表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
天空郷探索編
80/82

35.海底神殿の崩壊

 18年前の師匠殺害を認めたと思ったら、バンダルクの野郎が暴走しやがった。

 奴はふいに神殿の宝珠を奪うと、正気を失って攻撃してきたのだ。

 そんな奴をなんとか倒したと思ったら、今度は宝珠が壊れて神殿が崩壊すると、セティーリアが言う。


「ええっ、なんとか直せないんですか?」

「時間を掛ければ直せないこともないが、そんな暇はないだろう……ほら、聞こえるだろう? 崩壊の音が」


 セティーリアに上を指しながら言われ、ようやく建物の異変に気づいた。

 ミシミシ、ギシギシ、ピシピシという音が、そこら中から聞こえてきたのだ。


「なんだ、この音?」

「海水の圧力で、建物が悲鳴を上げているのだよ。宝珠の制御が無くなっため、建物自体が弱くなっているんだ」

「そんな……なんとかできないんですか?」

「残念ながら、私にその力は無い。せめてできるのは、ここを脱出して犠牲を減らすぐらいだね」


 セティーリアは悟りきったかのように、淡々と喋る。

 それでも諦めきれず、もう一方の当事者であるバルデスにすがった。


「でも神殿が無くなったら、困るんですよね? バルデスさんなら、なんとかなりませんか?」


 しかしバルデスにも、あっさりと斬り捨てられた。


「いや、我も冥界へ帰って、道を閉じるだけだ。もちろん残念ではあるが、またひとつ、冥界と地上をつなぐ道が無くなるだけのこと」

「そんな……神々の遺産なんでしょ?」

「もう神々がいなくなられてから、何千年も経つ。その間に次々と遺産は消滅してきたが、この世界の仕組みにほとんど影響していない。つまり、そういうことなのだ」

「そ、そんなもんなんですか?」


 呆然と問い返すと、バルデスはあっさりとうなずいた。

 ここでセティーリアが、話はまとまったとばかりに俺たちをせかす。


「さあ、こうしていても始まらない。我々も脱出しよう。神殿の入り口まで戻るのに、建物がもたないかもしれないぞ」

「それならば、デイルに渡した転移の指輪で移動したまえ。この神殿内ならば、十分に機能しよう」

「そうか、それがあったな。デイル君、やれるか?」

「え、ええ、やれると思いますけど……約束が果たせなかったのに、俺が持ってていいんですか?」


 戸惑い気味に聞くと、バルデスは苦笑しながら首を横に振った。


「ちゃんとハイエルフを連れてきてくれたのだから、契約は成立している。予想外の事態にはなったが、それはもうお前の物だ」

「でも……」

「いいのだ。よくやってくれたな。我も冥界へ帰って、この道を閉じるとしよう」

「ああ、そちらはよろしく頼む。また縁があれば、どこかで会おう」

「そんなことがあるとは思えんが、ハイエルフならばあり得るかもしれんな。それでは、達者でな」


 それきりバルデスは、姿を消した。

 さして残念そうでもなく、実に淡々としたものだった。

 彼らにとっては、それほど珍しいことではないのだろうか。


 そんな風にほうけていたら、またセティーリアにせかされる。


「ほらほら、デイル君。入り口まで送ってくれないかい?」

「は、はい。まずはちゃんと戻れるか、ちょっと試してみますね」


 俺は海中からの侵入口に当たる通路を思い浮かべ、転移の指輪に魔力を籠めると、次の瞬間には入り口前の通路にいた。

 すると気配を察したカガリが、俺に念話で話しかけてくる。


(あ、ご主人! もう仕事は終わったの~?)

「ああ、終わったっていうか、ここから逃げ出さなきゃならなくなった。今からみんなを連れてくるから、脱出の準備をしておいてくれ」

(まあ、何が起こったざますか? なんかこの建物もガタガタいってるし、やばいんじゃなくて?)

「あ~……急いでるんで、また後で説明します。それじゃまた」


 メルディーヌの追及を振り切って、俺はすぐに祭壇の間へ戻った。

 するとみんなが安心したように寄ってくる。


「ちゃんと入り口までは転移できました。今から転移するんで、俺につかまってください」

「うむ、よろしく頼む」


 9人と3体の眷属との接触を確保すると、俺は即座に転移した。

 幸い距離は近いので、一発で跳ぶことができた。


「みんな、水の中に入れ。すぐに外へ出るぞ」


 みんなが水につかる形で水に入ると、俺は魔盾イージスで障壁を作り、仲間を囲い込んだ。

 さらにリューナが水精霊ウンディーネを呼び寄せ、隔壁ごと海に潜りはじめる。

 そうしている間にも、神殿は不気味な音を立て、天上から細かい破片が落ちてきていた。

 ウンディーネ任せでなかなか進まない隔壁の中で、俺たちは今にも建物が崩壊しそうで、ずいぶんと気を揉んだものだ。


 しかしなんとか外へ出ると、すぐにメルディーヌが俺たちを確保してくれた。


(ちょっと飛ばすから、つかまってるざ~ます)


 次の瞬間、海の中とは思えない速度で、メルディーヌが泳ぎはじめた。

 そしてその背後では神殿が、海水の圧力に負けて崩れ始めるのが見えた。

 そして神殿は、あれよあれよというまに大量の空気と粉塵に紛れ、見えなくなってしまう。


 そして少し遅れて衝撃波が押し寄せたが、メルディーヌとカガリは力強く泳いでいる。

 さすがは海の女王だ。

 彼女たちがいなければ、俺たちもやばかったかもしれない。


 メルディーヌはそのままグングンと進み、間もなく最寄りの島近くへ浮上した。

 彼女の手を離れて砂浜にたどり着いた俺たちは、ようやくひと息つくことができた。


「ぶはっ、やばかったな~。まさか神殿が崩壊するなんて」

「まったくだ。地上の光が、こんなに素晴らしく思えるなんて」

「まったく、デイルさんといると退屈しないねえ」


 俺たちが地上への帰還を喜びあっていると、島で待っていたバハムートとバルカンが話しかけてきた。


(思ったよりも早い帰りだったな。しかもそんなに慌てて、なんぞ事件でも起こったか?)

「ええ、バハムート様。とんでもない事件が起きたんです」

(ほほう、それは興味深いのう。また天空郷へ送ってやるから、詳しく教えてくれんか)

「もうクタクタなので、少し寝させてください。明日話しますよ」

(ふむ、仕方ないのう。見張っておいてやるから、眠るがよい)

「お言葉に甘えます」


 こうして俺たちは、命からがら海底神殿から逃げおおせ、眠りについた。





 明けて翌日、朝食を取りながら俺たちは、昨日のことをバハムートに語った。


(なんとまあ、ハイエルフが師匠を害しておったか)

「ええ、バンダルクは神殿の宝珠に夢中で、海底神殿を引き継ぎたかったみたいですね。しかし前任のヤザン師が、アルデールさんへの継承を臭わせたために、凶行に及んだみたいです」

(そうしてほとぼりが冷めるのを待っていたところへ、おぬしがしゃしゃり出てきたわけか)

「しゃしゃり出たなんて、心外な。海底神殿が機能しないせいで、被害が出ていたから調べにいっただけですよ」


 そんな話をしていると、セティーリアが横でぼやく。


「デイル君の言うとおりだ。本来、ハイエルフの問題は我々で片付けるべきなのに、彼を巻き込んでしまった。しかも海底神殿を失うとは、愚行の極みだな」

「ええ、神殿を失ったのは残念ですよね。それって何か、この世界に影響は出ないんですか?」


 するとセティーリアはため息をつきながらも、意外にさばさばした顔で言う。


「いや、現実問題として、さして悪影響は無いのだ。ただ神々とこの世の接点が、またひとつ無くなった、というだけの話だな」

「それって、けっこう重要じゃありません?」

「それがそうでもない。長い年月をるうちに、神殿のような遺物は少しずつ減っているのだ。今回の事件も、その中のひとつでしかない」

「はあ、そんなもんですか?」

「そんなものだ。神々の遺産を管理する我々の数も減っていて、その流れは押しとどめようがないのだからな」

「そうですね」


 セティーリアのぼやきに、アルデールも寂しそうに同意する。

 ここでチェインが、アルデールに話を振った。


「アルデールさんはこれから、どうするんだい?」

「ん? そうだな……まだよく考えていないが、まだ残る神々の遺産を、探してみようかと思っている」

「そうかい……ところでアルデールさん、もしあんたの家族が生き残っているとしたら、どうするね?」


 ん? なんでそんな話になるんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ