22.竜種とは
お待たせしました。
俺は”天空郷”へ行くため、”竜の渓谷”という難所に足を踏み入れた。
そこには下位の竜種だけでなく、上位のドラゴンまでいるという。
そんな難所を踏破するため、俺は最強の仲間を集めて渓谷へ挑んだ。
そして遭遇した岩石竜を軽く屠り、まずは幸先のいいスタートを切った。
しかしその遺骸を前にして、はたと思い悩む。
「こいつ、食える所あるのかな?」
「一応、中身は肉が詰まっておるから、食えるんじゃないかのう」
俺の素朴な疑問に、チャッピーが無責任なことを言う。
しかし彼以外の誰もが、懐疑的な顔をしていた。
「でも俺たちには毒かもしれないぞ? 西部にはこんなのいないから、どこが食えるかなんて分かんないんだよな。こんなことなら、アルヴレイムの人たちに聞いてくるんだったな」
「いや、彼らもさすがに知らんじゃろう。竜種からは逃げると、言っておったからな」
たしかにエルフってのは自然との調和を旨とする種族だから、必要以上の狩りなんかしない。
それなりの理由があるとはいえ、わざわざ竜の巣窟に突っ込んでく俺たちは、彼らからすれば狂気の沙汰だとか。
そんな話をしていたら、シルヴァがストーンドラゴンの遺骸に近寄って臭いを嗅ぎはじめた。
さらにはドラゴンの血を舐めたりもしている。
「おい、シルヴァ。大丈夫か?」
いかに上位精霊級のシルヴァとはいえ、ちょっと無謀じゃないかと心配になる。
すると彼は、自信たっぷりに念話を返してきた。
(たとえドラゴンといえど、この程度でどうにかなりはせぬぞ、主よ。しょせん下位の竜種など、その辺の魔物に毛が生えたようなものだ)
「いや、それはちょっとかわいそうな言い方じゃないか? 仮にも竜種だぜ」
するとやはり上位精霊級のキョロも、話に加わってくる。
(ん~ん、竜種になるとちょっと魔力で強化されるけど、そんなに変わらないんだよ、ご主人。死んじゃうとそれこそ、その辺の動物と変わらないくらい)
「ふ~ん、そんなもんか。それじゃあ、そいつは食えそうなのか?」
(うむ、牛に似ていて、なかなかに美味いぞ)
そう言いながらシルヴァは、すでにモリモリと肉を食っていた。
その後、1体はシルヴァに食わせてやり、もう1体を俺たち用に解体した。
シルヴァのアドバイスに従い、美味いと思われる部分だけを、切り分ける。
幸いにも今日はドラゴという運搬役がいるので、大量にあっても困らない。
俺たちなら水魔法で氷も出せるから、保存もバッチリだ。
解体に時間を取られたので、その日は大して進まずに野営した。
夕食は皆で焚き火を囲んで、焼肉大会だ。
「ムオッ、本当に美味いぞ、我が君」
食いしん坊キャラのサンドラが、真っ先にかぶりついた。
それに誘われて、俺たちもドラゴン肉を食してみる。
「へ~、たしかに牛みたいだな。普通に食える」
「ええ、さすがにオーク肉には劣りますが、けっこう美味しいですね」
「うん、美味しいね、リュート」
「ああ、向かってきたから倒したけど、その甲斐があったな」
「一撃で倒されたストーンドラゴンが、ちょっと可哀想だったけどね~」
他のメンバーにも好評である。
するとカインが、ちょっと感慨深そうに言った。
「こうやってみんなで野営をするのも久しぶりですね。迷宮を攻略していた頃が懐かしい」
「ああ、あん時は魔導コンロで料理してたけど、こうやって焚き火を囲むのも、また違った雰囲気があっていいな」
するとチェインが苦笑しながら指摘をする。
「よく言うよ。あんなに贅沢な野営をしてたくせに」
「そんなに贅沢だったか?」
「ああ、普通は迷宮内の食事なんて、干し肉を水で流し込むぐらいのもんさ。そして常に魔物の襲撃に脅えながら、固い地面の上で寝るから疲れも取れない。それが”妖精の盾”に合流したら、あまりの快適さに唖然としたもんさ」
「それぐらい知ってるさ。俺たちも最初はそんなもんだったからな。だけど、下層に行くほど休息が重要だって、気がついたんだ。おかげでガルド迷宮を完全制覇できたとも言えるな」
「まあ、そうなんだけどねえ。でも普通は貴重な戦力の代わりに、運び役をパーティに入れたりはしないだろ?」
「いやいや、進化するまえのドラゴだって、けっこう強かったよな?」
(うふふ~、ありがとうございます、マスター)
たしかにガルド迷宮の終盤では、10人パーティの中にドラゴを入れていた。
しかしそれはドラゴがそれなりに強かったからだし、彼の運搬能力も必要だったからだ。
おかげで快適な厚手の毛皮を寝具として持ち込めたし、持ち帰る魔物素材も多くなった。
当然、今回も寝具は持ってきている。
「それにしても、ひと口にドラゴンと言っても、いろいろですね」
ここでカインが話題を変えた。
なかなかいいタイミングだ。
「ああ、俺もそう思った。今日のストーンドラゴンは、思ったよりも弱かったからな」
「いやいや、そんなこと言えるの、デイルさんたちぐらいだよ。普通なら絶対、逃げ出してるよ」
「今日はチェインさんだって、活躍してたじゃない」
「あたしはちょっと足止めしただけさ。サンドラがいなかったら、どうにもならないよ。大体みんな、伝説級の魔道具を持ってるんだろう? あたしとは違うよ」
するとサンドラがチェインを持ち上げる。
「いやいや、チェインもそう捨てたものではないぞ。ちゃんと敵の動きを見て、的確に足を止めてくれたからな。おかげでやりやすかったわい」
「そうかい? そう言ってもらえると、お世辞でも嬉しいね」
「わらわがお世辞なぞ、言うはずなかろう」
「アハハ、それもそうだ」
そんなやり取りに、みんなが笑いをこぼす。
雰囲気がまた明るくなったところで、チャッピーが釘を刺した。
「しかし今日は苦労しなかったからといって、竜種を侮るでないぞ。なんといってもストーンドラゴンは、竜種の中でも下位に属するものじゃ」
「ああ、そうだね。他には紅玉竜や、飛竜もいるんだっけ。チャッピーはルビードラゴンとか、見たことある?」
「いや、儂も話だけじゃな。その見た目の美しさによらず、かなり狂暴だと聞く。めったに人と関わることはないが、もし遭遇すれば地獄を見るとか」
「そいつは怖いな。たしかにワイバーンとかひ弱そうに見えるのに、すげえ強いもんな。あれって、なんでだろ?」
すると竜種の一端であるドラゴが、解説してくれた。
(竜種ってのは、魔力で身体機能を強化しているんですよ~)
「魔力で強化って、魔物はほとんどそんなもんだろ?」
(う~ん、たしかにそうなんだけど、竜種は徹底してるっていうのかなぁ。僕が剣角地竜に進化した時、もの凄い変化があったんですよ~)
ドラゴ曰く、それまでは魔力で筋力を強化するぐらいだったのが、骨、筋、筋肉、皮膚の全てが一気に強化されたんだとか。
おかげで体が何倍も大きくなったのに、それまで以上に機敏に動けたらしい。
「なるほどなあ、たしかにワイバーンの動きって、異常だもんなあ。バルカンは別格としても、マルスやアポロンだって、すげえ動きするもん」
「ほんと、そうですよね。なんであんなにでかいのに、鳥みたいに動けるんだろうって思ってたけど、そうか、魔力で肉体を強化してるのか」
マルスとアポロンは、アスモガインとの決戦用に従えたワイバーンだ。
今でも俺に従っていて、魔力と引き換えに運び屋をやってくれてる。
リュートは動物好きだから、彼らとも仲がいいのだ。
「まあつまり、そういうことじゃ。人の常識では測れんのが竜種じゃよ。ストーンドラゴンを倒した程度で、浮かれるでないぞ」
「それならバルカンやドラゴに、巨大化してもらった方がいいのではないでしょうか?」
レミリアがそんな提案をすると、チャッピーが首を横に振る。
「それはやめておいた方がいいぞ。縄張りを荒らされたと思って、竜種が集まってくるかもしれん」
「ああ、その可能性は高いな……」
ルビードラゴンやワイバーンがぞくぞくと集まる様を想像して、みんなが微妙な表情になった。
やっぱり目立たないように行動した方がよさそうだ。
結局のところ、地道に進むしかないのだろう。
エウレンディアに目処がついたので、連載再開します。
ただしまだ書き溜めがほとんど無いので、週一更新です。
いずれは更新頻度を増やせるか?
でも新作も書きたいでござる。