5.ドワーフの町
サンドラたちの復讐が成就したのと時を同じくして、拠点の整備にも目処が付いた。
門扉はしっかりとした物に造り替えたし、建物の内部もそこそこ快適に暮らせるようになってる。
なので俺たちは、次の段階へ移行することにした。
次にやるのは拠点周辺の調査と、仲間たちの里帰りだ。
カガチ自体はすでに俺たちが押さえており、再建の準備は整ったようなものだ。
しかし王国から要求された調査内容には、周辺の地形や資源、魔物の分布情報なども入っている。
ただ拠点を再建しただけでは、植民地経営なんてできないからな。
そこでまずは周辺の調査を進めるのだが、これには経験を積ませる意味を含めて2軍メンバーを充てる。
彼らには周辺の安全確保を兼ねてバンバン魔物を狩らせ、周辺の地図も作ってもらう。
それと並行して、仲間の里帰りとネットワーク作りを進めるのだ。
最終的には奴隷狩りを阻止するという大きな目標があるが、そのためにも各集落を回ってネットワークを構築せねばならない。
仲間の故郷は広範囲に散らばっているので時間が掛かりそうだが、周辺調査と合わせてじっくりやるつもりだ。
まずは手始めに、ドワーフの町ガサルを訪問することにした。
同行メンバーは、レミリア、ガル、ガム、ケレス、シルヴァ、ドラゴ、バルカンになる。
ガル、ガムは家族と再会させてコネを作るためであり、ケレスは商売のための調査。
レミリアはまあ、副官だな。
最近の彼女は、自分のいない所で俺が危険に晒されるのが耐えがたいらしく、常に付き従おうとする。
彼女は強いし、いろいろと気が利いて助かるからいいだろう。
そしてドラゴには馬車を牽いてもらい、シルヴァは警戒役、バルカンは帰りの足だ。
トンガからガサルまでの道のりは、しっかり整備されていて順調だった。
いつもの馬車を偽竜に変身したドラゴが牽けば、歩くよりも倍は速い。
朝早く出発して、夕暮れ前にはガサルに着いていた。
その町はトンガに近いだけあって、なかなか大きな集落だった。
広大な町は頑丈そうな防壁に囲まれ、中には様々な種族が共存している。
トンガが人族にとって魔大陸の玄関だとすれば、ここは魔大陸住民にとって人族との接触点になるようだ。
そのためドワーフだけでなく、エルフや獣人の姿も多く見られた。
ちなみにこの町の名前は、大昔にドワーフを束ねた英雄から来ているらしい。
「ガル、お前の爺ちゃんの家の場所、分かるか?」
「うーん……やっぱ分かんねえだ。役に立たなくてすんません」
「気にすんな。大きな町だから、覚えてなくても仕方ない。とりあえず役所にでも行ってみるか」
まずはガル、ガムのお爺さんの家の場所を確認するため、この町の役所へ向かった。
そこで彼らの爺さんであるガランさんの住所を尋ねると、どこのガランかと聞かれてしまう。
同じ名前を持った人がたくさんいるからだ。
ガルたちの頼りない記憶から情報を伝えていくと、ようやくあそこのガランさんか、という話になった。
こうしてガランさんの住所を突き止め、そこのドアを叩くと、しばらくしてドワーフの女性が出てきた。
「あんた、誰だね?」
「婆ちゃん! おらだ、ガルだ」
「……ガルだって?……おやまあ、本当にガルじゃねえか。ガムもいるなあ。ひっさしぶりじゃあ」
その女性とガル、ガムが抱き合って喜ぶ。
「2人とも大きくなって……だどもガワンはどうしただ?」
「父ちゃんも母ちゃんも、3年前に病気で死んじまっただ。その後、このデイルさんが俺たちの面倒見てくれて、最近こっちに帰ってきたばかりなんだ」
「まあ、そうなのけ。本当にありがとうございます。こんな所で立ち話もなんなんで、どうぞ中へ」
お言葉に甘え、中へ入れてもらった。
あいにくとガランさんは仕事でいなかったが、じきに戻るらしいのでそれまで話をする。
ガルのお婆さんであるサリーさんとガランさんには、2人の息子がいて、上の息子さんは近くに住んでいるらしい。
ガランさんは大工で、上の息子さんは鍛冶師だそうだ。
そして下の息子さんであり、ガルたちの父親だったガワンは鍛冶師で、7年前に海を渡った。
何か新しい物を見たいと勇んで旅立ったはいいが、病気には勝てず、異国に骨を埋めることになった。
そして路頭に迷っていたガルとガムをシュウが面倒を見ていたところを、俺がまとめて雇った形になる。
ガルとガムは今年で12歳。
冒険者として目立った強さはないが、盾と槍で粘り強く戦えるようになった。
何より手先が器用で、家の修理や馬車の整備などに役立ってくれている。
そう言うと、サリーさんも喜んでいた。
そんな話をしているうちに、ガランさんが帰ってきた。
サリーさんが慌てて夕食の準備をしている間、ガランさんにも経緯を話した。
「そうか、ガワンの奴、子供を残して死ぬなんて情けねえ。しかしガルたちを助けてもらって、本当にありがてえです。この恩を返すためなら、なんだってさせてもらいますよ」
「いえ、そんなに感謝されるほどのことは。ガルたちを最初に助けたのはシュウっていう奴ですし、魔大陸に来たのも目的があってのことですから」
「そんなことねえだ、爺ちゃん。デイルさんは凄え冒険者なんだ。おらとガムも、迷宮で鍛えられて強くなったんだぞ」
「そうか、良かったなあ……それで、デイルさんはこれからどうするんで? ガルたちはうちで引き取ればいいですか?」
「いえ、彼らは有能な部下なので、これからも働いてもらいます。実は彼ら以外にもいろんな種族の仲間がいまして、その故郷を訪問したいんですよ。それで他の集落の場所を教えて欲しいんですが」
「ふーむ、儂が知っとるのは猫人族と狐人族くらいだ。この町の南に行けば猫人族、北に行けば狐人族の村があります」
「それです。ぜひ場所を教えて下さい」
幸い、猫人族と狐人族の集落までは分かりやすい道が通っていて、簡単にたどり着けることが分かった。
さすがに馬車で行けるような道ではないので徒歩だが、どちらも4日ほどで着くそうだ。
その晩はガランさんの家にお世話になった。
サリーさんの手料理をごちそうになりながら、魔大陸の話をいろいろと聞かせてもらう。
この魔大陸には多くのエルフやドワーフ、獣人、魔族、そして魔物が住んでいる。
その環境は獣人にとっても過酷なもので、各種族の人口はそれほど多くない。
しかしドワーフ族だけは20年前に帝国と友好条約を結び、人口が増えているそうだ。
元々、トンガもドワーフの集落のひとつだったのが、そこに帝国軍が襲来した。
そしてあっさりと占領されてしまったのだが、帝国はその後、魔物の対処に手を焼くことになる。
そんな中、とある帝国の官僚がドワーフに目を付けたそうだ。
ドワーフには、魔大陸で拠点を守る秘訣があるのではないかと。
さすがの帝国もガサルまで占領する余裕がなかったため、帝国が下手に出て話し合いが行われ、条約締結に至る。
その結果、帝国からドワーフ族に賠償金が支払われ、トンガへの移住も開放されたそうだ。
トンガではドワーフも協力して町造りが進められ、魔物に強い町として生まれ変わったという話だ。
さらにトンガとの交易でお互いに得意な商品を手に入れることができ、この町も繁栄を享受しているらしい。
おかげでここだけは人口が増えているが、他の集落はそうでもない。
むしろ若者がガサルやトンガに出ていったり、奴隷狩りに捕まったりするので減っているのが実状だそうだ。
「その奴隷狩りなんですが、けっこう多いんですか?」
「うーん、儂らは人族と条約を結んどるからほとんどないが、他はけっこうやられとるらしいですな」
「何かそれを阻止しようとする動きはないんですかね?」
「なにしろ魔大陸は広いし、種族ごとの連携もないから、うまくいっとらんようですわ」
「なるほど……」
やはり種族ごとの連携を高めるのが先決のようだ。
そのためにも他の集落を回って情報を集めよう。