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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
天空郷探索編
63/82

18.密林の古代都市

 最古のエルフ集落”アルブレイム”を求めて旅をしていたら、多数のエルフに囲まれた。

 聞けば彼らは、アルブレイムからの使者だという。

 そこで俺は”神代の証”だけでなく、妖精女王の権威まで利用して、アルブレイムに招かれることになったのだ。





 夜が明けると、戦士長アインデルの案内で、アルブレイムへと向かう。

 さすがに秘境で暮らす彼らだけあって、森林を踏破する速度は並みではない。

 しかし、こちらも鍛えた身だ。

 なんとか付いていくと、昼頃には目的地へ到着する。


「ここが我らの里だが、当然だが結界がある。お前を入れていいかどうか、確認してくるのでしばし待て」


 そう言って、アインデルと彼の仲間は消えてしまった。

 おとなしく待っていると、ユージンが話しかけてくる。


「な、なあ、あんたら、本当に凄い奴らだったんだな?」

「ん、どうした、急に? ユージンらしくもない」

「いや、こんなにも簡単に、ここへ来れるとは思ってなかったからさ……」

「そうだな、運が良かったよ」

「いや、運だけじゃないだろ。アインデルを前にしても、臆すことなく交渉できたからだと思う。すげえ使役獣もいるしな」


 昨晩、アインデルたちに見せるため、キョロとバルカンの実体を披露したのだが、それで俺のことを見直したようだ。

 別にバルカンの存在はそれまでも知っていたのに、キョロの雷がよほど凄く見えたのだろうか。


 昨日よりも少し遠慮したように、彼が続ける。


「なんかさ、俺なんかいなくても、たどり着けたんじゃないかって、思ったんだ」

「そんなことないさ。ユージンのおかげで、順調に来れた。助かったよ」

「そ、そうか?……それなら精霊との契約は、できるのかな?」

「当たり前じゃないか。そういう約束だろ。この里の人と話がついたら、契約させてやるから、楽しみにしておいてくれ」

「そうか……ヘヘヘッ、俺も役に立ったんだな」


 鼻の下をこすりながら、彼が嬉しそうに笑う。

 どうやら自分が役に立たなかったんじゃないかと、心配してたようだ。


 そんな話をしていたら、アインデルが老人のエルフを連れて戻ってきた。

 ユージンの里でも見た覚えのある光景だ。

 その老エルフが俺の前に立った。


「お初にお目に掛かります。この里の長を務めるイルメルドと申します。”神代の証”を持つお方のお名前を、お聞かせ願えますか?」

「これはごていねいにどうも。西からやって参りました、デイルといいます。訳あってこの証を預かることになりました。つきましては、天空郷について、お話を聞きたいのですが」


 予想外にていねいな出迎えに、こちらもていねいに返す。

 そして天空郷の名を聞いた長の表情が、一気に引き締まる。


「天空郷について、どこでお聞きになられたのですかな?」

「え~と、海底神殿と言えば、分かりますか?」

「いえ、残念ながら分かりませぬ。いずれにしろ、詳しいお話を聞きたいので、我が家へお越しくだされ」


 さすがに海底神殿のことまでは知らなかったらしいが、入場許可はあっさりと下りた。

 イルメルドの案内で結界を越えると、俺たちの前に想像を超える都市が現れた。

 巨大な石造りの建物が林立する、広大な都市空間が広がっていたのだ。

 しかし、そのくせ人の気配は乏しく、都市の規模に比して、わずかな人影が見えるばかりだった。


「凄く大きな町ですね。外からは全くうかがえませんでしたけど」

「ええ、強力な結界に覆われておりますからな。ただし、どんどん人も技も衰えて、その継続も困難になって参りました」


 長老が寂しそうに笑う。


「やっぱりそうなんですか? 大抵のエルフ集落でも、精霊術師は減る傾向にあるんですけど」

「やはり、他もそうなのですな。世代が新しくなるほどに、精霊との交信能力が衰えていくのです。これもおそらく、ハイエルフ様の血が薄れた結果なのでしょう」


 エルフ族最古の集落といっても、状況は他と変わらないらしい。

 俺たち普通のエルフは、ずいぶん前にハイエルフが世俗化した存在と言われている。

 能力の低い個体ほど繁殖能力は高いため、世代が進むうちにハイエルフとの差が広がってしまったようだ。

 その後もゆっくりと能力の衰退が進んでいるのだろう、という話だった。


 そんな話をしているうちに長老の屋敷に着いた。

 トンガの行政府並みに立派な建物だ。

 その一角の部屋へ通され、長老たちと向かい合う。


「さて、それではお話をうかがいましょうかな」

「はい。ことの起こりは、海中の異変でした」


 俺は人魚女王マーメイドクイーンから相談を受けたところから始め、海底神殿に至った経緯を話した。

 そして神殿で魔神族に会い、新たな管理者を連れてきてくれるよう、頼まれたことまでを説明する。


「ふーむ、そのような所でハイエルフ様がお亡くなりになっていたとは……そして天空郷の手がかりを求めて、ここまで参られたとおっしゃるのですな」

「ええ、いろいろな伝手をたどって、ようやくですよ」

「いえいえ、外の世界と関係を持たないここへたどり着くとは、さすがと言わざるを得ません。というよりも、その”神代の証”をお使いになれる時点で、デイル様は特別な存在なのでしょうな」

「いや、それほどのことはないと思いますけどね。いろいろと常識外れなことはやってますが」


 会ったばかりで持ち上げられて、ちょっと照れてしまう。

 そんな俺を微笑ましそうに見ながら、イルメルドが切りだした。


「ホッホッホ、それはおいておきましょうかの。して、デイル様は天空郷への訪問を希望されるのですな?」

「ええ、魔神族から依頼を受けてますから。ぜひ天空郷へ行きたいんですけど、可能ですか?」


 するとイルメルドが申し訳なさそうな顔で言う。


「残念ながら、我らには道を教えることしかできませぬ。そしてその道には様々な困難が立ち塞がり、外からの来訪を拒んでおるのです」

「そんなに険しい道なんですか?」

「はい、”竜の渓谷”と呼ばれるその道こそが、下界から唯一、天空郷へ至る道です。しかし多くの竜種と障害に守られたその道は、我らには到底、踏破は叶わぬ場所」

「”竜の渓谷”、ですか? そこへは空から飛んでいくとか、できないんですかね?」


 聞くだに恐ろしいその道を、空から越えられないかと聞けば、長老は首を横に振る。


「そのようなことを試みた者はおりませぬ故、分かりませぬ。しかし、竜の渓谷があるアジール山は竜種の巣窟。下手に見つかれば、総攻撃を受ける可能性が高いかと」

「あ~……それはやめといた方がよさそうですね」


 俺は即座に考えを切り換え、他の案を探す。


「こちらから行けないのなら、連絡を取る手段はないんですか? そもそもこの都市と天空郷の関係は、どうなってるんでしょう? 魔神族からは、天空郷を支える集落と聞いていますが」

「その認識で、おおむね間違っておりません。この都市自体がハイエルフ様の御業みわざで造られ、ここに住む我々には、彼らの望む物を提供する役目が課されております」

「その望みは、どうやって伝えられるのですか?」

「御用の際は、ハイエルフ様がこちらへお越しになります。あの方々は、転移の魔法が使えますので」

「なる、ほど……」


 さすがはハイエルフ、転移の魔法とか使えるのか。

 ひょっとしてバルデスにもらったこの転移の指輪も、彼らの作ったものじゃなかろうか。

 しかし俺は天空郷を知らないから、転移できないしな。


「今度、ハイエルフの方々がお越しになるのは、いつか分かりませんか?」


 そう聞いても、長老は首を横に振るばかり。


「分かりませぬ。むしろ最近、訪問が途絶えておりまして、どうなっているのかと心配しているほどです」

「う~ん……」


 行き詰まった。

 こうなれば、無理を承知で竜の渓谷に踏み入るか?

 そう考えていたら、長老にさとされた。


「そう深刻にお考えになりますな。こちらでも過去の記録を調べ、渓谷について情報を集めましょう。それを見たうえで、進むかどうか判断されてはいかがですかな?」


 するとレミリアとチェインがそれに同意した。


「旦那様、長老様のおっしゃることはもっともです。情報を集めてから考えましょう。場合によっては、最強メンバーを呼び寄せる手もあります」

「そうそう、下手な考え休むに似たりってね。ようやく天空郷への道が分かったんだ。少しは肩の力を抜きなよ」

「う~ん……そうだな。先のことはまたその時に考えるか。それでは長老、竜の渓谷について、調査をお願いできますか?」

「もちろんです。それから今晩は里の要人を集めて晩餐ばんさんを開きます。大したもてなしもできませんが、どうぞご臨席をお願いします」

「分かりました。お世話になります」


 とりあえずは、ここまで来れたことを喜ぶとするか。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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