17.アルヴレイムへの道
アルヴレイムを探す途上で野営をしていたら、多数のエルフに囲まれた。
さらにそいつらは、ここを聖地だという。
「ここが聖地だとは知らなかったな。ただ俺たちは、アルヴレイムってとこを探してるんだが」
「貴様ら、何者だ?」
男たちの警戒度が、一気に上がった。
何人かは弓を構え、ちょっとでも動いたら矢を放ちそうだ。
「俺の名はデイル。西の方からやってきた冒険者だ」
「冒険者とはなんだ?」
「あ~、この辺は人族と関わりがないから、通じないか。まあ、金と引き換えにいろんなことをする、なんでも屋って感じかな」
「……金で動く下賤の輩か。それで、貴様らの目的は?」
「ん~、その前に、あんたらの素性を知りたいな」
そう言うと、さらに周囲で殺気が膨れ上がった。
「貴様、自分の立場が分かっておらんらしいな」
「立場って、どんな?」
「おいっ、デイル。挑発するな!」
奴らの殺気にびびったユージンが、俺に黙れと言う。
しかしレミリアとチェインは俺の背中を守ってるし、キョロとバルカンも控えている。
俺自身も魔盾イージスを付けてるから、どうとでもなる状況だ。
でもユージンはそんなことは知らないから、びびるのも仕方ない。
「そんなに心配するなって、ユージン。俺も話し合いにきてるんだ。それじゃあ、あんた。これがなんだか、分かるか?」
そう言って俺は、徽章に魔力を通した。
ドクンッという感じで、いつもの波動が走ると、男たちの顔色が変わる。
「ま、まさかそれは、”神代の証”? 一体どうやってそれを。いや、そもそもなぜ証が機能している?……」
顔を蒼白にした男が、ブツブツとつぶやいてる。
どうにも認めたくないようだが、目の前の奴らは明らかにこの徽章の意味を知っている。
どうやら当たりを引いたようだな。
「”神代の証”の意味は分かってるみたいだな。事情を話すから、その辺に座ってくれよ」
「クッ、とりあえず話ぐらいは聞いてやろう」
男の指示に従って、エルフたちが臨戦態勢を解除する。
何人かは立ったまま警戒をしているが、例の長身の男が焚き火の向かい側に座った。
「それで、あんたの名は?」
「俺の名はアインデル。アルヴレイムの戦士長だ」
「へー、けっこう上の人っぽいね。それは好都合だ。あ、こっちはレミリア、チェイン、そしてユージンだ」
仲間を順に紹介すると、リスサイズのキョロが寄ってきて、俺の足をてしてしと叩いた。
「なんだよ、自分も紹介しろって? これは俺の使役獣のキョロ、あっちはバルカンだ」
「キュー」
「グルルルル」
するとアインデルが、意外そうな顔をする。
「本当に貴様らだけで、ここへ来たのか? この辺には他に集落もないし、狂暴な魔物も多いのだぞ……いや、それも”神代の証”があればこそか」
いい感じに俺たちの実力を勘違いしているようだ。
バルカンの正体を知ってれば別だが、彼は今、コンパクトなチビ竜形態になっている。
俺はその勘違いは訂正せずに、海底神殿の異変について説明した。
アインデルたちは疑わしそうな顔をしつつも、それを黙って聞いていた。
やがてひととおりの説明が終わると、彼が口を開いた。
「つまり、貴殿がたまたま海の異変を調査しにいったら、海底神殿にたどり着き、そこで魔神族に依頼されて、ここまで来たというのか?」
「ああ、そうだよ」
「にわかには信じられん話だな」
「でもこの”神代の証”は本物なんでしょ? そう邪険にせずに、協力してもらえないかな」
証を見せながら言うと、アインデルが苦々しい顔をする。
「そもそもそれがおかしいのだ。仮にどこかでそれを手に入れたとして、なぜ貴殿がそれを使える? それは天上人様にしか、使えぬはずのものだ」
「そんなの、俺だって知らないよ。たしかに俺が魔力を通した時だけ反応するけど、そういう場合もあるんじゃないの? こう見えても、迷宮を制覇したことだってあるし、その過程でドラゴンだって討ち取ったんだ」
俺が胸を張って答えると、彼が呆れた顔をする。
「ドラゴンだと? 大方、その辺の下位竜を倒した程度であろう」
「疑り深いな~。と言っても、話だけじゃ信じられないか」
彼の気持ちも分からないではないので、一緒にドラゴンを倒したレミリアに助けを求めた。
すると彼女はにっこり笑いながら、提案する。
「それならバルカンとキョロの実力を、見てもらえばいいのではありませんか?」
「ん~、それもそうだな。それが手っ取り早いか。ちょっとみんな、場所を空けてくれる?」
「今度は何をしようと言うのだ?」
ぼやくアインデルたちをなだめ、場所を空けたところでバルカンたちに命じる。
「バルカン、キョロ。戦闘形態」
(承知)
その途端、大きなトカゲだったバルカンが、見上げるようなワイバーンに変化した。
それだけでもアインデルたちが言葉を失っているのに、さらにキョロが追い討ちを掛ける。
(ウフフフフ、いっくよ~)
雷玉栗鼠に変化したキョロが、その場で雷撃をぶちかます。
ピシャーンと降ってきた雷撃が、近くの木立を引き裂いた。
ブスブスと煙を上げる倒木を見て、アインデルたちの表情がひきつる。
「これで少しは信じる気になった? こんなのはまだ、ほんの序の口だけど」
「き、貴殿らは一体、何者なのだ? 姿を変える魔物を使役するなど、おかしいではないかっ!」
「だから冒険者だって。一応、Sランクっていう最上級の称号も得ているけどね」
まあ、人族社会に縁のない彼らには理解できそうにないので、その後もいろいろ説得に努めた。
その中でふと思い出したので、聞いてみる。
「そういえば俺の持つ使役スキルは、ハイエルフの能力に似てるって、妖精女王に言われたことがあるな」
「なんだと? 貴殿は妖精女王とも付き合いがあるのか?」
「ああ、ここに来るまでの手がかりも教えてもらったし、こうしてガイドも付けてくれた」
すると猫妖精のナゴが、そこに現れる。
「我輩だニャ」
「け、ケットシー!」
「儂もいるぞ」
「フェアリー種!」
ついでにチャッピーまで姿を現したら、おもしろいように驚いてくれる。
けっこう、こういうのに弱いのかね、こいつら。
やがてアインデルたちが集まって相談を始めた。
さしずめ、俺の扱いをどうするか、迷っているのだろう。
そしてとうとうアインデルが、不満そうな顔で俺の前に立つ。
「よかろう、貴殿らをこれからアルヴレイムへ案内する。しかしくれぐれも、もめ事は起こさないようにな」
「了解。よろしく頼むよ」
さて、このまま天空郷へたどり着けると、いいのだが。
本作の前段である”迷宮探索は妖精と共に”が、2年連続でネット小説大賞の1次選を通過しました。
でも、2次を通る気がまったくしませんね。
一応、改稿してあるんですが……