15.見つかった手がかり
バルデスから預かってきた徽章に俺が魔力を通すと、特殊な波動が生まれることが分かった。
何やらエルフに威圧感を与えるらしいので、身元証明には使えるかもしれない。
その結果を踏まえ、俺たちは天空郷の手がかりとなりそうな集落を探すことにした。
ちなみに妖精迷宮の入り口は、バッチリと転移できるように覚えてきた。
荘厳な泉があるから、覚えやすいんだよな。
セシルの故郷へも転移できるようになったし、着々と移動がしやすくなっている。
え? サキュバスクイーン?
あそこは近いからいいんだよ、別に。
猫妖精のナゴの案内で、目的の地域へ飛んだ。
しかしその範囲はあまりに広いので、またまた精霊の捜索網を利用させてもらう。
以前、奴隷狩りを探し出すために使ったあれだ。
「ふむ、こちらでエルフを見かけたとの情報があるニャ」
「了解。バルカン、あっちへ向かってくれ」
(承知)
バルカンに乗って飛んでいたら、精霊ネットワークにエルフが引っかかった。
ただちにその場所へ飛ぶと、じきにお目当ての人物が見つかる。
精霊ネットワークさまさまだ。
しかしガルダを降下させたら、エルフが逃げだした。
そりゃあ、そうだわな。
俺たちは彼の逃げ道を塞ぎ、対話を試みる。
「待ってくれ。警戒するのは分かるけど、まずは話を聞いて欲しい」
「貴様、何者だ?」
エルフの狩人らしき男が、キツイ顔でにらんできた。
俺は両手を挙げて、害意がないことを示す。
「俺の名はデイル。大陸の西部に住んでいる冒険者だ。今日は天空郷の手がかりを探しにやってきたんだが、何か知らないか?」
「天空郷? なんだそれは?」
「ハイエルフが住まう、伝説の場所らしいぞ」
他人事のように言ったら、怪しまれた。
だけど俺だってよく知らないんだから、仕方ないのだ。
「あいにくと心当たりはないので、もう行っていいか?」
「待て待て。じゃあ、これは知らないか?」
今度は胸元に着けた徽章を示して、聞いてみる。
しかし男は首を横に振るだけだ。
「そうか……それなら、これはどうだ?」
「クッ、な、なんだこれは?」
徽章に魔力を通すと例の波動が発生し、男が動きを止める。
まるで金縛りにあったように動かないので魔力を止めると、恐怖の目を向けてきた。
「き、貴様は何者だ? 今なにをした?」
「だから冒険者だって。とある事情で、ハイエルフを探さなきゃいけなくなったんだ。この徽章は、そのための預かりもんだ」
「まさかそれは、”神代の証”か?」
「ん? ”神代の証”って何? なんか知ってそうだね」
「俺も詳しいことは知らんが……」
男の話によると、それこそ神々が地上にいたほどの大昔、神に認められたハイエルフに、神の代理として与えられる印があったそうな。
その証を持つ者からは偉大な神威が発せられ、思わず頭を垂れてしまうほどだったとか。
もっとも、彼も長老から話を聞いただけで、見た者はいないらしいが。
「ふーん、そういう伝説が残ってるってだけでも、手がかりはありそうだな。ぜひその長老に会わせて欲しいんだけど」
「……しかし、今日会ったばかりの者を里に入れるわけには……」
「でも”神代の証”を持つ者を拒んだら、逆にまずくない? 長老に怒られると思うよ」
「うぐっ」
どうやらその可能性は高かったらしく、結局里まで案内してもらえることになった。
ちなみに彼の名はユージンというらしい。
彼に里の入り口まで案内してもらったが、さすがにそのまま入れてはくれない。
長老を呼んでくるから待てと言われ、仕方なく待っていた。
やがてユージンが、豊かなヒゲをたくわえた白髪の老エルフを伴って現れる。
あまり老いが姿に現れないエルフにしてあれってことは、かなりな高齢じゃなかろうか。
老エルフは落ち着いた動作で俺の前に立ち、静かに話しかけてきた。
「この里の長のトゥベルクと申します。なにやら、”神代の証”を持つお方かもしれぬと、お聞きしましたが」
「初めまして、冒険者のデイルと言います。訳あってハイエルフの手がかりを探しています。これはその証なんですが」
俺が徽章に魔力を籠めると、例の波動が発生する。
またユージンが血相を変えてる横で、トゥベルクは平然とそれを受け流し、俺の前で膝を折った。
「なるほど。儂も話に聞いただけでしたが、これがハイエルフの放つ神威というものなのでしょうな。ぜひ協力させていただきますので、なんなりとお申しつけください」
「ち、長老! よろしいのですか?」
「馬鹿者! あれほどの神威を目の当たりにして、まだ疑うか。ただちに里へご案内するのだ」
なんか拍子抜けするぐらいあっけなく、里へ入れることになった。
”神代の証”、すげー。
長老の家で、これまでの事情を説明した。
冥界とつながる海底神殿の管理者が不在で、神殿の機能が止まりつつあること。
冥界の瘴気が浄化されず、周囲に悪影響を及ぼしていること。
それを止めるには管理者を置く必要があるので、ハイエルフの手がかりを探していることまでを話す。
ヒゲをしごきながら聞いていた長老が、感嘆の声を漏らす。
「ふーむ、なるほど。それでデイル殿が動かれているわけですな」
「ええ、海の異変を調査するために海底神殿へ行って、そこで魔神族ってのに頼まれたんですよ」
「それはまたずいぶんと困難な依頼を受けましたな。しかしちゃんとこの里を突き止める辺り、さすがですな」
長老が訳知り顔でニヤリと笑ったので、俺は身を乗り出す。
「すると、やはり手がかりがあるんですね?」
「天空郷そのものではありませんが、そこへ至る手がかりならございます。少々、場所を変えましょうか」
長老に促され、近くの建物へ移動する。
その建物の中には棚が立ち並び、何かが保存されているようだ。
「ここは我らの書庫でしてな、古い記録などが保存されております」
長老は慣れた動作で移動し、とある箱の中を漁りはじめた。
やがて手のひらの4倍ほどの大きさの木札を取り出した。
「おお、これじゃこれじゃ。これにはこの辺りの地形が描かれております。そしてこの中に、エルフ族最古といわれる集落があるのです」
「最古の集落、ですか? ひょっとしてそれは、”アルヴレイム”という場所では?」
そこに描かれているのは地図とも呼べないような、簡易的な絵だった。
おおざっぱな山脈や川、そして何かを示す印と、意味不明な文字が刻まれている。
「はい、アルヴレイムと呼ばれております。我らの祖先はそこで生まれ、徐々に大陸中へ散っていったと聞きます。その集落が現存するなら、ハイエルフの手がかりも、そこにある可能性が高いですな」
「そこに無ければ、どこにあるのかって話になりますね。これはぜひ、行ってみる必要があるな」
「そうでしょう? しかしそこへの道は我らも正確には知りません。そこでせめてもの協力として、このユージンに案内させましょう」
いきなり案内にされたユージンが、狼狽する。
「な、そいつの案内ですか? なぜ俺が?」
「貴様が最初に会ったのも何かの縁じゃろう。先ほどの非礼の詫びとして、しっかりと奉公するのじゃぞ」
「ぐうぅ……」
ユージンがひどく悔しそうな顔をしているが、俺にとっては渡りに船だ。
しっかり働いてもらうとしよう。