表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
天空郷探索編
82/82

エピローグ

 人魚女王マーメイドクイーンの依頼から始まった海底神殿の騒動は、残念ながらその崩壊という形で幕を閉じた。

 18年前に師匠を殺害していたバンダルクが、罪を問い詰められて暴走した結果だ。

 おかげで冥界と地上世界をつなぐ数少ない神々の遺産が、またひとつ無くなった。

 しかしハイエルフや魔神族からすれば、それほど珍しいことでもないらしく、彼らは淡々と受け入れてるように見えた。


 それよりも、はるかに驚くべき話が、事件後に浮上してきた。

 ハイエルフのアルデールが、俺の父親かもしれないというのだ。

 チェインの指摘でそれを知った俺は、セティーリアの勧めもあって、しばらく天空郷で過ごすこととなる。


「とりあえずはこの家を使ってくれたまえ。必要な物があれば、おって届けさせるよ」

「どうもありがとうございます。足りない物があれば、お願いするかもしれません」


 再びバハムートに運んでもらい、天空郷へ帰還した俺たちは、当面の暮らし用に家をあてがわれた。

 それは天空郷の一角にある家で、こぢんまりとした空き家である。

 小さいといっても部屋はいくつもあり、俺たちが過ごすには十分だ。


 セティーリアが帰ったので、改めて今後の方針を話し合う。


「それで今後、みんなはどうする? 俺はしばらく調査に付き合わなきゃいけないけど、みんなは残る必要ないよね」

「そうですね。俺はデイル様に危険がないと分かったら、とりあえず村に帰ろうと思います。あまり留守にするわけにもいかないので」

「次期村長のくせに、ほとんど根回しせずについてきたからなぁ」

「いえいえ、デイル様のお召しとあれば、誰も反対はしませんよ。それに土産話みやげばなしもいっぱいありますから、まあ、許してくれるでしょう」


 まず、一番忙しいであろうカインは、じきに帰ることになった。

 たしかに現時点で、彼の仕事はほとんどないだろう。


「それなら俺も、少し様子を見たら帰りますよ。商会の仕事も溜まってるでしょうからね」

「わらわもそうしよう」


 続いてリュートとサンドラも、帰宅の意思を示す。

 俺たちはフェアリー商会を運営していて、それなりに仕事もあるから、まあ妥当だろう。


「レミリアたちはどうする?」

「私は旦那様の護衛として残ります」

「私は魔法について、ハイエルフさんたちとお話をしたいです」

「あたしも今後のエルフ族との橋渡し役として、いろいろ話を詰めておきたいね」


 レミリアは護衛の任務を譲るつもりはないだろうし、リューナとチェインの申し出はもっともだ。

 まあ、4人くらいなら、邪険にされることもないであろう。


「よし、それなら当面残るのは俺たち4人だな。キョロたちもしばらく残るか?」

(たぶんご主人の能力を誇示するには、僕たちはいた方がいいと思うんだよね~)

(うむ、我は常に主と共に)

(我も構わんぞ)

(うん、マスターのためにがんばります)


 俺の眷属たちはやる気満々だ。

 あまり過激なことをしないよう、注意しておいた方がいいかもしれない。





 翌日から本格的な調査が始まった。

 まずはバンダルクがやらかした海底神殿がらみについて、奴の身辺を調べた。

 そしたら出るわ出るわ。

 海底神殿からくすねてきた通信機に留まらず、奴の研究資料から、だいぶ事態がつかめてきた。

 バンダルクの野郎、海底神殿の宝珠を調べて、世界中の遺物を私有化しようと企んでいたらしい。


 もっとも、それは奴の妄想に過ぎず、神々の遺産を自由にするなんて、到底無理だってことらしいが。

 不可能を追い求めて師匠まで殺すなんて、ハイエルフにも業の深い奴がいるもんだ。

 いずれにしろ、奴の愚行は後世への教訓として、語り継がれるそうだ。



 それと並行して、俺の素性についても調査が行われた。

 といっても血統を調べる術もないので、主に俺の能力についてだ。


「それでは進化後の姿を見せてもらえるかな?」

「了解です。みんな、戦闘形態バトルフォーム

((((おおっ!))))


 俺の指示で、キョロ、シルヴァ、バルカン、ドラゴが上位形態を解放する。

 するとまばゆい光の中から、雷玉栗鼠サンダーカーバンクル暴風狼テンペストウルフ飛竜ワイバーン、そして剣角地竜ソードサウルスが現れた。


「なんとまあ……これが魔物の進化、か」


 呆れたような声を出しているのは、フョードルという名のハイエルフ男性だ。

 長いあごひげを生やしたおっさんで、いかにも学者然とした人物だ。

 彼は特に使役術について研究しているらしく、俺の調査に協力してもらっている。


「なかなかに興味深いだろう? たしかに魔物が条件を満たすと、進化することはあるらしいが、デイル君はそれを促したらしいんだ。その時の話をしてもらえるかい?」

「はい。あれは俺が、絶体絶命の窮地に陥った時でした。彼らが体を張って俺を守ろうとした時、ふいに呪文が閃いたんですよ。えーと、たしか……『我、デイルの名において命じる。汝の存在を解き放て、進化レヴォリューション!』だったかな」


 セティーリアに聞かれて状況を説明したら、フョードルが呆れたようにつぶやく。


「ほほう、古代エルフ語の呪文がひとりでにのう……」

「あ、やっぱり古代エルフ語なんですね」

「そんな馬鹿な。古代エルフ語を使えもしないのに、呪文が浮かんできた、だと?……仮に我らの血を引いていたとしても、知識が遺伝するなど考えられん……」


 セティーリアが訝しそうにつぶやくと、チャッピーが口を挟んできた。


「そのことについては、儂に仮説がある。この者たちは一介の魔物から、数段上の存在に進化したんじゃ。その進化は肉体を変化させるほどで、すでに上位精霊に近いと言っていいじゃろう。つまりこの進化には、精霊が絡んでおるのではないかな?」

「上位精霊だと?……つまり、彼らが進化するに当たって精霊、もしくは精霊界が力を貸したと?」

「うむ、彼らが進化したのは、2度とも我らが死にかけた時じゃった。こう言うのは少し気恥ずかしいが、我ら眷属は、デイルと魂でつながっておる。デイルを生かすため、全てを投げ打とうとした時、何かが干渉し、太古の記憶を伝え、進化を促した……そう考えれば、辻褄つじつまが合うのではないか?」

「むう、たしかに辻褄は合うが、なんの証拠もないぞ……」


 いまだに疑わしそうなセティーリアに対し、キョロとシルヴァが口を添える。


(うん、チャッピーのその説明、かなり事実に近いかも。あの絶体絶命の窮地に、僕はなんとしてもご主人を守ろうと思ったんだ。その時、見えない何かが、しきりに後押しをしてくれたような気がする)

(うむ、あの時は何がなんだか分からなかったが、精霊が後押しをしてくれたのだとすれば、納得がいくな)


 続いてバルカンとドラゴも、それに賛同する。


(それは我にも納得のいく話だ。元々サラマンダーだった我が、主の呪文によって大きく進化した。その時たしかに、精霊界とのつながりを感じたような気がする)

(僕はただの魔物だったからよく分からないけど、マスターに当てられた土の魔剣から、力が流れ込んできました~)


 するとフョードルが、ドラゴの言葉に反応した。


「なんじゃと? 今、土の魔剣と言ったか?」

「ああ、そういえば、バルカンには炎の短剣を、ドラゴには土の魔剣を当てながら呪文を唱えたな。あれってやっぱり、精霊の力を借りたことになるのかな?」

「おそらくそうじゃ。その剣は今、持っておるか?」

「ええ、ありますよ」


 俺の短剣とサンドラの魔剣を見せてやると、セティーリアとフョードルが熱心に調べる。

 やがて彼女たちは、それなりの結論に達したのか、改めて俺に向き直った。


「どちらの武器も、精霊界への道を開く鍵のようなものであるらしい。やはり精霊の関与があったことは間違いないだろう。そしてそのような進化を実現するには、やはりハイエルフの血統が必要だと思う」

「というからには、実例があるんですか?」

「うむ、最初に実体を得たといわれる始原のハイエルフについて、このような伝説がある。”その者、数多あまたの眷属と結び、資格ある者を昇華させる能あり。それつまり、全ての存在に進化の道を開くものなり”と」


 フョードルは興奮しながら、始原のハイエルフについて語ると、今度はセティーリアが確認するように聞いてきた。


「たしかデイル君は、仲間たちも含めて、数十もの使役契約を結んでいるんだったな?」

「ええ、厳密に使役契約といえるかどうかは分かりませんが、結んでいますね」

「それならばこれは、ほぼ決まりか」

「うむ、それほどの使役能力と、精霊との親和性。ハイエルフの血統を継いでいるとみて、間違いないであろう」


 どうやら彼らなりに納得がいったところで、セティーリアが1歩進み出て、俺に握手を求めてきた。


「デイル君。ようこそ、天空郷へ。我々は新たな同胞として、君を歓迎するよ」

「あ、ありがとうございます」


 あっけなく認められて少し戸惑っていると、今度はアルデールが握手を求めてきた。


「おめでとう、デイル君。さすがに父親と名乗る勇気はないが、歓迎させてもらうよ」

「ありがとうございます。俺も父さんと呼ぶには抵抗があるので、アルデールさんと呼ばせてもらいますよ」


 2人して握手をしながら苦笑する。

 あれからアルデールの情婦だったアメリアについて足取りを調べたのだが、さすがに18年も前のことではほとんど情報もなく、行方は掴めなかった。

 結果、2人の関係は棚上げされたままだ。

 一応今日、俺にハイエルフの血統が認められたのだから、十中八九、彼が俺の父親だとは思う。

 しかし、無理に決めつけなくてもいいではないか。


「おめでとうございます、旦那様」

「おめでとうなのです、兄様」


 何しろ俺には3人の嫁がいるし、さらに多くの仲間と眷属もいる。

 ここでチェインも言葉を掛けてきた。


「どうせこうなるだろうとは思ってたけど、さすがだねえ」

「ああ、これもチェインさんの助言のおかげだよ」

「あたしのしたことなんて、大したことないさ……それよりもさ、あたしのことも呼び捨てにしてくれないかい?」


 ふいに彼女が頬を染めながら、お願いしてきた。

 それはおそらく、ただ呼び捨てにすればいいという意味ではない。

 俺は確認するようにレミリアとリューナを見ると、彼女たちはうなずいてくれた。

 そこで俺も意を決するように、チェインに向き合う。


「分かった。今回のことで俺たちの絆は、十分に深まったと思う。だから、俺の嫁になってくれるか?」


 その途端、周りにいる者たちが沸き返り、口々に祝福をした。

 するとチェインはモジモジしながら、答えを返す。


「い、いやだよう。照れるじゃないかい……だけど、よろしく頼むよ、旦那さん」


 そう言って彼女は、俺に抱き着いてきた。

 彼女の豊満な肉体とむせ返るような色気を、俺は優しく受け止める。

 これで俺も、とうとう4人の嫁持ちだ。


 チェインは年上で既婚者だったから、ちょっと遠慮していたのだが、前々から嫁の座を望んでいたのは知っている。

 しかし年上とはいえ、50歳なんてまだエルフとしてはピチピチの存在だ。

 だから俺たちはまだまだ長い時を一緒に過ごせるし、彼女の存在は俺を助けてくれるだろう。


 何しろこれから、エルフ系民族の大交流が始まるのだ。

 下界との接触を嫌うハイエルフも、これからはどんどん下界へ下りていって、一般人と接触することになる。

 なんてったって、俺という成功例があるのだ。


 これから少しは、ハイエルフの人口減少にも歯止めが掛かるだろう。

 そして共に、この魔大陸を繁栄させていけばいい。

 そう、魔大陸の新たな歴史が、今ここから始まるのだ。


第2部 完

今回で第2部完となります。

じゃあ第3部があるのかというと、基本的にありません。

また構想が湧き上がってきたら、ひょっとして書くかもしれませんが。

今までお付き合いいただき、ありがとうございました。


それから新作を投稿しはじめたので、よければ読んでみてください。

 新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

  https://ncode.syosetu.com/n8275fb/

獣人やホビットなどを16世紀のインディアンに見立て、その悲劇を回避しようとするお話です。

主人公が徐々に力を付け、内政なんかもやる予定です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ