表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
天空郷探索編
64/82

19.カイン

 エルフ族最古の集落”アルヴレイム”にたどり着いた俺たちはその晩、長老たちに手厚い歓迎を受けた。

 想像以上に彼らが協力的だったのは幸いだったが、肝心の”天空郷”への道は、ひどく困難だという。

 そこで俺は、まずは天空郷への道である”竜の渓谷”の情報を集め、攻略の糸口を探ることにした。




 翌日から古文書を読める人を助手に付けてもらい、アルヴレイムの記録を探った。


「どうやら”竜の渓谷”の情報は、これぐらいしかないそうですね」

「はい、他には見当たりませんね」


 調査を手伝ってくれたアイリスが、古文書を片付けながら言う。

 彼女はふんわりとした金髪に眼鏡を掛けた、優しそうなエルフ女性だ。

 俺たちの調査に粘り強く付き合ってくれる、ありがたい人である。


 彼女の協力でひととおり記録をあさると、”竜の渓谷”の状況がおぼろげに見えてきた。

 そこは名前のとおり、竜種が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする危険な場所だ。

 その情報をまとめた木板を見ながら、チェインが呆れた声を出す。


「しかしまあ、”竜の渓谷”とはよく言ったもんだね。岩石竜ストーンドラゴン紅玉竜ルビードラゴン、さらには飛竜ワイバーンまでいるってんだから」


 ストーンドラゴンやルビードラゴンてのは、わりと小型の竜種で、それぞれ岩石と紅玉に似た皮膚を持っている。

 小型と言っても牛より何倍もでかいし、その身体能力も脅威だ。

 しかもルビードラゴンに至っては、火の玉を吐くというんだから、油断できる相手ではない。


 ワイバーンはおなじみの空飛ぶ竜種だが、あれはけっこう群れる習性がある。

 さすがに普通のワイバーンはバルカンみたいに火の玉は吐かないが、空から複数で攻撃されれば厄介この上ない。

 しかも、本当の脅威はそれだけではないのだ。


「ルビードラゴンやワイバーンなんて、まだましだよ。この記録によれば、高位の竜種がいる可能性が高いみたいじゃないか」


 しょせんルビードラゴンやワイバーンなんて、知能の低い下位竜だ。

 まれにガルダみたいに利口なのがいるが、相当長生きしないとああはならない。

 だから火精霊サラマンダーから進化したバルカンぐらいになると、これらの下位竜は大した敵じゃない。

 しかし俺たちがガルド迷宮で倒したような真のドラゴンになると、桁違いに強くなるのだ。


「高位の竜種っていうと、火炎竜ファイヤードラゴンとか大地竜アースドラゴンみたいな奴かい? たしかデイルさんたちは、迷宮でファイヤードラゴンを倒したんだろ?」

「ええっ、ファイヤードラゴンを倒すなんてこと、あり得るんですか?」


 チェインの言葉に、アイリスが驚いている。

 しかしさすがに俺も、そこまではうぬぼれていない。


「いや、あの時は迷宮産のドラゴンだったし、敵も油断してた。天然のドラゴンに同じ手が通じるとは、思えないけどな」

「ええっ、迷宮産だからって、倒せるものなんですか? ドラゴンですよ!」


 アイリスがさらに混乱してるのを尻目に、レミリアが疑問を挟む。


「しかしこの記録、本当に信用できるのでしょうか? ハイエルフから聞いた間接情報ですよね?」

「う~ん、まあそうですね。たしかにストーンドラゴンやルビードラゴンは、周辺で目撃されてますけど、それ以上奥へは、誰も行ってませんからね」


 アイリスが言うように、アルヴレイムの住人は無理に”竜の渓谷”へ踏み込む必要がなかったため、周辺で下位竜を見かけるぐらいしか情報がない。

 しかし、とある資料に真の竜種が奥にいるらしいことを、ハイエルフが示唆しさしたという記録が見つかった。


「数百年も前の話みたいだし、今もいるかどうか、怪しいんじゃないかい?」

「いや、都合よく考えておいて、実際にいたら大ごとだ。最悪を想定して、準備を整えなきゃ」

「それではやはり、仲間たちに召集をかけますか?」

「ああ、ガルド迷宮の踏破メンバーを呼ぼう。俺がバルカンと一緒に戻って、カインたちを連れてくるよ」


 レミリアが提案したように、俺は仲間を迎えにいくつもりだった。

 するとここで、チャッピーが嬉しい提案をしてくれた。


「戦力を集めるのもいいが、情報も必要じゃろう。ちょっと儂が”竜の渓谷”の中を、見てきてやろう」

「大丈夫か? チャッピーが見える魔物だっているだろ?」

「たとえ妖精が見えても、無視されるわい。まあ、奥の竜種には用心するがのう」

「……そうか。ちょっと心配だけど、頼むよ。気をつけてな」

「うむ」


 人の目からは隠れられるチャッピーだが、強い魔物には通じない。

 しかし情報は欲しいから、彼の厚意に甘えさせてもらうことにした。





 その後、俺はレミリアたちを残して西部へ戻ってきた。

 まずはバルカンのみを連れて、セシルの故郷へ転移したのだ。

 そこからバルカンに乗って、カインの故郷まで飛ぶ。


「デイル様、どうしたのですか?」


 村の外に現れたバルカンを見て、すぐにカインが飛んできた。

 カインは赤髪に紅い目を持った鬼人の偉丈夫だ。

 村長の一族である彼はすでに所帯を持ち、次期村長の候補として活動しているのだ。


「よう、カイン、久しぶりだな。実はまた、力を貸して欲しくてな」

「何を水臭い。デイル様のためなら、なんでもやりますよ」


 カインが男臭い顔で笑う。

 彼が故郷に住むようになってから会う機会は減ったが、彼はこうして変わらぬ忠誠を誓ってくれている。

 俺も断られることはないと思っているが、彼にも立場があろう。


「実は海で異変があってな。それを調査していたら、ハイエルフのいる天空郷へ行かなきゃいけなくなった。だけど、そこへ行くには竜種が跋扈ばっこする道を――」

「ちょっと待っててください!」

「お、おいっ」


 とりあえず主旨だけでも説明しようとしたら、途中でカインが消えちまった。

 しばらく待っていると、彼が装備を整えて現れる。


「準備してきました、デイル様。すぐに行きましょう」

「すぐに行こうってお前、いいのかよ?」

「ええ、大丈夫です」


 ”風の魔槍”にオーガ革の大盾を持ったカインが、ニコニコ笑って立っている。

 その身には、やはりオーガの革で仕立てたパンツと胸当てを着けている。

 妖精迷宮も踏破した、彼の完全装備だった。

 この装備をまとった彼にはオークの突進も通じないほどで、彼が”鉄壁のカイン”と呼ばれる所以ゆえんである。


 俺は念のためカインの親父さんに話を通したが、彼も快く了承してくれた。

 まあ、西部同盟の立役者に、いやとは言えないのは分かってるけどな。

 ちょっと顔がひきつってたけど、許してもらおう。




 それからカインを伴って、カガチの拠点へ戻る。

 するとそれを嗅ぎつけたサンドラが、すぐに駆け寄ってきた。


「おお、我が君。ようやく戻ったのか? 寂しかったぞ」


 腰まである豊かな青い髪を揺らして、サンドラが抱き着いてきた。

 竹を割ったような性格のわりに、けっこう寂しがり屋でかわいいところのある嫁だ。

 赤いビキニアーマーに包まれた肢体を、嬉しそうに押しつけてくる。


「おお、兄者ではないか、久しぶりじゃな。嫁御殿よめごどのは元気か?」

「ああ、お前も変わりなさそうだな」


 ついでのように挨拶されたカインが、苦笑しながら答える。

 まあ、この辺も平常運転だ。


「それで我が君、レミリアやチェインがおらぬが、どうしたのじゃ?」

「ああ、実は天空郷への道を見つけたんだが、厄介な場所らしくてな。最強メンバーを集めようと思うんだ」

「ほほう……それは楽しみじゃな」


 練達の剣士である彼女が、不敵に笑いながらそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ