28.ハイエルフとの遭遇
すみません。
投稿忘れてました。
今後も基本、水曜投稿です。
古代竜のバハムートが、俺たちを乗せて飛んでいる。
ハイエルフが住まうという、天空郷へ向かうためだ。
そしてバハムートの向かう先には、雲に覆われた高峰が見えていた。
やがてその高峰が間近に迫ると、バハムートから念話が届く。
(今から雲の中に突っ込むので、吹き飛ばされぬようにな)
「了解。みんな、魔盾で障壁を張るぞ。ドラゴは辛抱な」
(ううっ、なんかさみしいのです~)
バハムートの背の上に障壁を張ると、それまで吹きすさんでいた風が遮られ、急に静かになる。
そしてすぐにバハムートは雲の中に突っ込み、周囲の視界が真っ白になった。
その後も力強く飛び続ける彼の周囲には、風雨が渦巻き、小規模な雷も発生していた。
半端な存在では飛び続けられそうにない環境は、侵入者を阻む障壁としての役目を担っているのだろう。
そうこうするうちに、ふいにバハムートが雲を突き抜け、周囲が明るくなった。
それまでの荒天が嘘のように、青い空が現れる。
(うむ、無事に抜けられたようだ。もう何十年も来ておらんから、儂も安心したわ)
「そうなんですか。ご苦労様で~す」
そのままさらに飛び続けると、やがて山頂が見えてきた。
ただしその山頂はただの岩山ではなく、明らかに人の手が入った集落のようだ。
「あれが天空郷、ですか……」
(うむ、この世で最も天界に近いといわれる、太古の遺物だな)
「とうとうここまで来たんだな……」
「ええ、よくたどり着けたもんです……」
仲間と共に感慨にふけっているうちに、バハムートは町の外縁部にある広場へ舞い降りた。
その巨体をものともせずに、彼はふんわりと地面に着地する。
おそらく風魔法か何かで、補助しているのだろう。
ようやくバハムートの爪から解放されたドラゴが、嬉しそうに這い出してくる。
(ううう~、怖かったのです~)
「アハハッ、ご苦労さん。バハムート様も、本当にありがとうございました」
(いや、美味い石を食わせてもらったのだから、礼には及ばぬぞ。儂も久しぶりに楽しかった)
「そう言ってもらえると、助かります……それにしても、誰もいませんね」
てっきり誰か駆けつけてくると思ったのだが、そんな雰囲気は微塵もなかった。
人が住んでいるかどうかすら、怪しいほどだ。
(元々、ハイエルフとは、そのような者たちよ。自分の興味のあることしかやろうとはせんので、あまり騒ぐこともない。儂はここでのんびりしておるから、探してみるとよい)
「いいんですか? このまま帰ってもらってもいいですけど……」
(フッ、儂にとって数日なぞ、一瞬のようなものよ。気を遣わずに行け)
「はあ、それじゃあ、お言葉に甘えて……」
「「「ありがとうございました~」」」
バハムートの好意に甘え、俺たちは中心部へ足を進める。
周囲には草や木が生えているし、小鳥もいたりして、まるでその辺の里山のようだった。
とても雲に隠れるほどの高山地帯には見えないが、これもまた太古の魔法か何かなのだろうか。
それにしても、人の気配が感じられない。
途中に民家らしき建物もあったのだが、人っ子1人いないようだ。
やがて、ひと際大きい中央の建物の前にたどり着いた。
「全然、人気がないなぁ。本当にここがハイエルフの里なんだろうか?」
「バハムート様が嘘をつくはずもありません。まずはこの辺を探ってみましょう」
「それもそうだな。みんなで手分けして、手がかりを探そう」
レミリアの提案に従い、目につく建物を手分けして調査した。
俺は一番大きな建物を調べてみる。
それは大理石で構成され、荘厳な装飾の施された建物で、まるで神殿のようだった。
大きさは、カガチにある拠点の倍くらいはあるだろうか。
広場に面した正面に扉らしきものは存在したが、押しても引いてもビクともしない。
やがて、他の建物を調べていた仲間も戻ってきた。
「何か見つかったか?」
「いえ、それらしきものは何も」
「こっちもダメだったよ」
「わらわも収穫なしじゃ」
「う~ん、行き詰まったか」
とりあえず俺はチャッピーに視線で助けを求める。
彼のアドバイスで切り抜けてきたことも多いからだが、チャッピーには迷惑そうな顔をされた。
「儂を頼っても、何もできんぞ。ハイエルフなんぞ、伝説の存在じゃからの」
「いやいや、そこをなんとか」
たしかにハイエルフなんて、アルヴレイムの住人以外、誰も会ったことのない存在だ。
妖精女王の話によれば、彼らは太古の精霊が受肉した妖精の1種で、それが世代交代を重ねて世俗化したのが、今のエルフ、ダークエルフになるらしい。
そのためハイエルフは、今のエルフからは想像もつかないような能力を多く持っていると聞く。
しかしアルヴレイムの住人に聞いても、その実態は杳として知れなかった。
そんな話を神殿の前でしていたら、異変が起きた。
さっきは微動だにしなかった神殿の扉が、内側から開きはじめたのだ。
その隙間から漏れるまばゆい光が広がっていき、やがて完全に開ききった扉の中に人影が現れる。
「その方らは何者だ? どうやってここまで来た?」
それは、白い衣をまとったエルフの女性だった。
エルフらしい、ほっそりとした美貌に、金色の髪と青い目。
ただしその耳は、通常のエルフよりも長めに見えた。
おそらくハイエルフだろうと当たりをつけて、まずはあいさつをする。
「俺の名はデイル。人族の冒険者です。ここへはエンシェントドラゴンのバハムート様に、乗せてきていただきました」
「バハムートが? 珍しいこともあるものだな。しかし彼が認めたのであれば、とりあえず問題はないであろう。してその方ら、何が目的でここへ参った?」
「実は、この大陸の北にある海底神殿で異変が起きたんです。それでその原因を調べにいったら、神殿の管理者が亡くなられていたもので……」
「ッ! やはり、ヤザンは死んでいたか」
目の前のエルフ女性が舌打ちをし、沈痛な面持ちでつぶやく。
「ヤザンさん、ですか?」
「海底神殿の管理者の名だ。ここしばらく連絡がつかなかったので、何かあったのだとは思っていた。しかしその方、それを証明することは可能か?」
「それには現場を見てもらうのが一番でしょうけど、とりあえずこれを預かってきました」
そう言って”神代の証”を取り出すと、彼女がそれを確認する。
「ふむ、神代の証に相違ないな。しかしどうやってこれを手に入れた?」
「その管理者の方はとうの昔に亡くなられていたので、そこに居合わせた魔神族から預かりました」
「ふむ、冥界の魔神族も出てきたか。たしかに彼らにとっても、無関係ではないからな……」
少し考え込むエルフ女性に、改めて問い掛ける。
「あの、あなたのお名前を聞かせてもらえませんか?」
「ん? そういえば名乗っていなかったな。私の名はセティーリア。この天空郷の住人で、まとめ役のような立場でもある」
「セティーリア様は、ハイエルフなのですよね?」
「もちろんだ。そうは見えないかな?」
セティーリアはいたずらっぽい目で両手を広げ、問い返す。
さすがまとめ役というだけあって、彼女は落ち着いた雰囲気を持っていた。
歳の頃は20台後半といったところだが、エルフ系に限ってその見た目は当てにならないだろう。
「いえ。単純にエルフとハイエルフの違いを知らなかっただけです。気分を害したらすみません」
「いや、君がそう思うのも当然さ。そもそもエルフとハイエルフの外見に、ほとんど違いは無いからね。まあ、立ち話もなんだから、とりあえず入りたまえ」
「仲間も一緒でいいんですよね?」
「もちろんだ。全て知性ある者であろう? なかなかおもしろい存在も連れているようだな」
「いえ、それほどでもないですよ」
おそらく俺の眷属のことを言っているのだろうが、あまり警戒されないよう、適当にごまかした。
さて、これからどうなることやら?