16.遭遇
大陸中央部のエルフ里で、最古の集落”アルヴレイム”の情報を得た。
おまけにユージンという案内役まで付けてもらえることになり、希望が見えてきた。
「それじゃあ、行きます」
「うむ、気をつけてな」
「くそう……」
俺たちはエルフの長老に見送られながら、バルカンが抱える飛行箱で飛び立った。
当然そこにはユージンも同乗し、悔しそうな顔を見せている。
しばらく飛んで、ある川が見えてくると、ユージンから降下の指示が出た。
まだアルヴレイムには遠いらしいのだが、詳しい場所も分からず、空からは見つからないので、地道に歩いて探すしかないようだ。
それから川沿いに夕暮れまで歩き、適当な所で野営をした。
「そういつまでも腐るなよ、ユージン」
夕食後も面白くなさそうな顔をしているユージンに、話しかけた。
しかし彼は相変わらずの仏頂面で答える。
「別に腐ってなどいない」
「アハハ、そんな仏頂面しておいて、説得力がないよ」
「やかましい。元から不愛想なだけだ」
チェインに指摘されても、改まる気配がない。
そこで説得を諦めて、世間話でもすることにした。
「そういえばユージンは何歳なの?」
「チッ……俺は30歳だ。もっと敬意を払え」
「へー、そうなんだ。ユージンさんとでも呼べばいい?」
するとチェインが笑いながら首を振った。
「エルフで30なんて、まだまだガキだよ。ようやく独りで狩りに出られるようになったぐらいだろ?」
図星を指されたユージンが、苦々しい顔をする。
まあ、50歳を超えてるチェインからしたら、まだまだガキだろうな。
さすがにそれは指摘しないけど。
するとユージンが俺のことを聞いてきた。
「そういうお前は何者なのだ? あのような飛竜を使役し、”神代の証”を持つなど、あまりに異常ではないか」
「だからそれは説明したじゃん。俺は人族の大陸で育った、孤児のエルフだよ。たまたま使役スキルと仲間に恵まれたから、今はちょっとした顔になってるけどね」
するとチェインとレミリアが、笑いながらたしなめる。
「だからデイルさん、その程度の説明で済まそうとするから混乱するんだって」
「そうですよ。旦那様がどれだけの偉業を成し遂げてきたか、説明してあげるべきです」
「え~、そういうの苦手だからな」
面倒臭そうに言ったら、ユージンがムキになって聞いてくる。
「一体、お前が何をしてきたというのだ?」
「そうだねえ……まずデイルさんは海の向こうで、ある迷宮を制覇したんだ。しかも最終ボスであるドラゴンを倒してだよ」
「はあ? そんなことできるはず、ないだろう。馬鹿にするなっ!」
からかわれたと思ったのか、ユージンが怒りだした。
しかしチェインはまるで相手にしない。
「アハハッ、その程度で怒るから子供だってのさ。まあ、ドラゴンの話とか、たしかに信じにくいだろうけど、迷宮制覇も含めて本当の話さ。それで財をなしたデイルさんは、この魔大陸に渡ってきたんだよ。そして西部で横行していた人族の奴隷狩りをやめさせて、大陸西部の盟主的な存在になったんだ。西部同盟のデイルといえば、けっこう有名だよ」
「まだ俺を馬鹿にしているのか? そんな話があるはずなかろう。まるで夢物語ではないか」
「これだからもう。デイルさんが西部同盟をまとめ上げてから、すでに南や東とも付き合いが始まってるんだ。ちょっと調べれば、事実だって分かるよ。自分の世界に閉じこもってないで、情報を集めたらどうだい?」
「貴様、この俺を田舎者と愚弄するかっ!」
激昂して腰を浮かしかけたユージンを、レミリアが制止する。
「お待ちなさい。チェインは事実を言っているだけですよ。それを頭から嘘だと決めつけるあなたにも、問題があります」
「し、しかし、あまりにも荒唐無稽で……」
レミリアの紫色の瞳に射すくめられて、ユージンが腰を下ろす。
すると姿を消していたナゴが、ふいに現れた。
「たしかにデイル殿の逸話は信じにくいニャ。しかしデイル殿は妖精迷宮も攻略し、女王陛下にも信頼されるお方だニャ。あまり暴言を吐いていると、精霊にも見限られるので気をつけるニャ」
「な、猫妖精だと? しかも妖精迷宮を攻略したなんて……お前たち、どれほどの隠し玉を持っているのだ」
さすがにケットシーの出現には驚いたらしい。
ここでふと思いついたので、聞いてみる。
「そういえば、ユージンは精霊と契約してる?」
「ムッ……我らの里とて、そう多くの精霊術師がいるわけではないのだ。俺も研鑽を積めば、いずれできるとは思っているがな」
「要はまだ契約してないんだね。それなら、無事に集落を見つけられたら、お礼に精霊を紹介してあげるよ」
「なん、だと?……」
予想外の報酬に、ユージンが驚愕の表情を浮かべる。
しかしまだ半信半疑という感じだ。
するとチェインが楽しそうに同意する。
「ああ、それはいい。あんたも長老の命令だってだけじゃ、やる気にならないだろう。遠慮なく紹介してもらいな」
「……精霊の紹介など、本当にできるのか?」
「実際にあたしも紹介してもらったよ。あたしも生まれ故郷では、精霊術の才能はないって言われてたんだけどね」
そう言いながら、ちょいちょいとチェインが土魔法を披露した。
モコモコっと土の柱が立ち上がるのを見て、ユージンが目を瞠る。
「今のは精霊術なのか? しかもほとんど呪文らしきものがなかったぞ」
「ああ、あたしらの魔法は少し変わってるからね。そこまで教えてやる義理はないけど、精霊との契約ならいいんじゃないかい」
「ほ、本当にできるのか?」
「だから本当だって言ってるだろう。今ここにいない仲間の力が必要だけど、それはデイルさんがなんとかしてくれるさ」
「それならぜひ頼む! 精霊術師になるのは、一族の憧れなのだ」
ようやく信じる気になったユージンが、必死に頭を下げてきた。
やっぱりエルフにとって、精霊術師ってのは大きいんだな。
「ああ、ユージンには世話になるからな。楽しみにしといてくれ」
その後のユージンの態度の変化には、目を瞠るモノがあった。
いままでいかにも嫌々ついてきていたのが、率先して案内するようになったのだ。
おかげで旅程は順調に進み、3日ほどで目的地周辺に着いた。
ただしアルヴレイム自体はどこにあるか分からず、これから探し回らねばならない。
しかし野営の準備を整え、翌日の計画を話し合っていたら、思わぬ訪問者を迎えることとなる。
「おいおい、物騒だな」
「な、なんだお前たちは?」
「旦那様、前には出ないでください」
「ひょっとして、お目当ての集落の住人かい?」
気がつくと俺たちは、数十人のエルフに囲まれていた。
全員が弓矢や剣で武装し、殺気を隠そうともしていない。
やがてその中から、1人のエルフが進み出た。
長い金髪に青い目の、長身の男だ。
「貴様ら、この地がエルフ族の聖地だと知っての侵入か?」
ほほう、エルフの聖地ね。
新作の方もよければお読みください。
タイトル変更しました。
”エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~”
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