27.天空郷へ
古代竜のバハムートから与えられた試練は、彼が食える竜輝石を準備することだった。
最初は戸惑った俺たちだったが、魔法を駆使して見事、バハムートに美味いと言わせることに成功した。
しかし次に問題となるのは、それをどう量産するかだ。
「さて、品質にはお墨付きをもらえたけど、あれを大量に作るのは面倒なんだよな~」
「でも旦那様、面倒でもやるしかありません」
「だよなぁ」
再び坑道に戻ってきて、次にやることを考えていたら、思わぬ援軍が現れた。
(マスター、魔力を籠める前までだったら、僕がお手伝いできると思いますよ)
「えっ、マジかよ、ドラゴ。一体、どうやるんだ?」
(後から魔力を籠められるんだったら、まずはザクザク掘っちゃえばいいんですよ。それを僕が踏み潰してから、塊として仕上げます)
ドラゴが誇らしげに、作り方を提案する。
彼なりに考えがありそうだが、そううまくいくだろうか。
「う~ん、そんなんでいいのかな?」
「まあ、よいのではないか? 試しにやってみい」
「それもそうか。それじゃあ、カインにリュート。鉱石を掘り出してくれないか?」
「了解です」
指示するやいなや、カインは戦棍を取り出して鉱脈に向き合う。
しかしリュートは嫌そうな顔をして、文句を言った。
「デイル様。塊剣はツルハシじゃないんですけど……」
「まあまあ、そうはいっても、一番頑丈なのには違いないだろ。助けると思って」
「……今回だけですからね」
いかにも渋々といった感じだが、リュートも鉱石掘りに加わってくれた。
するとさして待つまでもなく、小山のように鉱石が積み上がる。
そのうちひと抱えほどの石をドラゴの前に置くと、いよいよ彼が作業に掛かった。
(それではまず、鉱石を粉々に砕きま~す)
ドスドスとドラゴが足踏みをすると、いとも簡単に鉱石が砕けていく。
そうやってしばらく作業していると、ほとんどの鉱石が砂状になった。
(それでは竜輝石を集めますね~)
ドラゴが土魔法を発動すると、彼の前足の間に光が生じ、そこに砕かれた鉱石の一部が引き寄せられていく。
おそらく粉々に砕いた鉱石の中から、竜輝石の濃度が高い部分を抽出しているのだろう。
(次にこれを固めま~す)
さらに彼は抽出した鉱石にギュッギュッと圧力を掛け、リンゴ大の塊に仕立ててみせた。
(こんな感じでどうですか~?)
「お~~っ、ドラゴ。お前、天才」
(うふふ、それほどでも~)
「凄いのです、ドラゴちゃん。私にも教えてくれれば、手伝いますよ」
「うむ、それならわらわも手伝おう」
「あたしも手伝うよ」
俺が褒めると、ドラゴはもだえながら嬉しがる。
さらに土魔法が使えるリューナ、サンドラ、チェインも協力することになった。
「よし、それじゃあみんなで協力して、濃縮竜輝石を作ってくれるか。俺は魔力を籠めるよ」
こうしてカインとリュートが鉱石を掘り、ドラゴがそれを粉砕。
それを土魔法使いが濃縮し、俺が魔力を籠めるという作業の流れができあがった。
そんな作業を半日ほどしていると、それなりの量の竜輝石が集まる。
バハムートが要求した量には少し足りないが、濃縮してあるので十分だろう。
それをドラゴに運んでもらい、バハムートの眼前に積み上げてやった。
「さあ、召し上がれ」
(うむ、楽しみにしておったぞ)
バハムートは待ちきれなかったように、濃縮竜輝石にかぶりつく。
そしてボリボリと咀嚼すると、また喜びを爆発させた。
(むおおっ、美味い。はるか昔に食った石に、勝るとも劣らぬ出来栄えじゃ!)
それから彼は、無言で竜輝石を貪り食った。
おかげでひと山あった石も、すぐに無くなってしまう。
しかしバハムートは満足そうな表情で、感想を漏らした。
(ふ~~っ、久しぶりに良い食事をした。試しに言ってみるものだな)
「喜んでもらえて何よりです。ところで昔は、美味しい竜輝石がたくさんあったんですか?」
(うむ、まだ神々が地上におられた頃は、どこも魔素にあふれておったからな。質の良い石も、ふんだんにあったものよ)
「は~、想像もつかない話ですねえ……あっ、俺たちも飯の用意していいですか。今日はもう暗くなってきましたから」
(うむ、好きにせよ。明日には天空郷へ送り届けてやろう)
「よろしくお願いしま~す」
それから俺たちはバハムートのすぐ近くで、夕食の準備を始めた。
ありものの肉やら穀物を使って料理をすると、美味しそうな匂いが立ち込める。
バハムートはゆったりと寝そべりながら、それを興味深そうに見ていた。
夕食を終えると、また彼とやり取りをする。
「天空郷へは、どうやって行くんですか?」
(うむ、じきじきに儂が乗せていってやるぞ)
「それはありがとうございます。ちなみに、他にも道はあるんですか?」
(一応、この奥に道があるが、何十日も掛かるぞ。道が残っておるかも分からんしな)
そんな話をしながら、その晩は眠りに就いた。
翌日はバハムートに乗って旅立つことになったのだが、ひとつ問題があった。
「さすがにドラゴは乗れないよな。残念だけど、待っててもらえるか?」
(う~、仕方ないのですう)
いかなエンシェントドラゴンといえど、牛並みのドラゴを背に乗せるのはきつい。
今回は待たせておいて、後で転移の指輪で迎えにこようとしたら、バハムートが協力を申し出てくれた。
(それならば儂が抱えてゆこう。天空郷には結界があるので、転移できぬかもしれぬしな)
「そこまでお願いしていいんですか?」
(うむ、昨日は良いモノを食わせてもらったからな)
「それじゃあ、お願いします」
結局、みんなでバハムートの背に乗り、ドラゴだけは抱えてもらうことになった。
俺たちは身体を命綱で結び、落下防止も忘れない。
やがて俺たちを乗せたバハムートが、力強く飛び立った。
彼のねぐらの上部を通り抜けて、空へ舞い上がると、輝く山々が視界に入る。
「うわぁ、凄い眺めだな。バルカンに乗るのとは、また違った感じだ」
(ホッホッ、それ、速度を上げるので、しっかりつかまっておれよ)
ドラゴも含めれば、けっこうな重さになるはずなのに、バハムートはそれを全く感じさせない。
力強く羽ばたいて、グングンと高度を上げていく。
その先には、雲に隠れた高峰が見えた。
いざ、天空郷へ。