30.後継者争い2
天空郷でバンダルクと揉めていたら、アルデールという男が現れた。
途端に顔をしかめるバンダルクとは対照的に、まとめ役のセティーリアは顔をほころばせる。
「おお、戻ったのだな、アルデール」
「はい、至急とのことでしたので、取る物もとりあえず、駆けつけました」
「うむ、それでは事情を説明するので、座りたまえ」
「はい」
アルデールはセティーリアに促され、素直に席に着く。
その際に俺たちを見て不思議そうな顔はしていたが、バンダルクのような不遜な態度は見せなかった。
どうやら、この人はまともそうだ。
ちなみにアルデールは、やはり金髪碧眼の超絶美形。
レミリアとチェインが彼を見て、じっくりと見つめていたぐらいだ。
しかしバンダルクみたいなとげとげしさはなくて、より親しみやすい感じがする。
場が落ち着くと、セティーリアが話を進める。
「詳細は省くが、ヤザンの死亡が確認された。その知らせと神代の証を持ってきてくれたのが、こちらのデイル君だ」
「っ!…………やはり師匠は亡くなられていたのですか」
「ああ、そのために海底神殿が機能しなくなり、下界に影響が出ているそうだ。その原因を探るためにデイル君は神殿へ赴き、ヤザンの遺体を確認した。そしてそこへ居合わせた魔神族に、代わりの管理者を寄こすよう、遣いを頼まれたらしい」
「下界の民が神殿へ入ったのですか? いや、失礼。君たちを侮るつもりはない。正面から神殿に入るなら、下界の民であろうがなんだろうが、関係ないからな」
アルデールが驚いていたが、すぐに謝罪をしてきた。
やっぱりまともな人みたいだ。
「ええ、神殿へたどり着くのは大変でしたよ。海神に仕えていたという大亀に会いにいったりして」
「ネプタルノス様に仕えていたカメか? そうか、その手があったのか……」
なぜかアルデールは、ひどく悔やしそうな顔をした。
するとセティーリアが、事情を教えてくれる。
「フフフッ、アルデールは海底神殿への道を探して、飛び回っていたんだよ。それを部外者に見つけられてしまっては、立つ瀬がないのも分かるだろう?」
「フンッ、無様なものだな」
「ッ! 貴様だって転移装置を直せなかっただろうが!」
ここでバンダルクがあおるもんだから、アルデールとのにらみ合いが始まった。
なんか、張り合ってるみたいね、この2人。
「あ~、俺はたまたま知り合いのシーサーペントから、ポッポスを紹介してもらっただけですよ。でなけりゃ海底の瘴気を、指をくわえて眺めるしかできなかったでしょうね」
「いや、そう謙遜しなくてもいい。バハムートのお眼鏡に適ったことといい、デイル君には味方が多いようだ。我々にも見習うべき点は多いよ」
「おっしゃるとおりです」
「フンッ」
セティーリアの褒め言葉にアルデールは同意するも、バンダルクは納得してない感じだ。
まあ、そんなことはどうでもいいんだが。
「それで、新たな管理者はどうするんですか?」
「うん、それなんだがデイル君、私たちを海底神殿へ連れていってもらえないか?」
「なっ、師匠の形見さえあれば、転移装置を修復できます!」
セティーリアの率直なお願いに対し、バンダルクが即座に噛みついた。
しかし彼女は懐疑的な目を向けて、奴を諭した。
「修復にはそれなりの時間が掛かるだろう? それに向こうの装置がどうなっているかも分からないのだから、外から入るのが得策だ」
「クッ……」
バンダルクの野郎はひどく顔を歪め、悔しそうにしている。
そんなに自分の手で直したいのかねえ。
しかしそれよりも、今はこっちの話だ。
「え~と、俺が皆さんを連れていく必要があるんですね? 乗りかかった船なので、いいですよ」
「助かるよ、デイル君。このお礼はきっとする。我ら秘蔵の魔道具とか、財宝なんてどうかな?」
「えっ、本当ですか……あ~、でも魔神族からも先払いでもらってるからなぁ」
「それはそれで受け取っておきなさい。我らハイエルフのメンツにかけても、恩人を粗末にはできないからね」
「はあ、それじゃあ後日、適当な物をいただくということで……」
なんと、ハイエルフのご褒美までもらえるそうだ。
これは思った以上に、おいしい仕事だったな。
この時の俺は、のんきにそんなことを考えていた。
(ううっ、なんで、なんで連れていってもらえないんですかぁ?)
「だから人が増えたから、無理なんだって」
会談終了後、すぐに海底神殿へ向けて発とうとしたら、ドラゴがごねた。
空路で移動するのに彼はでか過ぎるし、海中に潜るにはさらに邪魔だ。
それで彼には天空郷で待っていて欲しいと言ったら、涙ながらにすがりつかれたのだ。
(僕だけ置いていかれるなんて、ひどいですぅ)
そう言ってドラゴがバルカン、シルヴァ、キョロを見ると、彼らがそれぞれに言い訳する。
(我は主たちを運ばねばならんからな)
(我はドラゴほどでかくないぞ)
(僕はほとんど荷物にならないからね~)
彼らにも裏切られたドラゴが、また俺に涙目を向ける。
(やっぱり、僕だけいらない子なんだ~)
「……ハーーーッ。分かった分かった。それじゃあ、シルヴァにも残ってもらおう」
(なっ、ひどいぞ主。海底神殿でも何があるか分からないのだ。我を連れていくべきだろう)
「神殿自体はすでに探索済みだからな。悪いけどドラゴと一緒に留守番しててくれ。すぐに戻るから」
(ぐぬぬぬぬ)
(ううっ、それなら我慢できるかも)
結局、シルヴァを生贄にして、神殿行きのメンバーが決まった。
次は足の準備だ。
「それで、このバルカンに天空郷への出入りを許可して欲しいんですけど」
「あ~~、そうだな。結界を出入りできるよう、登録しておこう」
外へ出てバルカンがワイバーン化すると、セティーリアが呆れながらも、彼の出入りを許可してくれた。
あとはバハムートに空路での侵入法を教えてもらえば、バルカンも出入りできるようになる。
そこで俺たちはバハムートの所へ行って、事情を説明した。
(ふむ、それぐらい構わんぞ。ところで海底神殿の近くまでは送らんでよいのか?)
「バルカンがいるのでなんとかなります。あまりバハムート様にお手間を掛けるのも、なんですから」
(そんなこと、気にせずともよい。久しぶりに起きて、暇を持て余しておったところだ。後で話を聞かせてくれるなら、送ってやるぞ)
「ええっ、いいんですか?」
「ふむ、この際だから甘えさせてもらうか。久しぶりに頼むぞ、バハムート」
(うむ、任せよ)
思わぬバハムートの申し出にセティーリアも同意したので、甘えることにした。
ぶっちゃけ、バルカンだけではちょっと輸送力が足りないとは思っていたのだ。
セティーリアたちも連れて1回で飛べるなら、文句はない。
さて、海底神殿ではどんなことになるのやら。