表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
天空郷探索編
77/82

32.神殿の調査

 俺たちはハイエルフのセティーリアから、海底神殿への案内を頼まれた。

 いずれにしろ神殿へ管理者を派遣してもらう必要があるので、俺はそれを受けることにした。

 まずは海底神殿の近くの小島へ行って夜を明かし、朝になるとすぐに海へ潜る。

 今回は人数が多かったので、カガリの母親であるメルディーヌの力を借り、神殿までの足となってもらった。


 そして巨大ガメのポッポスから借りた鍵を使い、あっさりと神殿へ入ってみせると、セティーリアが乾いた笑いを洩らす。


「ハハハ、あっさりと入れてしまったな、アルデール」

「はあ、我ながら18年も、何をやっていたのかと思いますよ」


 その方法を探していたはずのアルデールが、自嘲気味に答える。

 ちなみに同様に18年を無駄にしたはずのバンダルクは、黙って周囲を観察していた。

 一見、神妙にしているようだが、そのギラギラした視線には、ただならぬものを感じる。


 改めて警戒感を強めつつも、俺は彼らを祭壇の間へ誘った。


「さあ、祭壇の間へ行きましょうか。何か分かると、いいんですけどね」

「ああ、そうだな。まずはここの状況を確認してから、先のことを考えよう」


 すぐに彼らを引き連れて、祭壇の間へ向かう。

 以前のように3頭魔犬ケルベロスが出ることも予想したが、どうやら打ち止めだったらしい。

 何も出てこない道に拍子抜けしながら進むと、やがて最上階まで到達する。

 とはいえ階層を3つも上がるには、外では夜になっているぐらいには時間が経っていた。


 扉をポッポスの鍵で開けて中へ入ると、例の祭壇と水晶玉が目に入る。

 すると大喜びで駆けだした奴がいた。


「おお、間違いなく海底神殿だ。宝珠もちゃんと機能しているようだな。ワハハハハッ」


 何が嬉しいのか、奴は水晶玉に駆け寄ると、嬉々として調べはじめた。

 すでに他人のことなど目に入らないかのようなバンダルクを、セティーリアがたしなめる。


「待て、バンダルク。今から調べるのだから、手を付けるな」

「し、しかしセティーリア様。一刻も早く神殿の機能を回復させなくては……」

「いや、18年前に何が起こったかを調べるのが、最優先だ。その原因が分からなければ、また同じことが起こるかもしれないからな」

「……分かりました」


 本当に渋々といった感じで、バンダルクが祭壇を離れる。

 一応、セティーリアに従う素振りを見せてはいるが、どうにも信用できない野郎だ。

 そんな俺の考えを見透かしたのか、セティーリアが側に寄ってきてささやいた。


「デイル君、申し訳ないが、バンダルクが余計なことをしそうだったら、教えてくれないか。私は神殿の中を調べるのに、忙しくなるからね」

「それはいいですけど、やはり何か怪しいと思ってるんですか?」

「状況的に彼が何かをしたのではないかという意見は、18年前にもあったのだ。当時は調べようもなかったのだがね」

「なるほど。それなら協力しますよ」

「頼む」


 彼女はそれだけ言うと、神殿の調査に取りかかった。

 まずは祭壇の間の一角にある、管理者の居室へと向かう。

 その途中で、レミリアが俺に聞いてきた。


「旦那様、例の魔神族は呼ばなくていいのですか?」

「え? ああ、バルデスのことか。そのうち勝手に来るんじゃねえ? この間もそうだったし」


 するとチャッピーが、俺の記憶違いを指摘する。


「たしかバルデスは、転移の指輪に念じて呼べ、と言わんかったかのう」

「ありゃ、そうだったっけ……そういえば、そんな気もするな。とりあえず呼んでみるか」


 あの時は転移の指輪の話で浮かれていたため、すっかり忘れていた。

 俺はそんな気まずさをごまかすように、指輪に念を込める。

 てっきりすぐに現れると思っていたのだが、予想に反して何も起きない。


 まあ、彼にも都合があるだろうと思い、セティーリアの方に合流する。

 すると彼女は俺を待っていた。


「何をしていたのだ?」

「ああ、以前会った魔神族に、連絡してみたんですよ。この指輪に念じれば来るって言ってたんですけど、来ないようです。今は忙しいのかもしれませんね」

「そうか。できればそういうことは、やる前に言ってくれよ。いきなり見知らぬ者が現れたら、驚くだろう」

「あ~、そうですね。気をつけます」


 素直に謝っていたら、ふいに背後から声が掛けられた。


「その者の言うとおりだな」

「バルデス!」

「思ったよりも早かったな。人族の冒険者よ」


 振り向くと、青白い肌をした偉丈夫が、金色の瞳を輝かせながら、あいさつをしてきた。

 するとセティーリアは平然とバルデスに接近し、4,5歩の距離を置いて対峙した。


「そなたがデイル殿を天空郷へ送ってくれたのだな? 私の名はセティーリア。ヤザンの同胞であり、神殿の状況を確認しにきた者だ」

「ほう、彼はちゃんと仕事をしてくれたようだ。我は魔神族のバルデス。冥界神アルダヌス様に仕え、冥界とこの神殿の連絡役を担当している」

「うむ、よろしく頼む。デイル殿の話では、貴殿はヤザンの死について何も知らぬようだが、何か気づいたことはないだろうか?」

「特に思い当たることはないな。我が異変に気づいて駆けつけた時には、彼はとうに息絶え、天空郷へ連絡を取ることもできなかった」

「何? ヤザンの部屋に通信機ぐらいはあったはずだが……」

「細かいことは知らんが、そのようなものは見当たらなかったな」

「そうか……」


 セティーリアはなおも不審そうにしていたが、すぐに切り替えて調査を開始した。

 そのまま全員でヤザンの部屋へ戻り、ハイエルフたちが調べはじめる。

 俺たちは見守るしかできないが、バンダルクの行動には特に注意していた。

 もちろんセティーリアの指示に従ったまでだが、俺も奴は怪しいと思っていた。

 ひょっとして、18年前のことにだって関わっているかもしれない。


 セティーリアたちはまず、机に突っ伏したままのヤザンの遺体を、詳細に調べはじめた。

 まずは遺体を床に置き、冷静に服をはぎ取って状態を確認していく。

 ミイラになっているので、それほど無残ではないのが救いだが、あまり気持ちのいい光景ではなかった。


「ふむ、外傷は無いようだな」

「ええ。そうなると死因は、病死でしょうか?」

「いくらなんでも、全く連絡を取らずに死ぬなどありえんだろう。ヤザンはまだ8百歳くらいだしな」


 彼女にとって8百歳は、まだ若いうちらしい。

 それに対し、アルデールが問いを放つ。


「それでは師匠は自ら死を選んだと?」

「分からんよ。ひょっとしたら、誰かに殺されたのかもしれないしな」

「しかし外傷は無いのですよ……まさか、毒殺されたとでも?」

「それも可能性のひとつだが、これほど時間が経っていては、何も分からんだろう」


 ヤザンが死んでいた机にはカップが置かれており、その底には何か飲み物の残滓が残っていた。

 しかし18年も経っていては、どうしようもないだろう。

 彼女たちは引き続き室内を調べていたが、通信機の類は出てこなかった。

 それはやはり、彼女たちの常識としてもおかしいらしい。


「やはり妙だな……バンダルク。ヤザンは生前、通信機を使っていなかったのか? しばしば連絡を取っていたように見えたが」

「は、はあ……もちろん使っておられましたが、ここには見当たりませんね」


 どこか居心地悪げに答えるバンダルクを、セティーリアがにらみつける。

 しかしそれでは埒が明かないと思ったのか、諦めて話を続ける。


「あるべき物が無いとなると、やはり外部の干渉があったと見るべきだろうな。その線で調査を進めよう」


 そう言って彼女は、他の部屋へ移動を始める。

 どうやら調査は、簡単には終わらないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ