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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
天空郷探索編
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33.バンダルクの暴走

 セティーリアたちを連れて海底神殿を再訪した俺たちは、彼女らと共に神殿内部を調査していた。

 すると通信器が無くなっているなど、外部からの干渉があった可能性が高まった。

 さらに調査の対象は、天空郷と神殿をつなぐ転移装置の部屋へと移る。

 祭壇の間の一角にあるその部屋には、中央に数人が入れるほどの魔法陣と、壁際に水晶玉の付いた制御部があった。


「パッと見た感じ、異常は無いようだな。アルデールは部屋の中を、バンダルクは装置の状態を調べてくれ」

「ハッ、了解しました」

「……はい」


 さして広くもない部屋の中をアルデールが、そしてバンダルクは制御部を調べはじめた。

 俺やセティーリアは、部屋の入り口からその様子を見ていた。

 セティーリアは一見なんでもないようにしているが、バンダルクの動きに注視しているのは分かる。


 やがてアルデールが、特に何も無いと報告すると、バンダルクからも似たような報告がなされた。


「ふむ、特におかしなところは無いか。装置自体は正常なのだな? バンダルク」

「はい、こちら側の装置に異常はありません。こちらの情報を持ちかえれば、すぐに天空郷との行き来も可能になるでしょう」

「そうか……しかしそうであれば、逆におかしいな。こちらの装置に異常がないのに、なぜ天空郷の装置は壊れたのだ?」

「……さあ、それは分かりません。私もてっきり、神殿側の装置がおかしくなって、過負荷が生じたと思っていましたから」


 バンダルクは平然と、そう答える。

 しかしセティーリアは、昔の記憶を探るようにこめかみを揉みながら、話を続ける。


「そうだな、18年前も君はそう言っていた。しかしこちら側に異常が無いのに向こうが壊れるのは、つじつまが合わないのではないか?」

「そんなことは、私にも分かりません」


 憮然と答えるバンダルクに、しかしセティーリアは容赦しない。


「本当に分からないのか? そもそも転移装置は、非常に高度な技術を用いた魔道具だ。長い歴史があって、信頼性も高い。実際、それまでに故障の話など聞いたことがなかったのに、なぜか故障した」


 ここで彼女は言葉を切って、また続ける。


「18年前に転移装置が故障したと聞いた時にも、私は疑念を抑えることができなかったのだ。これは内部の者の犯行ではないのか、とな」

「私が故意に壊したと、そうおっしゃるのですか? いくらセティーリア様でも、聞き捨てなりません。断固、抗議いたします!」

「ああ、そうだろうとも。しかしこの状況では、君を疑わざるを得ないのだよ。よって私はここに、”内読うちよみの宝珠”の使用を提案する」

「せ、セティーリア様! あれは危険性が高い物ですよ。それを身内に使うなど、前代未聞です!」


 セティーリアの提案を、アルデールが必死で止めようとする。

 しかしセティーリアの決意は固いようだった。


「責任は私が取る。バンダルク、私の決意を甘く見るなよ」

「グウッ……」


 セティーリアが覚悟を示したためか、バンダルクは目先の抵抗を諦めたようだ。

 見るからに肩を落として、うなだれている。

 大方の予想はついたが、念のため状況を聞いてみた。


「あの~、内読みの宝珠ってなんですか?」

「ああ、対象者の内心を読み取る魔道具さ。我らの中でも、めったに使われないものだがな」

「はあ、つまり容疑者の尋問に使うわけですね。そこまでする根拠があるんですか?」

「バンダルクについては、18年前からずっと疑われていたのだ。転移装置の故障を最初に報告したのは、彼だったからな。海底神殿側に問題のある可能性は否定できなかったので保留になっていたが、それはなくなった。つまり彼は、最大級の容疑者だ」

「なるほど……」


 そんな話をしている間も、バンダルクは何やらブツブツとつぶやきながら、動き回っていた。

 容疑者扱いをされてはそれも当然かと思っていたのだが、ふいに奴が身をひるがえす。

 そしてあっという間に祭壇の水晶玉に駆け寄ると、それに手を掛けた。


「バンダルク、何をする?」

「やかましいっ! いつまでも上司面してんじゃねえっ! 俺は、俺は力を手に入れるんだ……ググ、グオ~~ッ」


 メロンほどの大きさの水晶にバンダルクが触ろうとすると、バチバチと火花がはじける。

 しかし奴はそれを無視して水晶を掴むと、胸元に引き寄せた。

 水晶玉はなおもそれに抗っていたが、やがて奴の胸に収まってしまう。


「やった、とうとうやったぞ。神殿の宝珠を手に入れた」

「ば、バンダルク……なんのつもりだ? それは神殿を支える力の源だぞ。我らの手に負える代物しろものではないのだ」


 水晶を手にして喜ぶバンダルクに、真っ青になったセティーリアが訴える。

 この流れは彼女にとっても予想外だったらしく、何も動けずにいた。


「うるさいっ! お前もヤザンも、俺を否定してばかりだ」

「否定とは、どういうことだ?」

「18年前にヤザンは、俺を否定したんだ。俺が奴の跡を継いで、宝珠の研究をしたいと言ったら、それを断りやがった。それどころか、下界を遊び回っているそこのアルデールを、後継に考えているとまで言ったんだ」

「ヤザンはそこまで考えていたか……」

「師匠がそんなことを?」

「ああ、そうだ。常に側にいて尽くしてきた俺よりも、お前を選ぶと言われたのだ。そんなことが許せるものかっ! くそっ、くそっ、くそがっ!」


 奴は目を血走らせ、つばを飛ばしながら訴える。

 口に出したらさらに怒りが高まったのか、さらに足を踏み鳴らして喚きはじめた。

 そんなバンダルクに、セティーリアが問いかけた。


「それでお前は、ヤザンを手に掛けたというのか?」

「ああ、そうだ。あまりに聞き訳がないので、毒を盛ってやったんだ。そしたら奴は、あっさりと死んだよ。自業自得さ」

「自業自得だとっ! ふざけるな!」


 激昂するアルデールを、セティーリアが手で制して、さらに質問を重ねる。


「ヤザンを殺してからお前は、通信機を奪って天空郷へ戻ったのだな? そして現場を調べられないよう、転移装置を壊した。違うか?」

「そのとおりだ。すぐに調べられては、足がつきかねなかったからな。そこで転移装置を破壊して、ほとぼりが冷めるのを待っていたのだ。それがなぜか、この始末だ。まさか下界の民に足をすくわれるとは、思いもしなかったぞ」

「なぜだ? なぜそうまでして、宝珠を望む?」


 セティーリアに問われたバンダルクが、さも意外そうに問い返す。


「なぜだと? なぜお前らはそんなにも愚かなのだ? この宝珠の素晴らしさが、わからないのか? この宝珠こそが、この太古の技術の結晶こそが、最高の魔道具だというのに。その技術と力を求めることの、どこがおかしいのだ!」


 奴は宝珠を左手で抱えると、さも愛おしそうに右手で撫でた。

 その様は、すでに尋常でない。

 すっかり理性を失っているように見えた。


 そんな彼に、セティーリアが呼びかける。


「よせ、バンダルク。その宝珠は、この神殿を維持するためのかなめだ。お前がどうこうしてよい物ではない!」

「い~や、俺ならば、俺こそがこの宝珠を、もっとうまく使えるんだ。そうすれば俺は、俺は世界を支配することだってできる!」


 そう言うバンダルクの顔は恍惚としていたが、肌の見える部分に血管が浮き出ていた。

 そんな状態が、正常であるはずがない。


「セティーリアさん。あれ、やばいですよね?」

「ああ、強大な魔力に当てられて、魔力酔いを起こしている。すでにまともな判断力は無いだろう」

「ど~すんですか、これ?」

「分からん……がしかし、場合によっては奴を殺さねばならん」

「そう上手く、いきますかねえ?」


 セティーリアの表情は真っ青で、余裕はまったくなさそうだ。

 それもそのはずで、バンダルクの持つ宝珠が次第にどす黒く染まり、ビリビリと肌で感じられるほどに魔力が高まっていたのだ。

 そしてとうとう血管が破れ、額から血をしたたらせながら、バンダルクは高らかに宣言をした。


「さあ、俺の前にひれ伏せ!」

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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