14.妖精女王の援助
天空郷の手がかりを探していたら、”アルヴレイム”という里の名前が浮かび上がった。
おそらくエルフ族最古の里であり、天空郷とつながりのありそうな集落だ。
あいにくとそれ以外の情報がないので、俺は情報を求めて魔大陸を巡ることにした。
しかしその前に、身近な人にも聞いてみる。
「んまあ~、デイル様。お久しぶりですわね!」
「あ、ミレーニアさん、ご無沙汰してま~す」
ケレスのかあちゃん、夢魔女王のミレーニアだ。
久しぶりに彼女の家を訪ねたら、速攻で抱き着かれた。
おうふ、スイカップが俺の胸に。
なかなか離れようとしない彼女をレミリアが引きはがしてから、天空郷について聞いてみる。
「天空郷、ですかぁ? あいにくと私は存じませんわぁ」
「それならアルヴレイムは?」
「ん~……どこかで聞いたことがありますわね。なんの名前だったかしら?」
ミレーニアが小悪魔的に美しい顔をかしげ、考える素振りをする。
「エルフ族最古の里らしいです。全てのエルフ族の根源って話ですね」
「ああ、そういえばそんな話を、ティターニアさんとしたことがありますわ」
「妖精女王と、ですか?」
「ええ、茶飲み話のついでだったので、詳しいことは聞いてませんけど。彼女なら、何か知っているかもしれませんわぁ」
「参考になりました。ミレーニアさん」
「あら、それでしたらちょっと寝室へ……」
手を握って感謝したら、また寝室へ連れ込まれそうになった。
レミリアの殺気で頭が冷えなかったら、ヤバかったかもしれない。
だからレミリア、そんなに怒るなって。
俺はカガチへ戻って、猫妖精のナゴに妖精女王と連絡を取ってもらった。
俺の方からお邪魔するつもりだったのだが、彼女がすぐに転移で現れる。
せっかくなので、お茶でもてなしながら事情を説明した。
「まあ、海底神殿が止まっているの……」
「ええ、そうなんですよ。それで、そこに居合わせた魔神族に、ハイエルフの管理者を連れてくるよう、依頼されたんです」
するとティターニアが、清楚な美貌を曇らせて考え込む。
「なるほど。それで手がかりを探しているのね? しかしその天空郷については、私も聞いたことがないわ」
「それでは、アルヴレイムは? ミレーニアさんは、妖精女王から聞いたことがあると言ってました」
「ああ、それなら知っているわよ。エルフ族最古の集落ね」
「さすが! どこにあるか、分かりませんか?」
期待に身を乗り出して聞くと、ティターニアは首を横に振った。
「あいにくと場所までは知らないわ。でも、大陸中央部のエルフ族なら、何か知っているかもしれない。私も彼らから聞いたのだから」
妖精女王は妖精や精霊を統べるだけあって、エルフ族からは神のように崇められているらしい。
最近は無いが、ずいぶん昔には妖精女王の加護を得るため、妖精迷宮に挑むエルフたちもいたらしい。
そんなエルフ族の誰かから、アルヴレイムの噂を聞いたそうだ。
「なるほど。魔大陸の中央部が、エルフの起源になるんですかね?」
「私も詳しいことは知らないけど、その可能性は高いわね」
「分かりました。中央部のエルフ集落を、巡ってみたいと思います。申し訳ありませんが、場所だけでも教えてもらえませんか?」
「それならナゴに伝えておくから、また妖精迷宮に寄ってちょうだい」
「はい、必ず」
話が終わると、女王はナゴを連れて帰っていった。
俺も連れていってもらえると嬉しかったのだが、彼女の転移は妖精や精霊限定だそうだ。
俺はまたバルカンに乗っていくしかない。
しかしティターニアのおかげで、捜索範囲がずいぶんと狭まった。
おまけに案内まで付けてくれるんだから、感謝しかないな。
翌日、俺はバルカンに乗って、妖精迷宮へ向かった。
同行者はレミリアとチェイン、そしてキョロだ。
レミリアは当然のようについてくるし、キョロは護衛。
そしてチェインはダークエルフ代表って感じだ。
同族がいた方が、話が通りやすいかもしれないからな。
夕刻前に泉へ着くと、また戦鬼妖精のレヴィンが迎えにきた。
彼に案内されて女王の館へ赴くと、ティターニアが快く迎えてくれる。
「お疲れさま。今日はここで休んでいって」
「ありがとうございます。せっかくなので、甘えさせてもらいます」
その後、お茶を飲みながら、周辺の状況について聞いた。
おおざっぱな、地図ともいえないような絵図を見せて、ナゴが説明してくれる。
「我輩が調べたところ、この辺にいくつかエルフたちの集落があるようだニャ。精霊たちに協力を仰げば、見つかると思うニャ」
ここでチャッピーが口を挟んだ。
「そういえばデイル。おぬし、バルデスからエルフ絡みのモノを、預かっておらんかったか?」
「ああ、管理者の持ってた徽章を預かったな」
俺は懐から青い宝玉付きの徽章を取り出し、みんなに見せる。
「ハイエルフの管理者が、それを持っていたの?」
「ええ、死体から回収したものだけど、管理者の物らしいです。たしか、エルフの結界も越えられるとかなんとか」
「なるほど。ちょっと魔力を通してみて、デイルさん」
「はい」
女王に求められるまま、徽章に魔力を通してみた。
すると青い宝玉が光り、何か不思議な波動が発生したような感じがした。
すると女王が胸を押さえて、不思議そうな顔をする。
「今何か、特殊な波動を感じたわね?」
「はい、女王様。我輩も感じたですニャ」
「俺もです。何か、実に偉大な気配を感じたような」
「それだわ」
レヴィンの言葉に、ティターニアが大きくうなずいた。
「さっきのは太古の神々の気配に似ているの。ずいぶんと懐かしい感覚で、すっかり忘れていたわ」
どこか懐かしそうな顔で、彼女が言う。
「神々の気配を感じるということは、やはり神から何か託された者の証、ということですかね。バルデスも、これを持つ者は神に認められているので、協力が得られるはずだと言っていました」
「そうね、その可能性が高いわね。だけど、誰にでも分かるものでもなさそうだわ」
ここでチェインが口を挟んだ。
「あ、あのさ、今の波動であたし、凄くドキッとしたんだ。なんていうか、原初の記憶によって、ひれ伏したくなるような感じだった。たぶんエルフやダークエルフなら、無視できないと思う」
「そうなのか? 俺はそんなのなかったけど、自分の魔力だったからかな。チェインさん、試しに魔力を流してみてよ」
「ああ、いいよ」
そう言って徽章を受け取ったチェインが、魔力を籠めようとする。
しかし今度はなんの反応もなかった。
「あたしじゃダメみたいだ。ということは、デイルさんが特別なのかな」
「そうなのか?」
チェインから返された徽章に魔力を籠めると、またみんなが反応する。
特にチェインは胸を押さえ、あえいでいる。
「で、デイルさん、ちょっと心臓に悪いから、控えてくれないかい。やっぱりあんたは特別なんだよ」
「ふむ、2人が試しただけとはいえ、その可能性は高いわね。やはりデイルさんは、ハイエルフと何か関係が……」
女王が興味深そうな顔で考え込む。
しかしここで悩んでいても答えは出ない。
願わくば、今後の探索に役立つとよいのだが。
新作の方もよろしくお願いします。
新章へ突入しました。
”七王召喚!~無能エルフが祖国を最高するまで~”
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