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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
天空郷探索編
66/82

21.竜の渓谷

 ハイエルフの住まう地”天空郷”へ行くには、”竜の渓谷”という難所を通らねばならないことが判明した。

 そこで俺は、迷宮探索に同行した最強メンバーを呼び寄せる。

 それと同時にチャッピーに”竜の渓谷”の偵察を頼んでおいたら、やはり上位の竜がいるらしいことも判明した。


「上位のドラゴンともなれば、その知性は人間以上じゃ。おそらく”竜の渓谷”の門番みたいなもんじゃから、話せば通じるかもしれんぞ」

「通じるかもしれんぞって、通じなかったらどうすんだよ……」


 俺だけならまだしも、仲間も連れていく以上、そんな気楽には考えられない。

 そう思ってチャッピーに抗議したら、レミリアが背中を押してくれた。


「旦那様、どの道行くと決めているのでしょう? でしたら覚悟をお決めくださいませ」

「そうだよ、デイルさん。こっちだって最強メンバーを集めるんだから、なんとかなるさ。あたしも及ばずながら、力を貸すよ」

「う~ん、そうなんだけどさぁ……ていうか、チェインさんも付いてくるつもりなの?」

「えっ、連れてってくれないのかい?」


 チェインが当然のように聞き返してきた。

 しかし俺は逆に、彼女が付いてくるつもりであることが驚きだ。


「今回のメンバー選びも、あえて2軍連中は外してるんだ。チェインさんには、ここに留まっていて欲しいんだけど……」

「それはあんまりだよ、デイルさん。たしかにあたしは頼りないかもしれないけど、同じエルフとして、ハイエルフに会う機会は逃したくないんだ。頼むよ、連れてっておくれよ」


 必死に懇願するチェインを、レミリアも後押しする。


「旦那様、チェインは体術に優れていますから、それほど足手まといにはならないと思います。魔法戦力は多いに越したことはないので、連れていってはいかがですか?」

「ありがとう、レミリアちゃん」


 レミリアの意外な高評価に、チェインが顔をほころばせる。

 たしかにチェインは俺と知り合うまで、ガルド迷宮を攻略するベテラン冒険者だった。

 ヒルダという仲間と一緒に、”女神の盾”というパーティを支える存在だったのだ。

 今でこそ魔法戦士として後衛に回っているが、それまではバリバリの前衛だ。

 それらの経験も加味すれば、たしかに2軍の中ではマシな方なのかもしれない。


「う~ん……レミリアがそこまで言うのなら、連れていくか。ただし、俺の指示には従ってもらうよ」

「もちろんさ。あたしがデイルさんにほの字なのは、知ってるんだろ? なんでも言うこと聞くから」


 チェインが恥じらいながら、頬を染める。

 彼女はしばしばこうして、俺にアプローチを掛けてくる。

 ダークエルフの彼女は、褐色の肌に黒髪でとび色の瞳と、レーネに比べると地味に見えなくもない。

 しかしその豊満なボディと妖艶な仕種が、とても魅力的な女性である。

 俺が3人も嫁をもらってなければ、とっくにいい仲になっていただろう。


「あ、ああ、それならいいんだ」


 結局、彼女も同行することになり、その後も俺たちはチャッピーの話を聞きながら、作戦を立てた。




 やがて日も暮れてから、バルカンがアルヴレイムへ到着したとの念話が入る。

 長老たちを伴って迎えに出ると、カインたちが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「只今、到着しました、デイル様」

「ああ、みんなご苦労さん。こちらがアルヴレイムのご長老だ」

「「お世話になりま~す」」


 俺が長老を紹介すると、皆が頭を下げる。

 すると長老も、嬉しそうにそれに応じた。


「ホッホ、さすがはデイル様のお仲間じゃ。歴戦の勇士の気配を漂わせておりますな」

「ハッハッハ、それほどでもないぞ、ご長老。そういうあなたも、かなりやりそうじゃ」

「とんでもない。儂はただのジジイですじゃ」


 サンドラがさりげなく返すと、長老もまんざらではなさそうだ。


「さて、これでお揃いならば、中で休まれるがよかろう。こちらへどうぞ」


 こうしてその晩は、またもや長老の家にお世話になり、歓待を受けた。


 ちなみにリューナがいたので、ユージンへの精霊紹介を済ませておいた。

 無事に風精霊シルフィーと契約できたユージンが、感涙にむせび泣く。

 これからしばし彼は、このアルヴレイムで精霊術を学ぶそうだ。


 そしてリューナに精霊紹介の力があることを知った長老が、取引きを持ちかけてきた。

 それは今後も俺たちに便宜べんぎを図ることを条件に、アルヴレイムの住人にも精霊を紹介して欲しい、というものだった。

 その意図はよく分かるし、彼らには世話になったので、戻ってから対応するという形で了承した。





 明けて翌日、俺たちは早々に”竜の渓谷”へ向けて旅立った。

 戦士長のアインデル他数名が、入り口まで案内してくれる。

 そして半日ほどで渓谷の入り口までたどり着き、彼らと別れの挨拶を交わした。


「我々の案内はここまでだ。無理だと思ったら、素直に戻ってくるのだぞ」

「ああ、ありがとう。絶対とは言えないけど、なんとか戻ってくるよ」


 俺たちが精霊を紹介できると知り、アインデルの態度も大きく変わった。

 彼自身は精霊術が使えるようだが、やはりアルヴレイムの衰退を憂いていたのだろう。

 それを打開できる貴重な人材を、危険な場所へ向かわせることに反対もあったそうだ。


 一時は力づくで止めることも考えたらしいが、そんなことできるはずもない。

 結局、少しでも便宜を図って、俺たちの心証を良くする方針に転換したようだ。

 心配そうに見守る彼らを残し、俺たちは”竜の渓谷”へと踏み込んだ。


「よし、みんな行こう」

「「おうっ!」」



 その渓谷は、小高い山々の間を縫う緑の回廊だった。

 入り口の辺りは100歩以上の幅があり、小さな川も流れている。

 幸いにも川沿いに獣道ができており、歩くのにさほど支障はなかった。


 そんな道を俺たちは、隊列を組んで歩いていく。

 先頭をカインとサンドラ、中段をレミリア、俺、バルカン、リューナ、チェイン、シルヴァ、キョロで構成し、殿しんがりをドラゴとリュートが受け持った。

 今回は索敵能力に優れるシルヴァがいるから、不意打ちの心配はまずない。


 案の定、シルヴァから警告がもたらされた。


(前方に岩石竜ストーンドラゴンが2匹いるぞ、主よ)

「聞いたか、みんな。ストーンドラゴンのお出ましだ。カインとサンドラは接敵に備えろ。加勢はいるか?」

「そうですね。2匹いるので、もう2人ほど加勢してもらえますか」

「それならリューナとチェインさんが、援護してやってくれるか?」


 カインの要請に俺が指示を出すと、リュートが立候補してきた。


「俺にやらせてください。カイン兄を支援します」

「そうか。それならチェインさんは、サンドラを援護してくれ」

「分かったよ」


 特に反対する理由もなかったので認めると、リュートとチェインが先頭へ移動する。

 新たな陣形で先へ進むと、前方にストーンドラゴンの姿が見えてきた。

 それは4本足で歩く、太ったトカゲのような存在だ。


 トカゲといいながら足は下向きに付いているので、その体形は牛とか豚に近い。

 ただしその大きさは牛の何倍もでかくて、一筋縄ではいかない相手だ。

 それは名前の由来どおり、全身が岩石のようなゴツゴツした皮膚に包まれていた。

 噂ではこのドラゴンは石を食らうらしく、食ったものに応じて見た目も変わるとか。


 そんな巨獣がようやくこちらの存在に気づき、警戒の声を上げた。


「グオーーーッ」

「来たぞ、カイン。油断するなよ」

「了解です」

「フハハッ、了解じゃ」


 嬉々として向かっていくカインとサンドラに、リュートとチェインが続く。

 まずカインが前に出て挑発すると、ストーンドラゴンが突っ込んできた。

 その1匹をカインが大盾で受け止め、もう1匹はサンドラが鼻先を盾でどついていなす。


 するとリュートがスルスルと前に出て、カインと対峙するドラゴンの横に立った。


「グオ?」


 ドラゴンがそちらに向き直ろうとするよりも早く、リュートの手に巨大な剣が現れた。

 成人男性の背丈に匹敵する長さと、指3本分ほどの厚みを持つその剣の名は”塊剣かいけん”。

 普通なら持ち運びにも苦労するほどの大剣は、普段は”収納のさや”に収まっている。

 ガルド迷宮制覇に対する報酬としてもらったその鞘は、どんなにでかい剣も小剣の大きさに収めてしまう魔道具だ。

 そしてひとたび抜かれれば、巨大な剣が牙をむく。


「ハアッ!」

「グギャウッ」


 横に回り込んだリュートが、ストーンドラゴンの首に塊剣を振り下ろした。

 するとうまいこと装甲の切れ目に命中し、敵の首を半分ほど切断してしまう。

 ストーンドラゴンはそのまま大量の血をまき散らし、あっさりと事切れた。


 さっさと決着がついた横で、サンドラたちも奮闘していた。

 サンドラは盾と剣を巧みに使い、ストーンドラゴンを翻弄ほんろうする。

 それはカインのように敵を受け止めるほどではないが、十分に敵を足止めしていた。


 そしてその足元から、チェインの魔法が炸裂する。


土捕縛アースバインド!」

「グアアーーッ」


 するとストーンドラゴンの足元が変形し、その動きを阻害した。

 そして足元に気を取られた敵の首筋に、サンドラが土の魔剣を振り下ろした。


「ハアーッ!」


 土の魔剣の切れ味とサンドラの技巧により、ストーンドラゴンの首はあっさりと斬り落とされた。

 圧勝である。


「さっすが、見事なもんだね。みんな、ご苦労さん」

「まったく、なんて手際だい」


 どうやら仲間たちの腕は落ちていないようで、ひと安心だ。

最近はなんとか週1更新を続けてきましたが、いよいよ厳しくなってきました。

”エウレンディア王国再興記”を優先したいので、本作はしばらく不定期更新とさせてもらいます。

読んでもらってる方にはほんと、申し訳ないです。

ううっ、筆が進まないでござる。


5/14 ”竜の渓谷”を”竜のあぎと”にしちゃってたので修正。

   エウレンディアとごっちゃになっててすいません。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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