について話をした。


 しかし、ここでも反応はかんばしくなく、虎人族と同じような結論になりかけたところで、ジードが長に噛み付いた。


おさ、そんなことを言ってて、また被害が出た時はどうするんだ? 奴隷に落とされるのがどんなに辛いことか、考えてもみてくれ!」

「むう……たしかに奴隷狩りに遭ったおぬしには申し訳なく思う。しかし、いたずらに人族と敵対するのは避けるべきだ」

「甘いっ! すでに俺たちはケンカを売られてんだ。このまま手をこまねいていれば、人族はさらに付け上がるぞ!」

「それでは一体、どうしろと言うのだ!」


 ジードの突き上げに村長もキレそうになってきたので、仲裁に入る。


「まあまあ、長、ジード、内輪で争っても仕方ありません。長もこのままでいけないことは、ご理解いただけけますよね?」

「それは分かっておる。しかし好んで争いに加わろうとは、やはり思えん」

「それでは私がこの先、鬼人族、エルフ族、竜人族の協力まで取り付けられたなら、人族への抗議文に署名をしてもらう、というのはどうでしょうか?」

「……ふーむ」


 村長は真っ白な髭をいじりながら、しばらく考えていた。

 やがて条件をひとつ加える。


「それらに加えて、ダークエルフも説き伏せられれば協力しよう」

「ダークエルフ? 集落の場所をご存じなのですか?」

「うむ、ここから5日ほど歩いた所にある。必要なら案内も付けてやろう」

「分かりました。後日、また伺いますのでよろしくお願いします。しかし、あえて条件を追加するということは、説得が難しいんでしょうね?」

「いかにも。かなり排他的な種族だ。しかしそれくらい説得できんようでは、大陸中の力を結集するなど無理であろう?」

「肝に銘じておきます。いずれにしろ声は掛けるつもりでしたから、挑戦してみますよ」


 その後は歓迎の宴となった。

 とうに諦められていたジードとダリルが戻ったのだ。

 村を挙げての大宴会になった。


 今日はいい返事はもらえなかったが、気のい人たちはたくさんいる。

 もう少し時間を掛けて説得すれば、なんとかなるだろう。





 そう考えていたら翌日、ジードが残って周りを説得すると言ってきた。

 まだ家族とも十分に話し合えていないだろうから、俺はそれを許した。

 ジードとダリルを残したまま、俺たちは獅子人族の村を後にする。


 その足で虎人族の村に舞い戻ると、再び村長に面会を申し込んだ。

 そして獅子人族との会談内容を話し、同じ条件で協力してもらえるよう申し入れる。

 最初は迷っていたが、獅子人族も協力するのなら、という条件で了解の言質げんちを得ることができた。


 そしてザムドたちはしばらく村に残し、引き続き村人を説得してもらうことにした。

 まだ年少の彼らでは少し頼りないが、何もしないよりはましだろう。




 その後、飛行箱を回収し、残りのメンバーだけで帰路に就いた。

 6日ぶりにカガチの拠点に戻った俺は1晩だけ休息を取り、翌日にはカイン、サンドラ、アイラを連れて旅立った。

 まずは空路で狼人族の村へ飛び、そこで案内を雇って徒歩で鬼人族の村へ向かう。





 険しい道を5日も歩いて、ようやくカインたちの故郷へたどり着いた。

 さっそくカインが身分と用件を門番に伝えると、すぐに村長が呼ばれた。

 村長はカインの家族だったので、またまた涙の対面となった。


 すぐに長の家へ招かれて事情を話すと、村中が大騒ぎになった。

 この辺りは生息する魔物が強力なため、誰かが行方不明になっても奴隷狩りに遭ったのか、魔物に倒されたのか分からない場合が多いらしい。

 それが身内ジャミルの裏切りで、カインたちが奴隷になっていたと聞かされれば、驚くのも無理はない。


 そして奴隷狩り対策の話に移行すると、議論が紛糾した。

 当然、人族と敵対することに反対する声も大きかったが、カインたちが謀略で奴隷にされたことが激しい怒りをかき立てた。

 カインも熱弁を振るったのもあって、”奴隷狩り許すまじ”の声が大多数となり、全面的に協力してもらえる話になった。

 狼人族に続き、これは非常に心強い。



 そしてその後の宴では、またまた熱烈な歓迎だ。

 カインたちを救ったばかりか、一緒に迷宮を攻略してきたという話が鬼人族のスイッチを入れたらしい。

 さらにサンドラを嫁にしたと告白した後は、みんなに絡まれて揉みくちゃだ。

 鬼人族ってのは非常に熱い種族のようだ。





 翌朝、少し遅い時間に目覚めると、長の家の中は惨憺さんたんたる状況だった。

 村の重鎮を含む鬼人族の面々がそこら中に倒れており、まさに死屍累々ししるいるいの有様。

 こんなんで村が立ちゆくのかと、心配になるほどだ。


 しばらくウロウロしてたら、朝食に呼ばれた。

 サンドラが飯を準備してくれたらしい。

 鬼人族の汁物をすすっていると、2日酔いが楽になってきた。


「なかなか美味いな、これ。サンドラが作ったのか?」

「そうじゃ、久しぶりで自信がなかったが、口に合うか?」

「ああ、少し変わってるけど、俺は嫌いじゃないな。それにしても鬼人族の宴は凄いな」


 そう言うと、サンドラが顔をしかめた。


「鬼人族はお酒が大好きじゃから、常に宴会のネタを探しているようなものじゃ。我らの帰還と結婚報告なぞ、格好の理由よ。我が君を巻き込んでしまって、申し訳ないくらいじゃ」

「まあ、親交を深めるにはいい機会だったと思うよ……ウプッ」

「大丈夫ですか? 旦那様」

「ああ、大丈夫だって」


 まだ少し頭が痛いが、それほど気分は悪くない。

 むしろ今後は鬼人族のバックアップを得られることになって、気分がいいくらいだ。

 この調子ならエルフや竜人族との交渉も、なんとかなるかもしれない。


 そんな風に楽観的に考えていた裏で、ある悲劇が進行していたことを俺は知らなかった。

 俺は少し慢心していたのだろう。


 そして、その時が来た。


「グハッ!」

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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